14-1

2042年 7月20日 日曜日 15時30分



「2042年7月20日へタイムスリップ完了。搭乗している方々は誘導に従い、足元に気をつけて降機ください」



到着のアナウンスが流れたけど、本当に未来へ来たのだろうか?



心の中で両親に旅立ちを告げた5〜6秒後に着いたことになるが……むぅ、早すぎる。

もっと、こう....タイムスリップした!という実感だとかを得られると思っていたが、実にあっけないものだ。

そもそも実感というのが何を指すのか、自分でも分かっていないけど夢を破壊されて、ちょっぴり残念な気持ち。



おしくらまんじゅう状態から解放され、降り立った先は....えっと、地下空間。

またもや夢を破壊されました、悲しいです。



「みなさん地下空間で驚いていらっしゃると思いますが、ここは先程....2036年にいた基地と同じ場所です。階段を上って地上へ出ましょう」



未知の存在に導かれるまま、私たちは地上へと続く階段を進む。

そして扉が放たれた先には2036年とそこまで大差のない街の景色が見えて、安心した。

その後は基地の宿舎へ案内され、部屋割りを受けて2036年のときと同じ部屋を使わせてもらうことに。



それから軽い食事をしつつ現在の日本について説明をうけるため、装備を置いたら皆で食堂に行った。



ひとまず、彼・彼女ら全体の呼称から。

彼・彼女たちは"NDU"というらしい。

"National Defense University"の略称で、日本語だと"国家防衛大学"という意味。



2036年に起きた情報争奪戦の際に国土を守るため防衛高校が設立され、そこを卒業したものが所属する場所。

ということは、将来的にNDUが発足されたら私たちはそこへ配属されることになる...のかな。

次に、この時代に至るまでの話をしてもらった。



2036年の4年後である2040年に世界各地で天災が発生し、その際に各国の複数のエネルギー調達施設が破損・稼働停止してしまった。

その祭、日本は貯蓄していたぶんと他国から購入したものでなんとか賄っていたが、災害復興のためにエネルギーの消費が増加。

これは他国もそうであるが、エネルギー資源を取れない国にとっては消費が増えるのは重大な問題。



そして恐れていた事態である、燃料が確保できない国での深刻なエネルギー不足が多数発生。

そこへ燃料の予備・埋蔵がある国はこれ見よがしに高値で燃料を売りつけ始めた。

このままでは日本も含め、燃料を買うだけで国の財政を圧迫しかねない状態へ。



そこで、以前から検討されていた新燃料の製作に取り組もうという話になったそうだ。

これに参加してくれた国はオランダ、フィンランド、ドイツ、イタリア、ウクライナなどの農業技術が進んでいる国々。



何を使った燃料ならばコストを下げつつ量を作れるのか考えていた最中、日本の研究者がある大学生が書いた過去の論文を思い出したことで燃料製作に光明を見出した。

しかしその論文を保管してある、日本の大学に連絡を取ると既に紛失してしまっていたらしく、更に紛失した時期は2036年頃だと言われて計画は振り出しへ。



どうすれば現状を打開できるか、頭を悩ませていたところに新たにフランスとスイスが加入し、ある提案を持ちかけてきた。

タイムマシン開発研究所で開発していた試作機のタイムマシンで過去に飛び、消えてしまう論文ではなく書いた本人を拝借すればいいのではないかと。

この会談は大いに揺れた、タイムマシンが試作機であるものの完成していたという事実に。



試作機である以上、どんな結果が出るか分からないが現状を改善できる方法はこれしかないと過去へ飛ぶことを決断。

よって不確定要素を多く含んだ状態で作戦は決行されたが、結果は我々が知るように成功した。



ここでなぜ論文ではなく、書いた本人を保護したのかと言うと、タイムスリップした際に問題視される現象、タイムパラドックスを危惧したからだ。



論文が紛失した事実はあるが、それが争奪戦に参加した国が持ち帰ったのかあるいは別の理由で紛失したのかが分からなかったためである。

もし、いずれかの国が持ち帰っていたとしたらその結果を変えると未来が変わってしまう恐れがある、それ故に安易に手を出せなかった。



それに引き換え、論文を書いた本人は2036年の論文争奪戦の巻き添えに合い死亡している。

なので未来へ連れて来ることで2036年から消え、その時代では死亡している扱いとなって問題が起きないのではと推測。

このことは、連れてきた際に未来が変わっていなかったことで実証された。



ちなみにNDUの人たちの外見が黒ずくめなのもタイムパラドックスなどの関係上、姿を隠さないといけなかったからだそうな。

もうちょっとマシな服装を用意できなかったのだろうかと思うのは、自分だけではないはず。



それから現在戦争をしかけてきている相手は中国やロシアなどからなる共和国連合。

その中のロシア1国がウクライナと日本へ同時侵攻をしている。

ロシアとウクライナは2020年代に起きた戦争を休戦協定で終えて以来、微妙な仲が続いていたから元々戦争がまた起きる可能性はあった。



日本はというと未だロシアとの北方領土問題を解消できておらず、平和条約を結べていない。

だからと言って特別仲が悪いという訳でもなかった。



しかし、この前持ち帰った情報を協力国に渡して燃料の制作を手伝って貰っていることが知られてからは不仲に。

世界で見てもロシアの燃料シェア率は非常に高い、国の稼ぎになるものを潰そうとしてくるなら、相手が怒るのもいたしかたない。



ここまでの話を聞いてまず思ったのは、私のスマホに保存されていたメモの内容と同じことが起きている。

書かれていたものについて半信半疑だったがこれで、本当に起きた出来事を書き綴っていたのだと図らずとも証明されてしまった。



でも誰が私のスマホに、あんなものを書き込んで保存したんだろう?

元からあったモヤモヤは晴れたけど、代わりに新たな疑問が生まれてしまった。



説明が終わった頃にはちょうど、食事が載っていたお皿も空になって、食堂でのランチタイムも終了。

それから自分たちの扱いは2036年と変わらず軍人のような扱いで、自衛隊の指揮下には入らずにNDUの下で動くことになる。

要するに、防衛高校の時と変わらない立ち位置。



私たち防衛高校の生徒はこれからNDUが担当する3ヶ月間の訓練を経て、各所へ派兵される予定。

話をしてくれていたNDUの人は訓練はかなり厳しいものになるので覚悟しておいてほしいと、何を思い出したのか険しい顔で言う。

厳しい訓練ってどんなスケジュールで、どんなコンテンツが待ち受けているのか、今から恐ろしくてたまらない。



「本日は以上で解散となります....が、時間も余っていることですから、軽い訓練をしましょうか」



あ、なんだろう?凄く嫌な予感がします!



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