15-1
2042年 11月03日 月曜日 09時00分
2036年から来た防衛高校の生徒諸氏は現在、輸送ヘリに搭乗して空の旅を満喫している。
ヘリ内はというと、今からピクニックや旅行にでも行くような雰囲気だ。
班員の明星さんや初瀬部さんも「高くて怖いけど感動ー!」だとか「ヘリなんて一生乗らないと思ってたよ。新鮮で面白いね」などと楽しんでいるご様子。
しかし怖いのに感動とは、不思議な感性を持っているようだ。
まあ、ヘリに乗る機会はそうそう巡ってこないだろうから、はしゃいでしまうのも致し方ないこと。
私も表にこそ出していないが、内心では結構楽しいと思っているし。
それはさておき、このヘリの行き先はというと北海道の北部にある自衛隊基地。
向かっている理由は簡単、その地域の北と南東にある漁港街がロシアから攻撃を受けているから。
正確に言えば私たちが2042年に来る前の時点で既に攻撃を受けていたのだが、ここ最近になって日本への攻撃量が徐々に増してきた。
ロシアはウクライナへの攻撃も続行しているかたわら、日本に対しても武力を振るっている。
こういう時の場合、友好国であるアメリカなどが支援してくれるはず....だったがロシアがアメリカに対して、日本とウクライナに支援をしたらアメリカに核攻撃をすると牽制。
この牽制により、アメリカ以外の友好国も日本への表だった援助はできなくなってしまった。
これらの出来事により、本土進出を阻止するため既に戦闘を行っている自衛隊・NDUをバックアップする目的で追加のNDU人員が北海道へ赴くことが政府により決定され、今にいたる。
ただし私たちは、たった3ヶ月間訓練を受けただけの戦争の"せ"の字も知らないずぶの素人集団。
それゆえに戦力外だと見なされ、前線での肉壁役に抜擢されるのかと思いきや、基本は後方待機で定期的に前線へ物資の輸送をする係に任命されたことには驚きを隠せなかった。
流石に映画とかのフィクションに毒されすぎかも?
頭の中で1人会話をしていると、小さな爆発音が耳に入ってきた。
外へ目を移すと遠景で煙が上がっているのが見える、どうやら目的地に近づいてきたようだ。
それにともない、ヘリ内の空気が少し変化したのを感じる。
周りに目を配ると、生徒たちは先程までと変わらない笑顔を浮かべているように見えるが、その笑顔にはほんのり硬さが、体には落ち着きのなさが垣間見えた。
横に座っている班員たちも先程に比べるとソワソワしている。
そして私自身も、知らぬ間に心臓の鼓動が早まっていたことに気づいた。
心なしか手も震えている、まあ...心拍数が上がれば震えてもおかしくはないが....しかし、震えている原因には心当たりがある。
至極単純なこと、本物の戦地に立つ恐怖が体をと思考を震えさせているのだ。
今回は後方待機と言われたが、いつ人手が足りなくなって前線に異動になるか分からない恐怖。
訓練中に、実戦を経験しているだなんて凄いと周りから持てはやされたりもしたが、この戦地を空から見た後ではあんなもの、お遊戯にしか感じられなくなった絶望感。
それに班員みんなの命を引き連れて、死地を歩く責任に心が耐えられるのかの不安。
若干の後悔が、私の体を重くする。
だけど私は進まなければならない、自分で選んだのだから。
でも今回は1人ではない、みんながいる。
「田町さん、初瀬部さん、明星さん、識火さん。この時代でベストを尽くして、2036年に帰りましょうね」
「いきなりどうしたのよ?まあ....言いたいことは察するけど。貴女の言う通り、ベストを尽くすよう努力するわ」
「そうだね、早く帰ってゆっくりしたいところ。忙しないのはあまり好きじゃないんだよね」
「わたしは元の時代に帰ったら、趣味に没頭するんだー!漫画描くぞー!同人誌出すぞー!」
「家で待ってる家族のことが気になるから、早めに帰れると嬉しいわ。2人とも大丈夫かなぁ....」
皆、思い思いの気持ちを表明してくれて面白い。
