第13話 角ウサギ03
翌朝。
朝食の席でアイビーの3人と会う。
私は少し慌ただしく朝食を口にすると、食料をそろえてから駅馬車に乗り込むという3人に見送られてさっそく宿を出た。
馬房でエリーを撫で、途中の市場でニンジンを一袋買う。
そして、さっそくハース村へ延びる細い街道を進んだ。
街道は長閑なもので、何事もなくハース村に到着する。
すると、さっそく村長宅を訪ねた。
「これは、これは聖女様、いつもありがたいことです」
と丁寧に頭を下げてくる村長に恐縮しつつ、さっそくいつものように浄化の魔導石が置いてある祠へと案内してもらう。
道々、村長に村の様子を聞くと、この村は周辺に比べて元々作物の育ちがやや悪いらしい。
ただ森林資源があるのでこれまでは何とか食べてはいけていたとのこと。
しかし、今年は角ウサギが増えたせいで、なかなか森に入れなくなってしまった。
「この先が思いやられます…」
という村長の言葉が胸に刺さる。
森林資源はこの村の生命線だ。
この先もこんな状況が続けば村の存続が危ぶまれる事態にだってなりかねない。
そう感じた私は、
(これはなんとしても原因を調べてみなくちゃいけないわね…)
と思いながら、いつものように祠の中へと入っていった。
さっそく浄化の魔導石に手を当てて魔力を流す。
するといつものように私の目の前に青白い線が不規則に広がった。
(ぱっと見異常は無さそうだけど…)
と思いながら、丹念に調べていく。
すると元々流れ込んでくる魔素の量がほんのちょっと少ないことに気が付いた。
私はそんな状況を見て、
(なにこれ?)
となんとなく引っ掛かりを覚える。
そして、
(もしかして…)
という可能性を感じながらも、とりあえずいつも通り丹念に調整を行っていった。
「とりあえず、終わりました。ついでと言っちゃなんですけど、これから冒険者として森に入るんで、ちょっとそっちの様子も確認してきますね。冒険が終わったら報告に伺いますんで、その時まで馬をよろしくお願いします」
と村長に伝えて、村の入り口に向かう。
すると、ちょうどよく街道の向こうから駅馬車が近づいて来るのが見えた。
「あ!ジルお姉さん!」
と嬉しそうな顔で小走りにこちらに向かって来るリズたち「アイビー」の3人を笑顔で出迎える。
「用事は終わったんですか?」
と聞いてくるミリアに、
「うん。無事に終わったよ」
と答えると、マリが、
「うふふ。じゃぁさっそく冒険ですね!」
と私に嬉しそうな顔を向けてきた。
私は、そんな嬉しそうな3人に向かって、
「楽しみな気持ちはわかるけど、まずは装備の確認ね」
と苦笑いで言って、
「「「はい!」」」
と元気に返事をする3人と一緒に各々の装備を確認し合った。
私はパーティーを組んだことはないけど、何回か臨時で他の冒険者と行動を共にしたことがある。
お互いに誰が何を持っているのかを把握しておくことが重要だということはなんとなく経験的に知っていた。
特に食料。
これは生死に係わる。
その他の装備もそうだが、誰か一人に負担をかけたりしてはいけない。
バランスよく持ち合う。
それが冒険に出る時の基本だ。
そんなことを少しお姉さんぶって話しながら各自の装備を点検していく。
見たところ問題は無かったが、少し食料、特に乾燥させたものの量が少ないのが気になった。
おそらく今回の日程を3日ほどと考えているんだろう。
その日数分は十分に確保できている。
しかし、緊急事態に陥った時、それでは心もとない。
そんなことを感じて、村でほんの少し食料を分けてもらってから私たちは森に入っていった。
今日はそれほど奥にはいけない。
野営に向いている場所を見つけるのが最優先だ。
そのことをみんなにも話して時々行動食をつまみながら、森を進んで行く。
するとやがて、小川に沿って少し開けた草地がある場所に出た。
「うん。よさそうな所だね。今日はここで野営にしましょう」
と声を掛けると、3人から「はい!」という返事が返ってくる。
