13-3
自分を含め準備を整えた生徒一行は目標地点である基地へ移動を開始し、数分で現場に到着。
意外なことに道中で攻撃を受けることはなかったが逆にそれが、奇妙に思えて怖い。
中へ足を踏み込む前にポイントマンの人たちにお願いしてドローンで基地内を見てまわってもらった。
操縦者いわく、建物内に人はいるみたいだが数が少なく約40人程度しかいないらしい。
「この数なら大丈夫そう。みんな、一気に制圧しちゃおう」
華子宮の人がそう言うと他の班の人たちも同意を示している。
残りの100人がどこに潜んでいるのか分からないまま攻撃を始めるのは不安だが、士気があるのに余計なことを言って腰を折るような真似は控えないと。
相手は正門から見える2棟の1・2階に潜んでいるので班を分けて制圧にあたることになった。
さらに2つの班で1つの隊として行動する。
自分たちは先ほど一緒に戦闘をした班の人と組むことになった。
「さっきも共闘したけど、またよろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
「あ、名前言い忘れてた。森 絃葉(もり いとは)改めてよろしく!」
「愛星 愛璃(あいせ あかり)です。こちらこそよろしくお願いします」
各班が合流したところで基地の制圧を開始。
門を通って建物に近づいたとき後ろから悲鳴が聞こえてきた。
何事かと思い振り返ると基地の外、街側から攻撃を受けている。
「うわー!敵が撃ってきたぁ....!?」
今度は正面からも悲鳴が上がり、どうやら建物に隠れていた敵が外にいる仲間の動きに合わせて攻撃を始めたようだ。
これにより両端から挟まれた状態に陥ってしまった。
まさか背後に敵が潜んでいたとは思いもせず、予想外の事態にみんなパニックを起こしている。
なんとかして立て直さないと、ここであえなく全滅だ。
「みんな、落ち着いて!前と後ろで人を分けて相手に対処して!!」
森さんがいち早く味方に呼びかけてくれたおかげで、パニックになっていた人たちは少しずつ落ち着きを取り戻し、体勢を整え、反撃し始めた。
こんな場面で冷静に状況を把握してすぐ他者に指示を出せるなんて彼女はすごい人だ、行動に迷いがない。
それに比べて自分は実戦経験があるにも関わらず、指示を出せなかった。
情けない気持ちになったことは一旦置いといて、私たちを含めた8つの班は前方の敵を担当し、残りの班は後ろを抑える係に。
被弾面積を減らすため、班員へ地面に伏せて射撃をするように伝えて自分も腹這いになる。
「うぇっ、勢いよく伏せたらお腹にダメージがっ.....あと膝にも!」
「我慢よ。早く数を減らさないとまずいけど...この状況下で狙撃なんて....」
「当たらない...っ!もう、なんでっ!!」
「やばいね....確かに狙ってるのに全然当たんないや」
目測だけど、標的までの距離は100mを超えているはず....学校の訓練では100m以上の距離の射撃訓練は行っていない。
こちらに来てからも100m超えの距離はほとんど訓練していない、だから当てられなくても仕方ないと思う。
自分だって何発も撃っているのに、まるで当たらないのは驚いている。
というより自分の場合は焦って、乱雑な撃ちかたをしているのが悪いかも。
建物の角からこちらを攻撃している人物へ向けてしっかり構え、よく狙い、撃つ。
狙った相手の上体がのけぞったのを見て着弾を確信し、同じ姿勢を保って射撃を行う。
「うっ....!」
田町さんのうめき声が隣から聞こえてきた、多分被弾したのだと思う。
「痛み、大丈夫ですか?」
「痛い、わ....でも我慢できないほどじゃない…。それと私を撃ってきたのはスナイパーよ、左の建物の上にいる。アサルトライフルじゃ狙いにくいはずだから、こっちで対応するわ」
そう言うと田町さんはぎこちない動きで狙撃姿勢を取り、建物へ向けて発射した。
彼女の射撃技術は知っているからスナイパーへの対処はこのまま任せて自分は、地上にいる敵を倒そう。
あ....そうだ明星さんは大丈夫だろうか。
怖くてブルブル震えているのではいか気になったので彼女のほうを見ると予想に反し、普段の様子とは打って変わって真剣に射撃をしていた。
「うわわあー!もうどうにでもなれー!こっちに弾が当たらなければなんでもいいよぉーーー!」
真剣なのでなく、恐怖のあまり開き直ってしまっていたようだ。