さてと....そろそろ優雅なヘリの旅も終わりに近づいてきたようだ。
各々持ち物の確認を取り、着陸に備える。
10分後、基地のヘリポートへ着陸し降機。
荷物を背負ってすぐにグラウンドへ整列し、それから各班の名称を決め、私たちの班はNDU隷下の第1輸送部隊・第3班という名称が与えられた。
「物騒な名前を貰ってしまいましたね。もっとこう....ペンギン組みたいな可愛らしい名が欲しかったです」
「えぇ....ペンギン組って。幼稚園じゃあるまいし、流石にそれは恥ずかしいわよ」
「ではアポロとか、セレスとかなら…」
「ペンギン組よりはましかも?でも改名はなし、以上」
「...むぅ」
冗談もほどほどにして、自分たちが使う宿舎に持ち物を置きに移動。
ここは本棟の横にあり、1週間で新設したものらしい。
どうやってそんなに早く建造できたのか不思議に思っていると、明星さんが「この建物3Dプリンターで作られたっぽそう」と呟いているのを耳にして納得した。
確か2022年頃に"3Dプリンターで家が作れる!!"みたいな話題がネットに上がって、その後実際に家が販売されたという記事を前に見た記憶がある。
そうだ、3Dプリンター方式なら燃えてしまった両親2人の家を低価格で再建できるかも?
値段はおいくらなのか....ほほう850万。
いや、えっと....一軒家としては多分安いのだと思うけれど今の身分では買えない金額だ。
夢のマイホーム計画が一歩後退、うーん現実って厳しいね!
それはさておき、掃除をしてベッドや机にロッカーなどの個々が使う物の割り振りをしたら、持ってきた銃をガンロッカーに立てかけて部屋の準備は終わり。
この後の予定は物資の名前を覚えたり、名簿の見かたを学んだりする。
しかし、その前にお昼ご飯の時間だ。
班員全員で隣の建物内にある食堂へ移動して、食事を摂ることに。
戦地に近いため食材をたくさんは使えないのでメニュー数は、学食に比べると寂しい。
けれど、うどんやカレーなどの定番ものはちゃんと用意されていて、今日はペンネ入りポークビーンズとサラダを注文。
品を受け取って席に着いたら、手を合わせていただきます。
スプーンでペンネと大豆をすくって口の中へ運ぶ。
もぐもぐと頬を動かしつつ、皆んなは何を頼んだのか視線を巡らせる。
田町さんは自分と同じメニューで、初瀬部さんはカレー、明星さんはハムステーキとオニオンスープ、識火さんは白身魚定食。
「ふーむ....田町さんはイタリア系の料理が好きですか?」
「え。いきなりどうしたのよ?」
「田町さんはイタリア系の料理をよく食べているような、気がしたので」
「うーん...言われてみるとそうかも。パスタとか好きだし」
「ふむふむ。ついでに言うと、初瀬部さんはボリュームのあるもの全般、明星さんはお肉系と甘いもの、識火さんは和食がお好きですよね?」
「「「たしかに」」」
む、なぜそこで一致するのか。
「愛星さんよく見てるんだね。皆んなのこと」
「見ていると言われると語弊がありそうです。正確には皆さんが食べている"ご飯"をよく見ていますね」
「それはそれで面白いけど、ちょっと寂しいかもー?わたしたちよりご飯のほうがよっぽど魅力的みたい!」
「ふふ、そうね〜。愛星さんは食べ物のことになると結構、見境がない感じかしら?」
「えぇ、そうですか...?うぅ...自身の言動を振り返ってみると、その通りな気がしてきました」
「自分の食べる物に興味がないよりは、遥かにいいと思うよ〜」
「フォローありがとうございます。あ、その...良ければなのですけどご飯、交換しませんか?皆さん」
「愛星さん、貴女ねぇ....でも私も気になるし....」
「田町さんの許可も降りたことなので交換しましょう!」
「ちょっと!なんで私が許可したことになってるのよ!?」
「田町ちゃんも食いしん坊さんね♪」
「だねー!」
「あなたたち、覚えてなさいよ....」
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