13-2
09時20分現在、激しい攻撃を受けている。
模擬戦が開始してから10分くらいでプロ集団に出くわし、銃撃戦に発展。
前回の訓練では敵のほとんどは基地内部にいたため、今回も外部にはあまり人を配置していないだろうと油断していた。
華子宮高校が取った作戦をプロも行うとは限らないのだ、先例から来る思い込みは怖い。
華子宮高校の班が近くにいたので、共同で迎撃に当たっているが状況が芳しくない。
相手をこちらに寄せつけないようにするので手一杯だ。
それなのに、さっきまで40人もいたはずの味方は20人にまで数を減らしている。
これがプロか.....なぜか急に、未知の存在のことが頭をよぎった。
なぜではないか、彼女らもプロなのだから似ていると感じてもおかしくはない。
「綾乃の人たち!私たちが援護するから前に進んで、相手の数を減らして!」
「いやいや、そんな無茶な」
「そうよ、5人でどうにかできる相手じゃないわ」
「じゃあこっちも、4人連れて一緒に前に出るから!」
「わかりました、それならOKです。みなさんお互いの移動をカバーしながら前進しましょう」
前進なんて言ったけど、今いる通りは身を隠せるものが少ない。
車が....4台と電柱くらいしかろくな遮蔽物がなく不利だ、相手との距離を縮めるまでに何人かは脱落する可能性がある。
自分が戦闘に関与するときはいつも、隠れられるものが少ない気がするなぁ....手持ちできるものか、移動させられる設置型の防弾シールドが欲しいと切実に思う。
とりあえず後ろにいる華子宮高校の人たちの援護に期待する他ない。
む、前方を見ると8班の3人が固まって行動している。
この状態で集中砲火を受けたら動けなくなってしまう、散らばるように言わないと。
「識火さん、明星さん、初瀬部さん、固まらずに分かれて移動してください!狙われますよ!」
「1人はこわいよー!いやだよー!」
「我慢してください」
「やだー!!」
「なら私の後ろにつくか、田町さんと一緒に行動してください」
「うぅ、わかった...愛星さんの後ろについてくー!」
できれば狙いを定めさせないためにも、散ってもらいたかったが仕方ない。
明星さんを引き連れて目前にある車の影に滑り込み、後ろを移動している人たちのカバーに入る。
後ろが追いついてきたら、今度はこちらが移動。
なんとか前方と後方に分かれて配置につけたものの、全然相手の数を減らせていない。
銃弾から爆発物まで、なんでもござれの攻撃を受け続けて精神的に参ってしまう。
他の人たちも同様に、気力が下がっているのが目に見えてわかる。
ここを突破できるのかすら怪しい状態。
田町さんの狙撃を起点にして、なんとかできないだろうか。
通信で提案を投げかけてみる。
「田町さん。スナイパー以外の人たちで中央の敵を抑えるのでその間に、左右の敵を狙撃で減らしてもらえませんか?」
「いいけど...どういうつもり?」
「簡単なことですよ。左右の数をある程度減らしたら全員で、中央突破をするだけです」
「博打ね。でもそれが成功すれば手っ取り早い、か」
「みなさんの士気が落ちてますので、気持ちが完全に負けてしまわないうちにしかけたいです」
「わかった、でも私だけじゃ無理だから華子宮高校の人にも手伝ってもらないと」
「華子宮高校のスナイパーのかた、これから左右の敵を減らした後に中央突破を行うので手伝ってください」
「左右のどっちを担当すればいいの?」
「左をお願いするわ」
「了解。お互いスナイパー同士がんばろうね」
「ええ」
「攻撃開始のタイミングは、スナイパー組に任せます」
作戦を他の人にも伝え、開始の合図が出るまで適当に射撃を続ける。
田町さんから、今の攻撃が止んだら始めると連絡をもらったので各人、弾倉を交換。
そろそろ、攻撃が止まるはず。
ちょっと不安になったため、隣の明星さんでも見て和もうと思ったが彼女もまた、自分と同じく緊張しているようだ。
彼女に近寄って、銃を持っていない左手を優しく両手で包む。
「おわわ!?愛星さん急にどうしたの!?」
「明星さんの顔がこわばっていたので、落ち着かせようと」
「う、う....そっか、ありがとう。で、でも恥ずかしいから急に握らないでね!///」
「はて?男の子に握られるならまだしも、女の子同士ですから問題ないのでは??」
「んー!んー!そうじゃなくてね!ええっと...」
「あ、攻撃が止んだので始まりますよ。構えてください」
「え、あ、ちょっ...ぐぬぬ」
明星さんが、物言いたげな視線を寄越しているがそれは後だ。
ドンッという複数の低い銃声を皮切りに、一斉射撃。
....が、それを待っていたかのように相手側も射撃を再開してきた。
かち合いになってしまった、こうなってしまっては総力戦になるほかない。
数分撃ち合っていると、相手側が唐突に基地の方向へ引き上げ始めた。
なぜ引き帰ったのかはわからないが、ひとまず被害の確認をしないと。
こちらの損害は華子宮のガンナーとポイントマン、ライフルマンがそれぞれ2人づつ倒されて計6人が戦死扱いとなった。
残りの14人の内、体力が満タンなのは華子宮高校の班長と明星さん、田町さんだけ。
自分は左肩を撃たれてしまい体力が減っている状態。
しかし被弾したことで、この触覚再現スーツはなかなかエゲツない代物なのだとよく理解した。
撃たれた当初は痛くなかったけど戦闘が終わった今はアドレナリンが切れたのか、かなり痛みを感じる。
とは言っても、実際に本物に撃たれた経験がある身としてはかなり優しめの痛みだと思う。
現実なら今頃、痛みと負傷のせいで左肩が上がっていないはずだから。
ただし...撃たれたことのない識火さんと初瀬部さんたちは、それはそれはもう、痛がっている。
「何これ、痛すぎるんだけど....撃たれるってこんなに痛いの....?」
「お腹の右側が痛くて冷や汗が止まらないわ....怖い...」
「明星さん、お2人に治療を」
「はーい。2人とも横になってー」
怪我人の治療をメディックたちが癒している間に、マップを開いて戦況確認。
生存している味方の数は128人....想像していたよりも残っている数が少ない。
それに比べて相手の数は142人、58人を失った代わりにこちらの半数以上を倒したようだ。
これから基地を攻めなければいけないのに、彼我の実力に大きな差があると痛感した。
プロの腕前をまた見せつけられてしまったが、これは本物の戦争ではないのだし、胸を借りる気持ちでこの後も臨もう。
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