乱射しているけど、これはこれで良いと思うので触れないでそっとしておこう。
挟撃されてから15分くらい経った。
戦況は不利なままではあるが、左側の建物にいる敵をかなり減らすことに成功。
そこそこ被害が出たものの、それは向こうも同じ。
そして現在、その建物内に私たちの班含めて20人が突入したところ。
「愛星さん、外にいる人を狙撃で援護するために屋上に行きたいわ」
「わかりました田町さん。ついでに識火さんにも支援をしてもらいましょう。森さん、申し訳ないのですが自分たちの班は屋上を目指します。内部の安全確保はそちらにお任せしてもいいですか?」
「了解。そんなに広い建物じゃないけど、隠れられる場所はたくさんあるから気をつけて」
他の班の人からもOKをもらったため、すぐに移動を始める。
エレベーターがないのが不便だと思いつつも階段を探して上って行く。
「はぁはぁ....なんか息があがってきた....ゲームなのにおかしいなぁ....」
「昨日、自分で言っていた錯覚じゃないの?」
「…かもね〜....」
6階ある内の3階で田町さんと明星さんがそんな会話をしていた。
ただ明星さんだけではなく、明らかにみんなしんどそうに見える。
自分も階段を登るのが妙に大変だと感じているし。
「他の人に負担を強いているから早く登り切らないと」
そう言った田町さんが先頭を切って、上へと上がって行く。
元気だなぁ....今の私にはそこまでの元気はないですよ。
そんなことを思っていると、彼女が行った階から銃声が聞こえてきた。
急いで階段を駆け登ると、そこにはHPゲージが半分くらい減った田町さんが壁にもたれかかっていた。
ゲージが減っているということは間違いなく被弾している。
「ごめん、逸ったせいで注意がおろそかになっていたわ...」
「明星さん、治療をお願いします」
「はーい」
「どこから撃たれました?」
「右側2つ目の部屋から撃たれた…。けど私がこっちへ隠れた後に扉を開ける音がしたし、さっきと同じ場所にはいないと思う」
「なるほど....」
そうなると1部屋ずつ確認を取らないといけない、中々に厄介だ。
ここは自分と初瀬部さんで対応して3人には屋上まで突っ切ってもらおう。
考えを伝えると了承を得られたので3人が5階に上がるのを見送る。
「それでは、こちらも動きましょうか。初瀬部さん」
「了解。手前から順に部屋の中を見ていくの?」
「そうなりますね。各部屋には入り口の扉が2つあるのでリスク分担のため、前後に分かれて突入しましょうか」
扉についている窓に体を出さないよう気をつけてお互い配置につき、手で3カウントを取ったら開扉して敵がいないか確認を取る。
この部屋にはいないようだったので、すぐに次の部屋へと移動して同様の手順を踏む。
5ある部屋の内の3つは確認が取れた、残り2つの内のどれかに敵は潜んでいるはず。
「かなり神経使うね、これ。心臓がバクバクいってるよ」
「自分も似たような状態です。次に取りかかりましょう」
扉について、手でカウントを始める。
2本指から1本指になったそのとき、自分のついている扉が室内から銃撃を受けた。
敵から放たれた銃弾は扉を貫通して、私の右ふくらはぎに直撃。
あたった衝撃でよろめいてしまい、すぐには射撃体勢を取れない。
このままでは戦死してしまうと覚悟したが、反対側の扉に位置する初瀬部さんがすぐさまカバーをしてくれた上に中の敵を倒してくれた。
「初瀬部さん、ありがとうございます...危ないところでした」
「対応が遅れてごめん、いきなり愛星さんが撃たれてかなりビックした。脚、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
しかし私が撃たれてから初瀬部さんがアクションを起こすまでタイムラグが少なかったことに内心驚いている、かなりすごいと思った。
動きの遅い自分だったら、こんなに早く対応できない自信がある。
部屋の中に倒れている敵を見て、撃った相手が初瀬部さんではなく私だったのが、運がなかったなあと思う。
そういえば訓練を担当してくれている相手の姿をよく見てなかった、この機会に容姿を拝見させてもらおうかな。
ふむ、ヘルメットを被っていて全身黒ずくめなのはなんだか怖い感じがするけど....体のラインからして女性かぁ。
んー....へ?……黒ずくめで女性?
