手記 四

 帰宅後、僕は自分の部屋に引きこもっていた妹を僕の部屋に呼び出しました。そして、今受けているいじめの詳細を洗いざらい聞き出しました。

 自慰行為を強要されたのは、僕が初めて妹にいじめのことを問い詰めた直後のことでした。あの時、妹が僕にいじめられていることを打ち明けたのを、いじめの主犯の一人が監視していたようで、妹が懸念していた報復がすぐに始まってしまったのです。

 まず、連中は妹をトイレに連れ込み、何度も頭を突き飛ばして床に叩きつける遊びを繰り返しました。遊びに充分満足すると、連中は妹に「何で裏切るような真似すんの、あたしたち友達じゃん」「本当はこんなことしたくないのに」などと言い、妹に罪悪感を無理矢理植えつけて謝らせました。

 妹が何も言い返せずに土下座して謝ると、連中は「今から言うことをやったら、これからも友達でいてあげる」と誑かし、妹を撮影しながら自慰行為を強要しました。妹は言われるがままに自慰行為を行ったとのことです。

 僕は妹に、「二人で父さんと母さんに相談しよう」と呼びかけました。しかし、妹は頑なにそれを拒否しました。あくまで「迷惑をかけたくない」の一点張りでした。

 仮にいじめられていることを打ち明けて、転校や中退に繋がったとしても、自慰の動画を拡散されている以上、どこに行ってもいじめがなくなることはない。私さえ耐え忍べばすべてが丸く収まるからと、妹は主張しました。そして、次にこう語りました。

「兄さん、私はたんぽぽになりたい。何度踏まれようと歯を食いしばって、いつの日かきれいな花を咲かせたいの」

 僕は当然ながら納得できませんでした。妹はいつまでごみどもに踏まれ続けるつもりなのか。踏まれるどころか糞尿を投げつけられてすらいるのに、なぜ黙って耐え続けようとするのか。そもそもなぜ妹がこんな理不尽な目に遭わなければならないのか。なぜごみどもは何のお咎めもなしに生きていられるのか。

 妹を哀れに思うあまり、そして愛おしく思うあまり、僕は衝動的に妹を抱き締めました。これほどまでに苦しんでいる妹に、「頑張れ」などという無責任な言葉を投げれるはずもなく、僕はただ妹を抱き締めることしかできませんでした。

 抱擁を止めて妹から離れたときでした。目が潤んでいる以外に、妹が蕩けた顔をしていることに気づいたのです。どうしたんだろうと思ったのも束の間、妹は瞼を閉じて涙をこぼしながら、僕に顔を近づけて唇を重ねてきました。

 困惑している僕のことなど構わず、妹は僕をベッドの上に押し倒し、僕の口内に舌を滑り込ませ、無我夢中に貪り始めました。まずいと、止めなければと思いました。すぐにでも妹を突き放すべきだと思いましたが、僕にはそれをすることができませんでした。傷心しきっている妹を、唯一の味方である僕が拒絶したら、いよいよ妹の心が砕け散ってしまうと恐れたのです。

 妹の心は、ずっと闇の中にあったことでしょう。学校に行けば当たり前のようにいじめられ、周りからは誰一人、先生にすら、我が身可愛さに救いの手を差し伸べてもらえなかった。それでもなお、僕たちに迷惑をかけまいと気丈に振る舞い続けてきたのですから、僕には計り知れないような苦しみや孤独感を味わい続けてきたはずです。

 そんな妹が、僕の勃起したペニスに偶然触れ、僕が妹に欲情していることを知り、安堵したのです。嵐が去り、澄みきった群青の晴天が目の前に広がったかの如く、妹は多幸感に満ち溢れた顔を見せたのです。このような形でもいいから誰かに必要とされたかったのかもしれないと思うと、なおさら妹の求愛を拒むことができませんでした。それから僕たちは何も語らず、パジャマと下着を脱いでベッドの中にこもりながら抱き合いました。

 肌を擦り合わせて頭を蕩けさせ、息継ぎのようにキスをし、快楽の沼へ沈み込みます。深く深く、沼の底に頭がぶつかるまで、僕らはセックスを続けました。

 はたから見れば異常者でしかないのかもしれませんが、知ったことではありません。僕たちをこのようにさせたのはほかでもないごみどもです。

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