第131話 冒険者ジル、最大の冒険03
翌朝。
さっそく森に入る。
ここからは長丁場だ。
みんなそのことをわかっているのか、ガンツのおっさんを先頭に無理のない速度で、しかし、確実に森の中を進んでいった。
進むこと2日。
野営の準備をみんなに任せ、私はさっそく魔素の流れを読む。
周囲を丹念に探っていくと、少し先に淀みがあるのが分かった。
さっそく地図を広げて、
「この辺りよ」
と大まかな位置を指し示す。
「…なるほど。急げば昼過ぎには着くな。よし、明日は少し早めに行動して一気に片付けよう」
というアインさんの指示に全員がうなずいて、その日は早めに休息をとった。
翌朝。
日の出を待ってさっそく行動に移る。
やや足早に、しかし、慎重に歩を進めていくと、目的地のすぐそばでゴブリンらしき痕跡を見つけた。
集団はやや大きいようだ。
それを見て私は、
「どうする?」
とアインさんに聞く。
するとアインさんは、
「一気に片を付けよう」
と事も無げにそう言った。
「了解。じゃぁ、聖魔法で弱体化させるから、みんなはトドメを刺して」
と言って、さっそく慎重にゴブリンがいる場所へ近づいていく。
そして、私が一気に聖魔法を展開すると、みんなが一斉に飛び出していった。
「…なんていうか、戦闘っていうより作業だな」
と、ゴブリンの掃除が終わりガンツのおっさんがつぶやく。
「いいじゃない。楽できたんだから」
とサーシャさんが言い、アインさんも、
「ああ。こんなところで無駄な体力を使わずに済んだんだ。感謝しておけ」
とサーシャさんに賛同して、私に、
「助かった」
とひと言お礼を言ってくれた。
「たいしたことじゃないわ」
とやや照れ隠し気味に言って、
「じゃぁ、お洗濯するわね」
と言ってさっさと辺りを浄化する。
「うふふ。ありがとう」
とサーシャさんが嬉しそうに微笑みながらお礼を言ってくれるのにまた少し照れると、
「さぁ、綺麗になったし、とっとと奥に進みましょう」
とみんなに声を掛けて、私たちはその場を後にした。
それからも順調に進むこと2日。
また、魔素の流れを読む。
すると、近くに感じた淀みの先になにやらまた淀みがあるような気配を感じた。
(…点在してる?)
と、なんだか嫌な予感を覚えつつ、みんなにそのことを伝える。
「なるほど。厄介だな」
「ええ。当たり前だけど油断できないわね」
と言うアインさんとサーシャさんに、
「とりあえず、近くに感じたのはこの辺りよ」
と地図を指し示しながら、
「次に引っかかったのは、こっちの方ね」
と言うと、アインさんが、
「…目撃のあった方向に続いているな」
と重々しい表情でそう言った。
ややあって、アインさんが、
「とにかく、次の淀みってやつまではそう遠くない。まずはそこを目指そう。ジルの言う通り、その淀みってやつが点在してるというなら、途中も油断できんだろう。気を引き締めてかかってくれ」
と言う言葉に全員でうなずく。
そして、私たちはその日も緊張の中、交代で体を休めた。
翌日。
小休止を挟みながら進み、昼過ぎ。
淀みの中心と思しき所に辿り着く。
「よし、やってくれ」
というアインさんの言葉を受けて、私がさっそく浄化の作業に取り掛かろうとした時。
こちらに近づいてくる気配に気が付いた。
「まかせろ!」
というガンツのおっさんの声を信じて、薙刀を地面に突き刺す。
そして、一気に聖魔法を展開し、浄化を始めると、ややあって私の後から
「ギャン!」
という狼らしき悲鳴が聞こえた。
私の前方にアイカが立ち、盾で狼を捌く。
次に弓と魔法の気配がして、その狼は一瞬にして沈黙した。
その後も、戦闘の音が響く中私はさっさと浄化を終わらせる。
そして、みんなと一緒にトドメを刺して狼を片付けるという作業に加わった。
「けっこう多かったな」
と、アインさんがうず高く積まれた狼の魔物の群れを見ながら、腰の辺りをトントンと叩く。
「50くらいかしら」
とサーシャさんも肩の辺りをさすりながら苦笑いを浮かべてその山を見た。
「焼きますね」
とユナが言って、その狼の魔物の山が灰になっていく。
その様子を見ながら、ガンツのおっさんが、
「ちっ。次は食える魔物に出て来てほしいぜ」
と不謹慎なことを言った。
「まったく…」
とサーシャさんが呆れたような表情でつぶやく。
