第124話 それぞれの成長02

3日目の朝。

出発前に魔素の流れを読む。

どうやら、淀みがあるようだ。

(この森の状況って思ってたよりも深刻だったんじゃないかしら…)

と思いながら、その場所を地図で確認してみた。

どうやら場所は深い森になっているらしい。

「油断できないわね。痕跡と気配にはいつも以上に気を付けましょう」

とみんなに告げ、進んで行く。

進むにつれ、徐々に空気が重たくなっていった。


しばらく進み、

(そろそろ近いわね…)

と思った時、先頭を歩いていたアイカが立ち止まる。

「ちょっと大きいかもよ」

と言うその視線の先にはおそらく大型のネコ科のものだと思われる足跡がくっきりと残されていた。


「おそらく縄張りの中ね…」

とユナがつぶやくのに、みんながうなずいて慎重に歩を進めていく。

少しでも有利な場所で戦いたい。

そう思って、注意深く周りを観察しながら歩いた。

やがて、ほんの少しだが、木がまばらな場所に出る。

しかし、周りは濃い藪に覆われていて、見通しが利かない。

「どうする?」

と聞いてくるベルに、

「もう少し開けた場所まで誘い込めれば…」

と言った瞬間私たちの周りで何かの気配が動いた。

「ちっ」

と誰かが舌打ちをして全員が態勢を整える。

ユナを中心に3人が護衛に付く形を取った。

ユナが油断なく弓を構える。

じりじりとした時間が過ぎ、

(そろそろ焦れて動いてくれないかしら…)

