第126話 再び王都での休日01
リッツフェルド公国の東の端を巡る大冒険が終わり楽しい帰路を進む。
そんな旅が十数日も続いた頃。
昼過ぎ。
私たちはようやく王都の門をくぐった。
「待ちに待った打ち上げだね!」
と嬉しそうなアイカに向かって、
「ええ。ついでだし、武器の整備もお願いしちゃわない?」
と言って、数日滞在することを提案する。
「賛成!」
とアイカが元気に返事をして、ユナも、
「そうね。チト村で待っていてくれるみんなには少し申し訳ないけど、少しのんびりしたいわ」
と苦笑いを浮かべながらそう言ってきた。
「ベルはどう?」
と、なんだかぼんやりしていたベルに聞く。
ベルは一瞬びっくりしたような感じの表情を見せたが、すぐに、
「ええ。問題ないわ」
といつものように淡々とした口調で言うので、
「じゃぁ、決まりね」
と言って、まずはバルドさんの武器屋に向かった。
「やってる?」
と声を掛けながら、バルドさんの店に入る。
すると、奥から、
「うちは居酒屋じゃねぇぞ!」
といういつものダミ声が聞こえて、バルドさんが出てきた。
「ん?お前らか。最近ご贔屓だな」
と、やや皮肉な言い方をしてくるバルドさんに、
「大物が多かったのよ」
と苦笑いを返す。
するとバルドさんは、
「へっ。あんまり無茶するなよ」
と意外にも優しい言葉を返してきた。
(うふふ。なんだかんだいって、悪いのは口と人相だけなのよね)
と思って微笑みつつ、武器を渡す。
バルドさんはそんな私の表情を見て、ひと言、
「けっ」
と悪態を吐くとさっそく私たちの武器を観察し始めた。
「なんだ?オークにでも会ったか?」
と盾を見ながら、ズバリと言い当てるバルドさんの観察眼に、
(さすがね)
と思いつつ、
「ええ。あと、大鷹もいたしライオンも牙豹もいたわよ」
と答える。
すると、バルドさんは驚いた顔をして、
「ちょいと丹念に仕事をする。5日くれ」
と言うと、さっさと奥へ引っ込んで行ってしまった。
いつもの安宿へ続く道をのんびり歩く。
「さて、どうしよっか?」
とみんなに聞くと、ユナが、
「うーん。宿でのんびりしてもいいけど、ちょっとお茶でもしたいわね」
と言ってきた。
「あ。じゃぁ、あそこ行こうよ。ほら、市場からちょっと奥まったところにある喫茶店」
というアイカの言葉に私が、
「いいわね。たしか、あそこってお昼からビールが飲めるのよ」
と答えると、
「えー。ビールはお風呂の後っていうか打ち上げまでとっておいてよ」
と言ってアイカが笑う。
私は自分の呑兵衛加減が少しだけ恥ずかしくなって、
「そうね。おとなしくケーキにしておくわ」
と照れながら答えた。
さっそく宿で部屋をとり、その喫茶店に向かう。
おそらくアイカのお目当てはジャンボパフェだろう。
そう思ってその喫茶店に入ると、案の定アイカは真っ先に、
「ジャンボパフェひとつ!」
と元気に注文を出した。
私たち3人は、おススメだという季節の果物が乗ったタルトを注文する。
そして、明るい笑顔の店員さんによってお茶と甘い物が運ばれてくると、楽しいお茶会が始まった。
下町の飾らない喫茶店でおしゃべりに花を咲かせる。
みんなで笑いながら食べるタルトはいつもの何倍も甘い気がした。
甘いものとおしゃべりを堪能し喫茶店を後にする。
そして私たちはいったん宿に戻ると、次に銭湯に向かった。
「ふいー…」
「ぬっはぁ…」
「はぁ…」
「ふぅ…」
と4人それぞれに声を漏らし、ゆったりと湯船に浸かる。
「いやぁ、たまりませんなぁ…」
とアイカがまるでおじさんみたいな感想を漏らした。
「うふふ。アイカったら、ジルのおじさんっぽさがうつっちゃったの?」
とユナが笑い、私が、
「なによそれ」
とつっこむ。
すると、ベルが、
「うふふ」
と小さく笑ってそこからはみんなでぽつぽつと世間話をしながらのんびりとお風呂を楽しんだ。
銭湯から出て、
「さて。お待ちかねの打ち上げね」
とみんなに声を掛ける。
「やったー!もうお腹ペコペコだよ」
と言うアイカに、
「…あんなに大きなパフェを食べたのに、よく入るわね…」
とユナが感心したような、呆れたような声でツッコミを入れた。
「ふふっ。すごいわね」
とベルも苦笑いを浮かべている。
私も笑いながら、
「あはは。何にする?」
と聞くと、アイカが、
「うーん…」
と少し考えた後、
「もつ鍋なんてどう?」
と絶妙な提案をしてくれた。
確かにあれならご飯をたくさん食べたいアイカもお酒を飲みたい私たちにも合う。
私はそう思って、ユナとベルに視線を送ると、2人もうなずいて、その日の打ち上げはもつ鍋に決定した。
さっそく、その手の店がある職人街の方へ足を向ける。
(私たちって何気に職人街に行くことが多いわよね…。やっぱり職人さんと同じように体が資本の商売だからかな?)