アインさんも、苦笑いを浮かべて、
「ガサツがすぎるぞ」
とひと言注意をした。
「…おう」
とガンツのおっさんが一応反省したような顔を見せる。
そんなガンツのおっさんに向かってアイカが、
「あはは。気持ちはわかるけどね」
と言って、その肩をパンパンと叩いた。
「…ちっ」
とガンツのおっさんが不機嫌を装って舌打ちをする。
私はその様子を苦笑いで見つめ、
「とりあえず先に進みましょう」
とみんなに声を掛けた。
しばらく進み、西の空が赤く染まり始めたのを見て野営にする。
やがて、私が魔素の流れを読み終え、みんなのところに戻ると、アインさんが、
「次までどのくらいだ?」
と聞いてきたので、
「この辺りね」
と大まかな場所を指し示した。
「なるほど。微妙な距離だな…」
「ええ。無理すればいけないこともないけど…」
「ああ。だが大物との夜戦は避けたい」
「そうね。じゃぁ手前で一泊しましょう」
「そうだな」
とアインさんと軽く打ち合わせをして、食事にする。
ユナが作ってくれたスープを飲みながら、
(ガンツのおっさんじゃないけど、確かにそろそろ新鮮なお肉が食べたいわね)
と私も少しだけ不謹慎なことを思ってしまった。
翌々日の朝。
目的地に向かって歩を進める。
目的地は草原。
見通しが良いが、こちらも見つかりやすい。
そんな中を私たちは慎重に進み、やがて淀みの中心らしき場所に到達する少し前。
「来るわよ!」
とサーシャさんが叫んだ。
振り返ってサーシャさんとユナの視線の先を見ると、上空2つの影がある。
(大鷹…いや、ワイバーン!?)
と驚き、慌てて薙刀を構えた。
「一撃じゃ無理。落ちたら頼むわよ!」
というサーシャさんの声に、アインさんとガンツのおっさんが、
「「おう!」」
と応じ、戦闘態勢を取る。
私たちもいつでも動けるように身構えた。
「あっちはお願いね」
とサーシャさんがユナに声を掛ける。
「はい!」
とユナも応じて、2人の魔力の気配が高まった。
ワイバーンが突っ込んでくる。
サーシャさんがユナに、
「焦らないで。引き付けるわよ」
と声を掛け、ユナもそれに、
「はい!」
と応じた。
ワイバーンの影が大きくなるごとに私たちの緊張が増す。
ガンツのおっさんとアイカが、いざという時に備えてサーシャさんとユナの前に陣取り盾を構えた。
「今!」
「はい!」
という声とともに一瞬の閃光が走り、ものすごい勢いで魔法が放たれる。
「グギャァ!」
と醜い声がして、2匹のワイバーンがそれぞれ別々の方向へと落ちて行った。
「俺たちは右だ!」
と言って、アインさんとガンツのおっさんが駆けていく。
「私たちも行くわよ!」
とベルが声を掛けると私たちはまっすぐ左に落ちたワイバーンの方へと走った。
「ギャァッ!」
と鳴きながらジタバタとしているワイバーンに近寄り、まずはアイカがその尻尾の攻撃を受け止める。
その隙にベルが突っ込み尾の先端をスパっと一撃で斬り落とした。
私も突っ込んでいって、胴を狙う。
聖魔法を纏った私の薙刀はスッと音も無くワイバーンの腹に刺さった。
そのまま引き裂くように薙刀を振るう。
また、
「ギャァッ!」
と声がして、ワイバーンが大きく翼を叩きつけてきた。
私の横からアイカが飛び出してきてそれを受け止める。
その隙を突いて、今度はベルが突っ込み、その翼を根本から斬り落とした。
「ギャァッ!」
と鳴いて、ワイバーンがのけぞる。
今度は私がその脚を斬り払うと、そこでほとんど勝負が決まった。
体勢を崩したワイバーンがドサリと音を立てて地面に突っ伏す。
その瞬間、ベルがその首元を一閃して、ワイバーンは沈黙した。
「お疲れ様」
と言いながら、ユナがこちらに歩み寄ってくる。
私たちはそれを出迎え、
「ありがとう」
と言いながらみんなでハイタッチを交わした。
「あっちも終わったのかしら?」
と言って、アインさんたちの方を見る。
すると、あちらはあちらでハイタッチを交わしているのが目に入ってきた。
「うふふ。今夜は焼肉食べ放題ね」
とユナがアイカに声を掛ける。
「うん!しかも極上肉!」
とアイカも嬉しそうに答えて、
「さっそく解体しちゃおう!」
と、張り切って解体用のナイフを抜いた。
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