14-2

「はーい!後10周、頑張ってください!」



あの...あの、もう走るのやめても、いいですか?

訓練をすると言われ、班員たちとグラウンドに出てきたらいきなり走らされるとは....それも30周。



「みなさんー!これは“ウォーミングアップ"なので、バテないようにしてくださいね!」



はぇ??

うぉ、うぉ....なんと言いましたか?

聞き間違えでなければウォーミングアップと申しましたよね、これがです???

ははっ...ご冗談がお上手ですこと......。



200mを30周走らせるウォーミングアップの次は射撃訓練。

皆、息が絶え絶えの状態で渡された銃を握って的を狙う。



「200mの的に15発当てた人は銃を置いて、腕立て50回。それが終わったら腹筋・背筋・ダンベル上げそれぞれ50回ずつ行ってください!」



いやいや!こんな状態で200mの距離を正確に狙うなんて無茶では!?

それも15発だなんて、数字だけ聞けば簡単だけど実際はほとんど当たらないはず。

VRゲームのSoDで経験のある100m前後ですら、あまり当たらなかったのに。



現にたくさん撃っているのにも関わらず、今のところ2発しか命中弾がない。

これ、いつ終わるんだろう.....?



15分ほどかけてやっと15発分を当て切った。

さぁて、お次は腕立てのお時間だああ!

射撃の時間で体力は回復できたが、直前まで銃を構えていたから腕は流石につらい。

苦しい腕立てが終わったら休む暇もなくすぐに腹筋へ移行し、背筋とダンベル上げも同様にこなす。



田町さんらはどんな様子か左右を見てみると、みんな悲痛な面持ちをしている。

特に明星さんは、この世の終わりかのような表情をしながら腹筋に臨んでいる状態。



「つらいよー!体がいたいよー!壊れるー!」



「これくらいで音を上げていたら、この先耐えられないわよ」



「そうは言っても...結構しんどいよ、これ...」



「そ、そうね....腕の感覚がおかしいけど頑張らないと....」



「確かに厳しいですよね....そして、まだ続きがありそうなのが怖いです」



戦場に出たらこんな泣き言は言っていられないと理解してはいるけども、初日でこの過酷さはあんまりだぁ.....。

これのどこが"軽い"訓練なのか、全くもって理解しかねますよーー!



軽い訓練と言う名のしごきを受けて、トレーニングが終わる頃にはみんな文句どころか、言葉すら発しなくなっていた。



「お疲れ様でした。皆さん思っていたよりもトレーニングについて来れていたのでビックリです。これなら今後のハードな内容にも耐えられますね♪」



これでハードではないとは、ここから先は地獄が諸手を挙げて待っているのかも.....。

もしかすると戦場へ行く前に、死人が出るのでは....?



場所は変わって宿舎の中。

楽しい楽しい訓練が終わった後は班員みんなして、ゾンビのような足取りで汗を流しに。

シャワーを浴びている最中、明星さんが暴れて大変だった。



「いやだー!こんな訓練が後3ヶ月も続くなんて、聞いてなーい!今すぐ転校したいぃ!!」



「流石にそれは無理よ。色々と知ってしまった身だから簡単には帰してくれないと思うわよ」



「か、帰してくれない!?ひぃ....この時代で死ぬしかないんだぁーー!?」



「そ、そんなことはないと思うけど....」



「明星さん、落ち着いてください?」



「うわーん!ひえーん!」



明星さんの暴走ぷりが酷いものになっているが、気持ちは分からなくもない。

基礎体力があり、そこそこの運動能力を持っている彼女が愚痴を漏らすのだから、そのどちらも明確に劣る自分なんてなおさら。

しかし私はリーダーだ、班員をあやすのも役目。



いつの日か…お母さんにされたように彼女の両手を優しく握る。



「ど、ど、どうしたの!?急にっ!?」



焦っている本人を尻目に、落ち着いてもらえるよう励ましの言葉を伝える。



「大丈夫ですよ、何かあればできる範囲で私が守ります。ですから一緒に頑張りましょう?」



「手がく、くすぐったい.....えっと...うぐ....」



恥ずかしいのか手を離そうとする明星さん。

しかし解けないようにしっかりとキャッチ。

面白くなってきたから、ちょっと冗談を言ってみようかな。



「まぁ、自分は明星さんよりは弱い人間なので助けられないかもですけど」



「え、えぇ.....リーダーなんだからしっかりしてよー!?」



「じゃあ、明星さんが私を助けてください?」



「助けてほしい側なのに、なんでわたしが助けるハメに!?別にいいけども!」



「そういうことで、お互いに助け合いましょう」



手を離す前に、精一杯の笑顔を出しておく。

そして彼女はやれやれと、ツッコむのに疲れたのか大人しくなってくれたので一件落着。

自分のシャワースペースに戻ると、田町さんがすごく意外そうな顔で話をしてきた。



「愛星さんってああいう顔をして話せるのね...ちょっとビックリだわ」



「そんなに変でしたか?」



「変ではないけど、普段の表情を知っている身からすればねぇ?」



「ああ…まあ、よく表情筋が硬いとはお母さんに言われましたが」



「別に貶してるわけじゃないから、そこは間違えないでよ?どっちかって言うと可愛かったわ」



「うーん、私の笑顔は可愛いのですかね....?」



「うん...まぁ…ちょっとドキッとしたくらいには」



「ふむふむ、でも田町さんの可憐な笑顔には到底かないません。やれやれ、どうすればあのような表情をできるのか…」



「あまり....その、可憐とか言い過ぎないでちょうだい。恥ずかしいわ……」



「ふふ。恥じらい顔、ごちそうさまです♪」



「ぐぬぬ....」



田町さんがそっぽを向いてしまったので、ごめんなさいをしておく。

それとは別に、以前見たときよりも全身が鍛えられているのに、なめらかな体のラインを保っているのを見ると悔しい気持ちが。



うーむ...どうすれば筋肉をつけた状態で、こんなに柔らかそうで綺麗な体つきになるのやら。

それに比べて肉付きが薄く、貧相な自分の体はとても綺麗とは言い難い。



「……聞いてる?愛星さん!」



「あ、すみません。田町さんの素敵な体に見惚れてました」



「いやいや、見惚れてって.....あまりマジマジと見ないでくれるかしら?」



「え?嫌ですよ。もっと見せてください」



「なんでそうなるのよ!?初瀬部さんでも識火さんでもいいから、愛星さんの視線をそらして!」



叫びも虚しく2人は楽しそうに見ているだけで助けに来ず、彼女は私に弄ばれるのであった。

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