とぼんやり考えながら歩いていると、狭い路地にそれらしいお店があるのを見つけた。
「あ。あそこなんて良さそうじゃない?」
「うん。適度に汚れた感じがそれっぽい」
「ふふっ。たしかに、昔からやってそうではあるわね」
「あ。けっこう人が入ってる。期待できそうだね!」
と言葉を交わしてさっそくその店に入る。
「いらっしゃい!」
と元気に出迎えてくれたおっちゃんに、
「ビール4つ。あともつ鍋4人前ね」
と先に頼んでさっさと席に着いた。
ガヤガヤと陽気な店の中で年季の入った机を囲みビールと鍋を待つ。
やがて、ビールがやって来ると、
「「「「乾杯!」」」」
と声をそろえて、ジョッキを大きく傾けた。
「「「「ぷっはぁ!」」」」
と、また声がそろう。
「やっぱりお風呂上りはビールよね」
と私がつぶやくと、
「あはは。そうだね」
「うふふ。鉄板よね」
「ええ。間違いないわ」
とみんなの意見が一致して、私たちはまたジョッキを傾けた。
やがて鍋がやって来る。
とりあえずビールのお替りとアイカの分の大盛りご飯を頼んで、さっそく鍋に箸をつけた。
「ぷりぷり。しゃっきしゃき!」
というアイカの擬音だけの感想にみんなうなずく。
(この店何気に当たりじゃない!すごいわ。何の出汁かわからないけど、すっごく濃いうま味…)
と感心しながら食べ進め、さっそくやって来たビールをグビっとやった。
先程の喫茶店とはまた別の種類の話に花が咲く。
冒険の話や稽古の話。
そんな仕事の話が話題の中心になった。
そんな中、チト村での生活の話になる。
どうやら最近ベルが料理に興味を示し出したらしい。
「へぇ。どうしてまた?」
と聞くと、ベルは少し顔を赤くしながら、
「…特に理由は無いわ。なんとなくよ、なんとなく」
となんだか照れくさそうにそう言った。
私はそんなベルを見て、
(やっぱり美味しい物を食べると自分でも作りたくなるものよね…。あと、最近は冒険中のご飯もずいぶん美味しくなったからその影響かな?)
と考え、
「いいことじゃない。やっぱり料理っていうか食べることは生活の基本だからね」
とその前向きな挑戦を応援するような言葉を掛ける。
するとベルはまた少し照れたようで、
「そうね。頑張るわ」
とだけ答えて、ビールを一気にぐびりと飲んだ。
「…ぷはぁ。お替り!」
と珍しく勢いよくお替りを注文するベルに対抗したわけじゃないが、
「あ。こっちも」
と私もビールを注文して、ジョッキに少し残っていたビールをさっと流し込む。
その後も打ち上げは楽しく続き、最後はラーメンで〆てその店を出た。
「ふぅ…。さすがにお腹いっぱいだよ」
と満足げにお腹をさするアイカに、
「あはは。結局ご飯もお替りしてたもんね」
と苦笑いでツッコミを入れる。
何度見てもアイカの食べっぷりは気持ちがいい。
そんなことを思いながら、私もかなり満足したお腹を抱えてふわふわとした足取りで石畳を叩いた。
晩春の温んだ空気におぼろ月が揺蕩っている。
そんな空を見ながら、私は、
(さて、明日からどうしよう?)と考えたが、やっぱり、
(…うーん。まぁ、明日考えればいっか)
と思っていろいろ考えるのをやめた。
ぼんやりとした月をぼんやりと眺めながら、ぼんやりと歩く。
思わず、
「風流だねぇ…」
とつぶやいてしまた。
「あはは。なにそれ」
とアイカが笑う。
「うふふ。本当におじさんみたいだわ」
とユナが笑うと、ベルも、
「あははっ」
とお腹の辺りを抑えて笑った。
「んもー…」
と照れながら抗議する。
みんなの笑顔はまだ終わらない。
私も仕方なく苦笑いをした。
楽しい夜が終わる。
そして、また楽しい明日がやって来る。
私はそのことがなんとも嬉しくてまた微笑みながら、また、ふわふわとした足取りで下町の石畳を軽やかに蹴った。
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