第3話 天界の者たち

 よく似た顔の少女が、向き合う形で見つめ合う。

 ナルハはゆっくりと口を開いた。

「……そう。既に、門の守護者同士が会っていたのね……」

 その呟きに、魔王が笑みを浮かべた。

「だから言ったでしょう?所詮、ただの言い伝えだと。さあ、では行くわよ。天界を落としてちょうだい」

 魔王の言葉を聞いて、ナルハは魔王の顔を見つめていたが、すぐに視線を外すと声を張り上げた。

「私は、魔界の門の守護者、ナルハ!天界を、我が魔王様の手中に収めさせてもらう!」

 その言葉に、エルエは目を見開いた。

「門の、守護者?……何を考えているの!?」

「エルエちゃん!」

「絶対にここは通さない。リナ!行くわよ!」

 エルエの言葉に、リナが颯爽と飛び出す。

「そうこなくっちゃ!私達を舐めないでよね!」

「ナルハ様の邪魔はさせない!」

 リナに立ち向かうように、イートも飛び出し、ついに戦いが始まった。

「イート、そっちは任せた。……天界の門の守護者!ここは通してもらう!」

「お断りよ!」

 ナルハの激しい魔法攻撃に、エルエは防衛一方ではあるものの、ほぼ同格の戦いが繰り広げられた。

 それを後方から眺めている魔王は、ただただ楽しそうに笑みを零している。

「ふふっ、古の伝承はどう作用してくれるのかしらね。ねえ?姉さん。このままだと世界が滅びてしまうかもしれないわ。ほら、早く止めてみせて」

 そう言って声を上げて笑う。

 そんな声が届かないであろう前線では、リナとイートが、エルエとナルハが、激しくぶつかっている。

「強引に行かせてもらうわ!」

 ナルハは声を張り上げながら、無理に手を伸ばし、エルエの手首を掴んだ。

 と、同時に、二人の足元が光り始めた。

「えっ!?」

 驚いた声を上げるナルハと、同じように驚いた表情で足元を見るエルエ。

「ナルハ様!」

「エルエちゃん!?」

 今まで戦っていたイートとリナも、思わず二人に駆け寄る。

 ナルハとエルエも、それぞれに手を伸ばしたものの、二人の姿は光に包まれ、消えてしまった。


 エルエは気付いたら、尻餅をついたようで、「いったぁ」と呟きながら目を開けた。

 すぐそばで、同じようにお尻をさすっているナルハもおり、思わず視線が合ってしまったが、ナルハはスッと視線を逸らした。

「どうなってるの?」

 ゆっくり立ち上がるナルハに続くように、エルエも立ち上がると、後ろから名を呼ばれた。

「エルエ」

 振り向くとライカがおり、エルエは目を見開いた。

「ライカ様!」

「二人とも、怪我はありませんか?」

 ライカの言葉に、ナルハは警戒して一歩下がった。

 エルエは「大丈夫です」と答えるが、ライカの後ろに一人の女性を見つけ、思わず声を上げた。

「えっ!?神様!?」

 その声に、神は気まずそうに視線を逸らすが、ゆっくりと手を挙げた。

「す、すまない。慌てて転移魔法を使ったから。……怪我がなくてよかった」

 申し訳なさそうに謝罪する神に対し、ナルハはハッと目を見開いた。

「あ、れが……神?」

 呟きと同時に、ナルハはぐっと眉を寄せた。

「魔王様のために、あなたを倒す!!」

 そう叫んで神に駆け寄るが、それよりも先にライカが間に入った。

 すぐに結界を張り、ナルハはそれ以上進めずにいた。

「まあ、そう焦らずに。私たちの話でも聞きませんか?」

「はあ!?こっちは話すことなんてないけど!」

 ナルハが声を荒げるが、ライカはにこにこと笑顔を浮かべており、その有無を言わせない姿に、ナルハは思わず黙ってしまった。

 それをよしとしたのか、ライカは神に振り向くと「お願いします」と述べた。

 さすがのそれには、神もぎょっとした様子でライカを見る。

「お、オレが言うのか?」

「ええ、もちろんです。私たちの代表ですし、こういう大事なことはあなたの口から言うべきでしょう」

 やはり、有無を言わさないニコニコとした笑顔で、神も「うっ」と呻き声上げている。

 最早、どっちが上かわからないが、ライカを怒らせると怖いことを知っている神は、一度大きな溜め息をつくと、ゆっくりと深呼吸した。

「……お前たちが大きくなったから、話すべきだよな」

 そうぼやいてから、神はエルエとナルハを見据えた。

「もう、察していると思うが……お前たちは双子だ。そして、ナルハ。お前も本来は天界の者だ」

 その言葉に、ナルハは目を見開いた。何か言わねばと口を開くが、発する言葉が見当たらず、はくはくと動かすことしかできない。

「二人とも一緒に、何事もなく平和に暮らしていたが……魔王によって引き離されたんだ」

 神は昔を思い出すように、視線を迷わせる。

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