急に嫌な予感で脳が埋め尽くされた。
もっと、ちゃんと、確認すべく近寄ると見覚えのある外容をしていることが分かった。
いや、たまたまということも....だって訓練に"彼女ら"がいるはずかない。
だって"敵"なのだから。
でもなぜか、強く否定できない自分がいる。
ひょっとして…訓練の相手は未知の存在なのでは...?
気づくと倒れている女性のヘルメットへ手を伸ばしていた。
しかし残念なことに触れる直前に、その女性が消えてしまったのだ。
たぶん、戦死扱いになったことで試合から外されたのだろう。
目の前の現実に困惑する、でもまだ相手が未知の存在だと決まったわけでは.....。
だが、未知の存在ではないと言える証拠もない。
......はぁ。
ひとまず、この訓練に集中しないと———。
「えっと愛星さん表情が暗いけど、何かあった?」
「いえ、何もないですよ。それより安全を確保できましたし、私たちも屋上に....」
移動を促そうとした次の瞬間、右側にある廊下のガラスが突如割れて、初瀬部さんが飛ぶように倒れた。
急なことに頭が追いつかず、体が固まってしまう。
そして、その数秒後には私も地面へ転がっていた。
「い...っ...たぁ......」
左脇下を押さえながら、うめいている初瀬部さん。
どうやらお互い戦死はしていないらしく、ホッとした。
自分の体を起こしたら、彼女に手を貸して起き上がらさせる。
「急に何が起きたわけ....?」
「たぶん、ガラスが割れてから初瀬部さんが倒れたことを考慮すると、向かい側の建物から撃たれたのかと」
「えぇ....そんなの予想できないんだけど。いたた...」
「仕方ないです、私だって撃たれるまで全く気にしていませんでしたから....すみません」
「これからどうする?」
「向こうの建物にも味方はいるので、自分たちが無理して対応する必要はないと思います。あちらはあちらに任せて、当初の目的である屋上へ行って地上にいる人たちを助けましょう」
「確かに相手の数も分からないんじゃ、2人で対処するのは危険だね。ドローンをのんびり飛ばしている余裕もないし、早く上に行こう」
窓枠より上に体を出さないよう気をつけて移動して階段を上っている最中、上から3種類の元気な銃声が聞こえてきた。
どうやら全員生き延びているようで喜ばしい。
屋上にたどり着くと3人が仲良く匍匐状態で、地上へ向けて射撃している姿がそこにあった。
「そっちは終わったようね」
「はい。予想外のことも起きましたがなんとか。そちらの状況はどうですか?」
「こっちは屋上についてからずっと、射撃しっぱなしよ。敵は一応減らせてる....と思うけど....」
「うー...匍匐は体が疲れるー!」
建物の端に近づいて下を見てみると、自分たちがこの建物に入る直前よりかはマシな状況になったと思う。
というか…かなりの高さだと気づいてちょっと足がすくんだ、落ちたらVRとはいえど酷いことになりそう。
屋上の縁から少し離れて、私と初瀬部さんも匍匐状態になって加勢する。
数分射撃を続けていると背後の屋上ドアがドンと勢いよく開け放たれて、陰から森さんたちが現れた。
「この建物の制圧は終わったよ、15人いた味方が5人にまで減っちゃったけどね。下の方はどうなの?」
「ここに来る前よりはマシになった程度で、敷地外の敵はあまり減っていなさそうな感じです」
「そっか。とりあえずこっちも援護に加わるね」
森さんら華子宮高校の面々もそろって地面に寝そべり、掩護を始める。
そして、屋上で援護をし始めて30分が経過したところで制限時間がやってきて訓練は終わった。
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