14-4
食事が終わったら解散して各々、自由行動へ。
私はグラウンドのベンチにて夜空観賞中。
気のせいか、2036年の空と比べると若干澄んでいるような気がする。
もしかするとエネルギー製造施設の稼働数が減ったらしいから、それで環境に対して良い影響が出ているのかも?
理由はともあれ、綺麗なら何でもよろしい。
ちょっと行儀が悪いけどベンチに横にならせてもらって、静かに宇宙を見続ける。
2042年へ来たというのに変化をあまり感じられなくて、やっぱりタイムスリップした実感を持てないなぁ。
「ここにいたのね、愛星さん」
おや?この声は.....。
「田町さん。こんな所でどうしたのですか?」
「それはこっちのセリフよ。こんな所で何をしてるの?」
「天体観賞ですよ」
「ふーん...よく見に来てるの?」
「そうですね、週10〜14回は見てますね」
「い、1日に2回は見てる計算になるのだけど...それほど好きなのね」
「ええ。小さいころ...小学校の2年生になった年にお父さんから、天体望遠鏡を貰いまして。その望遠鏡で初めて月の表面を見て衝撃を受けた時から今に至るまで、ずっと星と宇宙の虜です」
「ふーん、筋金入りね。そんなにも好きになれるものがあるなんて尊敬するわ。羨ましいかも」
「田町さんは好きなことがないのですか?」
「ないことはないんだけど、色々とあって好きにはなれなくなった」
「好きなことって難しいですよね。ひょんな事から、嫌いになってしまうことも多々ありますし」
「愛星さんの嫌いなものって?」
「数学と英語です」
「あ、はい」
「昔は好きだったのですが、ある日を境に内容を理解できなくなって、以降は嫌いになりました」
「学業に関してのあるあるね。愛星さんは完璧主義者なんでしょう、たぶん」
彼女に完璧主義者なのだろうと言われたが、これはハズレだと思う。
もし、完璧主義者ならもっとこう....今みたいに大雑把ではないはずだから。
「あ、それでどうして私を探していたのですか?」
「んー....何でだったかしら?」
「えぇ....」
「冗談よ。何となく、最近2人だけの時間がなかったから」
「ああ、確かに言われるとそうですね。田町さんが射撃部へ入ってくれた日からは、2人で活動していましたし」
「そんなに前のことじゃないのに懐かしく感じるわ。最初の1〜2週はあまり顔を合わせていなかったけど、慣れてからはちょくちょく一緒に訓練してたわよね」
「ええ。田町さんには射撃の仕方を教えていただいたりもしました。とっても楽しそうでしたよ」
「……そうだったかしら?まあ...他の部活とは違って縛りつけがないお陰で、気楽で居心地が良いのよね射撃部は」
「それは嬉しいです。ガチガチの部活動は自分も苦手なので緩めにしたのが功を成したようですね。それで先程2人の時間がと言っていましたが、今の班員さんたちは苦手ですか?」
「苦手っていうことはないのだけど、ちょっとだけ賑やかというか」
「あー、わかります。結構賑やかですよね」
「そう!そうなのよ!」
田町さんは勢いよく頭を上下に振りながら顔をこちらへグイッと、近づけてきてきた。
その行為に恥ずかしくなって体を少し後ろに逃す。
「賑やかなのも悪くないのだけど、ついていくのに大変で疲れるのよ〜.....」
「なるほど、田町さんはボッチさんが好きなのですね」
「ち、ちがうわよ!」
「冗談ですよ。でも、その気持ちはよく分かりますね。私もずっと人といると精神的に疲れますし」
「……だけど、それが普通ではないでしょうか?」
「普通....なのかしらね」
「もちろん例外はあると思いますが、人と付き合うというのはとてもエネルギーを必要としますから、疲れて当然だとおもいます。なので疲れたら少し距離を置いて、心が癒えたらまた寄り添えばいいのではないかと」
「うん....そうね。無理して付き合ってもお互いに良いことはないでしょうし。アドバイスありがとう」
「射撃部へ入ってくれたことと、射撃の仕方を教えてもらった分を今、お返しただけですよ。足りているかは分かりませんが」
「十分よ。けど射撃の仕方を伝えたのはともかく、射撃部に入ったのは別に関係ないんじゃない?」
「田町さんからすればそうかもしれません。ですが、私は嬉しかったですよ」
「そ、そう....特別何かしたわけじゃないけど、お礼を言われると恥ずかしいわね」
「んふふ。あ、見てください夏の大三角がよく見えますよ」
「ええっと....どこかしら」
「東の空です」
「東....うーん、見えないような?」
「ああ、星を見るときは東と西が逆になるので西側を見てください」
「??」
「空から地上を見下ろした際は、北を方向の基準としているため地図などで示されている東西南北の方向が適応されるのですが、地上から星を見る際は南を基準にしてます。なので、東が左側、西が右側になるんです」
「そういえば中学校で習ったような記憶があるけど....うーん、難しいわね」
「難しいですよね。自分も最初は理解できなくて苦しみましたが今は理解できているので、賢い田町さんならすぐに慣れますよ」
「フォローありがとう。西の空...西の空....あった、あれよね?」
彼女の指差す先には、輝く3つの星が浮かんでいる。
星を指して物珍しそうに宇宙を見上げる彼女の姿に、昔の自分の姿が重なって見えた。
思わず笑みがこぼれ、それに気づいた田町さんが何笑ってるのよと恥じらいながら問い詰めてきたので、星を見て喜んでいる姿が可愛らしかったと返す。
すると、ますます顔が赤くなって膨れっ面に。
からかったことを謝って許してもらったら、一緒にもう30分ほど宇宙を観賞して部屋に戻った。
部屋に帰ると既に明星さんはベッドに突っ伏して寝ており、初瀬部さんと識火さんに起こさないよう静かにねと言われたので気をつけて自分のベッドへ。
「愛星ちゃんと田町ちゃんは、2人でどこに行っていたの?」
小さめの声で私たちに話しかけてきた識火さん。
田町さんはさっきのことを思い出したのか、顔がまた赤くなっている。
しかしですね、そんな反応をされると誤解を生んでしまいますよ。
「あら.....?どうして田町ちゃんは顔が赤いのかしら、もしかして.....」
「いや、何もないわよ!何もなかったから!」
声を荒げて抗議する彼女。
明星さんを起こしてしまいかねないため、それを嗜める私。
「ふーん、お似合いだね」
「そうねぇ」
私たちのやりとりを見てそんなことを言う2人、全く何を考えていらっしゃることやら。
田町さんの反応に満足したらしい識火さんは、おやすみなさいと言って先に横になった。
その後を追うように初瀬部さんもおやすみに。
田町さんも疲れたから休むと言って、ぼすっとベッドへ倒れ込んだ。
自分もベッドに入って、目を瞑る。
今日は訓練が中々大変だった、明日からさらなる地獄を味わうことになるのかと思うと胃が痛い。
けれど私が選んでしまった道だから、できる所まで頑張ってみよう。
これからのことへ思いを馳せていると、次第に意識は暗闇へと落ちていった。
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