13-4

敷地内に入ることはできたのに敷地を取れなかったため、負けてしまったのは非常に悔しい結果。

内部の防御を一時的に崩すところまではいけたのに、外の敵が援軍が来て立てなおされるとは。



訓練が終わったので各自、自由時間をもらった。

現在は班員のみんなと食堂で遅めの昼食を摂っている。



「ふぅ...負けたのは残念だったね」



「プロ相手に、私たちみたいな素人がよく頑張ったほうだと思うの」



「そうね、生徒同士の訓練とは全然違っていたわ」



「とにかく、わたしは疲れたぁ....」



みんな思い思いの感想を述べている。

かくいう自分も、今回の訓練は過酷なものだったと思う。

もし、あれが実戦だったら明星さん以外は今頃ここにはいないだろうし....他の班の人もどうなっていたか想像もつかない。



その後も食事を楽しみしつつ、雑談をしていると食堂のある宿舎のスピーカーから放送が流れてきた。

内容は30分後に全生徒は体育館へ集合してほしいとのこと、どんな話を聞かされるのやら。



30分経ったので班員みんなで体育館へと向かい、道中で渡先生と出会ったのでそのまま一緒に体育館へ。

中に入る前に渡先生から「この後にある話を聞いても落ち着いてね」と言われたが、さっぱり意味が分からなかった。

まぁ、中で話を聞けば言葉の真意が分かるだろう。



そして聞かされた内容は、私の脳の処理をバグらせるには十分なものだった。



端的に言えば訓練中に考えていた事が当たっていた、自分たちの訓練相手は本当に"未知の存在"だったのだ。

知らされたことに衝撃はなかったが、代わりに理解を拒みたい気持ちが込み上げてくる。

だが、現実は残酷で小説よりも奇なり。



彼女たち未知の存在は未来の日本から来たらしく、その未来では色々あって燃料危機に見舞われてしまったそうだ。

燃料危機を回避するため何か手段はないか模索をしていると、2036年の2月8日に失われてしまったある論文を書いた人物に白羽の矢が立った。

その人を確保するためにこの時代に彼女らは来たのだと言う。



確保は無事に成功したようで、対象についてはすぐに未来へ持ち帰った。

本来の歴史ならその日、アメリカ・中国・ロシアの軍が特殊作戦を行なって論文の奪い合いをする過程で、論文と本人の命が失われるはずだったらしい。



実のところ1年前には既に日本政府とは接触していたようで、それによって様々な備えとして防衛高校の設立も決まったそうだ。

1年前というとちょうど学校の副校舎と寮が建設され始めた頃だ、そういうことだったのか....。



とどのつまり....私が1番最初に襲われたあの日の夜、あの場所が全ての発端だったらしい。



........ばかばかしいよね。



その時代に生きている人の命を救うためだから、これから起きる未来のことだから、他人事だとは言い切れないけども.....それでも巻き込まれたこちらにとっては、理不尽だという気持ちは消せないよ.....。