私は3人が準備するのを時々手伝ってあげたりしながら見守った。
「さて。次は晩ご飯ね」
と言って、私はさっそく食事の準備を始める。
道々話を聞いてみると、3人ともそこまで料理が上手くないらしい。
そんな3人にお手本を見せる意味も込めて、今日は私が調理することになった。
(…なんだか緊張するわね)
と心の中で苦笑いしながら、野菜を切っていく。
初日のことで時間もあるから、簡単なスープパスタを教えてあげることにした。
「普通はまずは日持ちしない材料を優先的に使っていくの。今日は乾燥した材料だけで作れるやつにするけどね」
と言いながら、いつものように干し肉と野菜を軽く水で戻し、その間に軽くバスタを茹でる。
ここで余り茹ですぎないのがポイントだ。
あとから、スープと一緒に少し煮ることを考えておかなければならない。
ゆであがったら今度はスープ作り。
こちらは簡単。
戻した肉と野菜を粉スープで煮ればいい。
煮あがり、味を調えたところで、アイビーの3人にも味を見てもらった。
「美味しいです!」
「うん。美味しい」
と口々に美味しいというリズとマリに対して、ミリアは、
「そうだね。美味しいね…。でもちょっと濃いめですか?」
と聞いてくる。
「うん。そう。これからパスタを入れるとちょうど良くなるっていうのもあるけど、あと、今日はそうでもないけど冒険の時は汗をかくでしょ?だから少し濃いめの味付けの方が疲れがたまりにくくなるの」
と私も両親から教わったことをアイビーの3人にも教えてあげた。
「そうなんですね」
とうなずくミリアに、
「あ、でもこの濃い味に慣れちゃうと逆に疲れやすくなっちゃったりするから、普段は薄味を心掛けるのよ?」
と、これは私もなかなか実践できていない言葉をいかにもという風に付け加える。
そんな半分嘘の混じった言葉にもアイビーの3人は、
「「「はい!」」」
と答えてくれたものだから、私は、
(…私もちゃんとしないとね)
と自省しながら、調理を進めた。
やがて、スープパスタが出来上がりみんなで一緒に食べる。
「美味しい!」
「うん。美味しいです。ジルお姉さん!」
「温まります…」
という3人の言葉を聞いて私も嬉しく思いながらさっそくひと口。
なんの変哲もない、いつもの簡単野営ご飯だけど、みんなの笑顔を見ながら食べるご飯はいつも以上に美味しく感じた。
そんな温かい味に、ふと、
(アンナさんもユリカちゃんも元気かなぁ…)
とチト村にいる2人のことを思い出す。
いつの間にか帰るべき場所になったチト村。
実家とは違うけど、私を温かく迎え入れてくれる場所。
大切な、存在が待つ家。
そんな思いが胸に浮かんで、私はなんとなくしんみりとした気持ちになってしまった。
すると、
「どうしたんですか?」
とリズに声を掛けられてふと我に返る。
私はなんとなく照れ笑いを浮かべながら、
「ううん。なんでもないの。…でも、みんなで食べると美味しいなって思ってね…」
と、正直に自分の気持ちを告げた。
そんな私にリズが、
「うふふ。そうですよね。みんな一緒だとなんでも美味しいです」
と嬉しそうな顔で微笑み、マリが、
「うん。ミリアの失敗スープだって美味しく感じちゃうもんね」
と冗談を返す。
すると今度は、ミリアが、
「え、ちょっ…。なによそれ。それを言うならマリのスープだって時々ひどいじゃん!」
と反論して、それを聞いたリズが笑いながら、
「あははっ!2人とも似たり寄ったりだよ!」
と言った。
「「あんたが言うなっ!」」
と、マリとミリアの声がそろう。
そんないかにも幼馴染同士らしい会話を聞いて、ついつい私も笑いながら、
「あはは。じゃぁこれからはもっと美味しいご飯が食べられるようにたくさん練習しないとね」
と言って、その笑顔の輪に加わる。
「「「はい!頑張ります」」」
とまた3人の声がそろって、私たちは終始笑顔でその日の夕食を終えた。
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