と思った瞬間。

私の後で気配が動いた。

素早くそちらを見ると、すでにベルが動いていた。

大きな牙を持った豹の魔物とベルがすれ違う。

そして、次の瞬間。

豹の魔物の胴体だけが、ユナの前にドサッと音を立てて滑りこんできた。

「わぁお」

とアイカが呑気な感想を漏らす。

私の視線の先でゆっくりとベルが残身を解き、こちらを振り返った。

ベルの表情は普段とあまり変わっていないように見える。

しかし、私にはどこか満足げな表情をしているように思えた。


「やったね」

とベルに声を掛け、

「ええ」

と答えるベルとハイタッチを交わす。

みんなもその輪に混ざって全員がハイタッチを交わすと、ベルがさっそく魔石と牙を剥ぎ取り始めた。

剥ぎ取りが終わり、

「本当なら皮も取りたいんだけど…」

と漏らすベルに、

「仕方がないよ」

とアイカが苦笑いで返す。

そして、私が手早くその場を浄化すると、私たちは、次の村の位置を確認して、そちらに足を向けた。


野営を挟み4日ほど歩いただろうか。

夕方前になってようやく次の村に到着する。

私たちは遅くに申し訳ないと思いながらも村長宅を訪ね、その日の宿をお願いした。


翌朝。

さっそく浄化の魔導石を見せてもらう。

村長は作物の異常は無いと言っていたが、流れ込む魔素の量がやや少ないように思えた。

馬たちとふれあい、少しゆっくりさせてもらった後。

お昼をいただいてから森に向かう。

普段から村人が使っている道を軽快に歩き、その日はまだ村人が普段から出入りしているような場所で野営することになった。


割とのんびりとした気持ちでスープカレーを食べながら、

「ちょっと魔素の流れ込みが少ないように感じたわ」

と告げる。

「うーん…。やっぱり異常があるって考えた方がいいよね?」

と言うアイカにうなずいて、

「なんだかこの辺りの森の状況って最初に思ってたよりも危険かもしれないわ」

と私が感じていることを伝えた。

「気を引き締めて行かないといけないわね」

「ええ。浅い所でも油断せずにいきましょう」

というユナとベルの言葉にもうなずいて、その日は早めに体を休めた。


翌朝。

さっそく森の奥を目指す。

丸一日進み、夕方。

魔素の流れを読むと、やや遠くに淀みがあるのが感じられた。

地図をみながら距離を確認し、

「無理をすれば行けるかもしれないけど、明日はまだ手前までって所かしら…」

と、なんとなく見立てる。

「そうね。無理は良くなさそうね」

というユナの言葉で、次の日は淀みの中心よりもやや手前まで進むことにした。


翌日も早朝から行動し、夕方前。

念のために魔素の流れを読む。

もう中心はかなり近い。

私がそのことを伝えると、みんなうなずき、当初の計画通り、そこで野営の準備に取り掛かった。

簡単に行動食をお腹に入れ、交代で休む。

明日はいよいよ、もしくは、ここで何かが出て来てもおかしくない、という状況で私たちはその夜を緊張のうちに過ごした。

翌朝。

ほんの少しの疲れと、これからだという興奮とが入り混じったような気持ちで行動を開始する。

淀みの中心は近い。

私たちは魔物の痕跡に注意しながら慎重に歩を進めた。


やがて、痕跡を見つける。

ゴブリンだ。

ほっとしていい相手では無いが、やや落ち着いて対応できる相手と言えるだろう。

しかし、油断はできない。

そう思って私は、

「油断せずにいきましょう」

とみんなに声を掛け、その痕跡を追っていった。


やがて、ヤツらの巣を見つける。

周辺を丹念に探りながら、その集団がばらけていないことを確認すると、全員が目を合わせてうなずき合い、行動を開始した。

まずは私とベル、アイカで群れの中心へ突っ込んでいく。

ユナには援護射撃をお願いした。

群れの規模は5、60ほどだろうか。

ジェネラルも1匹いる。

まずはベルが道を作り、私とアイカが続いた。

アイカに守られつつ群れの中心に到達すると、さっそく薙刀を地面に突き刺す。

一気に魔力を流し、私はその淀みの浄化に取り掛かった。

時折ユナの弓が放たれ、アイカがゴブリンを屠っていく。

私はその様子を頼もしく思いながら、浄化に集中した。

やがてゴブリンの動きが止まる。

小物はへたり込み、ジェネラルも苦しそうに膝をついた。

すかさずみんながトドメを刺していく。

私も手近にいた個体を薙ぎ払った。

ほどなくして戦闘は終了する。

その後、みんなでせっせと魔石取りを終わらせると、私はもう一度軽く聖魔法を発動し、「お洗濯」を済ませた。

うず高く積まれたゴブリンがユナの魔法で灰になる。

私たちはその様子を見届けると、さっさとその場を後にした。


「いやぁ、楽させてもらっちゃったね」

とアイカがやや陽気な声で言い、ユナも、

「ジル様々ね」

と私にからかうような視線を向けてきた。

「…もう。からかわないでよ」

と苦笑いを返す。

きっと昨晩の緊張から解き放たれたのが大きいのだろう。

まだ油断していい所ではないというのはみんなわかっているだろうが、その顔にはどこかほっとしたような表情が浮かんでいた。


3日ほど歩き次の村に到着する。

時刻は夕方前。

さっそく村長宅を訪ね、温かいお風呂と食事をいただいた。

食事の時村長に村の様子を聞く。

やはりそこまでの異常は感じていないようだ。

そのことにほっとしつつも、

(油断はダメよ)

と自分に言い聞かせ、その日は久しぶりにゆっくりと休ませてもらった。


翌朝。

さっそく浄化の魔導石を見せてもらう。

多少甘い点があるように思えたが、それほど大きな欠点は見つけられなかった。

(よかった…)

と、ほっとしつつ、村長にエリーたちのことを頼んで森に向かう。

村人によって整備された道を進み、途中、小さな沢に出たところでお昼にした。

料理自慢らしい村長の奥様が作ってくれた弁当を美味しくいただく。

「あ。この煮物美味しいね。味が良くしみてる」

「こっちの鶏肉が入ったおこわも美味しいわよ。もちもちして腹持ちも良さそう」

「お漬物の塩梅がいいわね。辛すぎず、甘みもあって美味しいわ」

「ええ。卵焼きも冷めてるのにふんわりしてる。本当に美味しいわ」

とそれぞれに弁当の感想を話しながら楽しい時間を過ごした。


やがて、お腹も満たされ、また森の奥を目指す。

今日の所はあまり危険な箇所はない。

私たちはやや軽い気持ちで軽快に歩を進めた。


夕方、野営の準備をいったんみんなに任せて魔素の流れを読む。

集中して地脈の流れを辿ってみるが、なんとなくの方向しかわからなかった。

「…まだちょっと遠いみたい」

と言って、おおよその方角だけをみんなに伝える。

「そっちのほうだとすると、この草原って書いてある所かしら?」

とユナが言うので、みんなで地図を眺める。

どうやら、草原とは書いてあるが、所々に岩が露出した岡のような地形のようだ。

地図を見ると、所々に岩の絵が描いてあった。

「…まだわからないけど、大物が出たらやりにくそうな地形ね」

と素直な感想を述べる。

「とにかく進んでみなくちゃわからないわね」

というベルのもっともな意見を聞いて、みんながうなずくと、その日は、香辛料たっぷりのスープを食べてゆっくりと体を休めた。

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