続きの話を真面目に聞く気力が出ず、話が終わるまで顔を伏せていた。



話が終わって外に出る際、渡先生に声をかけられたが断りを入れて宿舎へ1人で戻った。

部屋に入ったらベッドに突っ伏して、枕に顔を埋める。



何なんだろう、この気持ちは。



最低な気分だ。

最悪な現実だ。



怒りだとか悲しいだとか、そういう枠にはめることのできない感情。



彼女たちは悪くない、悪くないんだ。

悪ではない者に、私は勝手な怒りと憎悪を混ぜた暴力をふるっていたのだ

いっそのこと、彼女たちが救い難い悪であればどれだけよかったことか。



でも、私の気持ちが間違っているわけでもない。

どうすれば己を納得させられるのか考えないと。



そういえば、2月8日は燃料危機を止めるために来たと言っていたけど、4月の13日に襲ってきたのはどうしてなのか。

あの日も何かしら理由があった....のかな。

あり得そうな理由を自分なりに考えていると、部屋にドアをノックする音が響いた。



「どうぞ」



「愛星さん、その....大丈夫?」



訪ねてきたのは渡先生。



「大丈夫ですよ。非常に冷静です」



「う、うーん。冗談が言える程度には回復しているようね?」



「ええ、事実は事実として受け入れるしかありませんし。それに彼女たちが敵ではないと分かって良かったじゃないですか」



「まぁ…そうね。それでもね...隠されていたのは気に入らないわよ。仕方のないことだとしても」



「それについては同意します。あー...先生、食堂で甘いものでも食べませんか?」



「いいわよ?でも愛星さんの奢りでね!」



「えぇ...生徒に支払わせようとしないでください。誘ったのは自分なので払いますけど」



「やった♪」



まったく、この人は....やれやれ。



先生を連れ、食堂でバニラアイスパフェとかき氷を頼んだ。

席に座って少しずつ、かき氷を食す。

先生もパフェを上に乗っているものからパクパク食べる。



「パフェ、気になるので半分食べたら交換しませんか?」



「わふぁったわ〜。んー、このワッフル美味しいわねぇ♪」



「それは何よりです。880円ぶん、たっぷり味わってください」



「ひぇっ、値段を言うなんて...なんて怖い子なの!アイスを食べるよりも体が冷えたわ!」



「ふふ、涼めたのであれば幸いです」



「あー、そうだ。愛星さんさっきの集会の話最後まで聞いてなかったでしょ?」



「えっ、そ....そんなことないですよ?」



「いやいや、顔伏せてたの見えてたからね?それは置いとくとして...あなたたち、これから未来に行くことになるわよ」



「へっ!?ど、どういうことですか?」



「燃料の製作法を確立するまでの間、国を守る戦力が欲しいって話してたでしょう?あれよ、未来の日本は軍人が少ないそうだから」



「燃料の制作法?」



「ほらやっぱり聞いてなかった。論文を手に入れたのは良かったみたいだけど、燃料の制作を公表したら共和国連合から攻撃を受けたそうよ。我々の燃料シェアが崩れるとかなんとかって」



「共和国連合から攻撃……。それに軍人が少ないって....あっ。少し前に行われた軍事費削減の一環が影響を?」



「そうそれ。だからこの後、召集がかかってあなたたちは未来に行かないといけないの。まぁ、説明してる私もついて行くんだけどね」



「わかりました。装備とかそういうのは持参ですか?」



「一応持って行ってもらうけど、向こうに着いたら装備の違いを無くすために、未来では配布される装備を使用する予定だそうよ」



「なるほど、確かに今の私たちは思い思いの装備を使ってますしね。統一したほうが管理しやすさとか、使い方を覚える負担も減らせると」



「そうそう。あ、半分食べたから交換ね」



「少し待ってください、後3口くらい.....すみません、どうぞ」



そして憩いの時間は過ぎ、出立の時間へ。

先生とは一度別れて班員と部屋で合流して準備を整えたら移動先はこの基地の地下。

基地に地下がるとは知らなかった、果たしてそこには何があるのかと少しドキドキしている。

さっきまでプンスカしていたというのに、現金な性格だ。



少ない明かりで照らされた階段をしっかりとした足取りで下っていく。



「くらいよー!あぶないよー!声が響くよー!?」



「テンション高いわね」



「明星さんほどじゃないけど、私もワクワクしてる」



「明星さん落ち着いて?階段ではしゃぐと危ないから、ね?」



下りきった先には分厚い鋼鉄製の扉が待っていた、映画とかに出てきそうな外観で格好いい。

ドアノブに手をかけて班員全員で目一杯押すと視界には広い空間が現れ、その中心に白いコンテナのようなものが存在している。

その周辺にあの黒装束の人々が立っており、生徒の列を中に誘導している姿が見えた。



列に並んで、乗り込むまで班員たちと雑談を楽しむ。



「次の班の方、なか...えっ……あかり…ちゃん……?」



誘導をしていた未知の存在が、私の顔を見てなぜか狼狽えている。

それにどうしてか、名前を知っているらしい。



「……あの、何か...?」



「いえ、何でもありません。乗り込んでください…。次の方......」



一体、何だったのか気になる.....。

はぁ……どうやら、彼女らは人をモヤモヤさせるのが得意らしい。

そしてコンテナの中に入ると教員と生徒たちがぎゅうぎゅう詰めで乗っていて、班員全員で長椅子の空きに座るのに一苦労。



「全生徒と教員方の格納が終わったのでこれから、30秒後にタイムスリップを開始します」



30秒後には2036年の日本とお別れなのは少々、寂しい気持ちがする。



「20秒前!」



未来の日本はどうなっているのかな。

戦争の最中だけど、あまり街並みが変わっていないといいなあ。



「10秒!」



まさか、生きているうちにタイムマシンに乗ることになるなんて。

人生ってわからないものだ。



「5秒前!4・3・2・1」



また、この時代にみんな帰ってこられるように頑張らないと。



「タイムスリップ開始!!」



お父さん、お母さん、行ってきます。

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