12-3

移動を続けて基地まで約300mに差しかかったところで華子宮高校の生徒から奇襲に近い攻撃を受けた。



「ひぇぇー!?いきなり撃ってきたよー!」



「模擬戦とはいえ、実戦を想定した訓練なのだからヨーイドンで開始するわけないじゃない」



「うわぁ、これは中々緊張するね...」



「ゲームだって知っていても、ちょっと...怖いかも....」



初っ端から手厚い歓迎を受けたことで、みんな混乱してしまっている。

自分も体の近くを弾丸が飛び去って、内心びっくりしたけど。

建物の近くを歩いていたおかげですぐ隠れられたが、これからどうするか聞かないと。



「あー...えっと、皆さん。このままでは進めないので迂回するか、攻撃するかを選んでください」



「選ぶって言ってもぉ....」



「そうねぇ...できれば戦いたくないかなぁ」



「私は攻撃したほうがいいと思う。迂回しても違う敵が待っているかもしれないし」



「私も田町さんと同意見」



「リーダーである愛星さんはどちらなの?」



「私は攻撃派です」



「わかったよ〜....リーダーがそう言うならわたしは諦める...」



「では配置を。田町さんは左後方の10階建マンションの8階くらいから狙撃をお願いします。識火さんは右前方の5階建から火力支援を。明星さんは自分についてきてもらって、初瀬部さんは索敵のために先行して敵の居場所をスナイパーとガンナーに教えてあげてください」



「……以上です」



説明を終えて、皆の顔を見るとなぜかポカーンと呆けている。



「愛星さんって、軍事系に詳しいの?」



識火さんが問いかけをしてきたので、いいえと答える。



「そ、そう、なんだ」



質問された意図がわからず頭に?が浮かぶ。

あっ...もしかしてさっきの命令が偉そうな感じ感じだったとか?

理由はよくわからないけども仲を悪くするわけにはいかない、謝らないと。



「すみません。偉そうな感じで命令してしまいましたか?」



「えっ...あ!そういうわけじゃなくてね?落ち着いた状態で細かい指示を出してるのを見て、こういうことに慣れてそうな感じがしたものだから....」



「あぁ、まぁ...最初にも言いましたが、一度遊んだ経験があるので、それで幾許か知識を持っているだけです。慣れてはいないと思いますよ、たぶん」



実践経験があることは田町さんしか知らないし、その田町さんも私が今年の2月に起きた事件の当事者だとは話していない。

別にあえて言うほどのことでもないから、黙っておこうと思う。

会話はそこで切り上げて各自、持ち場へつくために移動を開始。



「はぁ....はぁ....どうしてこのマンションのエレベーターは止まってるのよっ....!」



「頑張って駆け上がってください、田町さん」



「うぅ、こっちも階段しかないわ...」



「そんなことより、どうしてVRゲームなのに息切れが起きてるのか分からないんだけど!!」



それは私も疑問に思った、学校でプレイしたときには息切れなんてしなかったのに、今は心拍数が上がっている。

ヘッドセットかスーツに何か、そういう機能がついているとか?



「んー、それって没入感によるものじゃないかな〜?」



明星さんがほのぼのした感じで疑問に答える。

没入感とは?と初瀬部さんが質問。

それに対して明星さんがまた答える。



「ほら、VRとかでホラーゲームをしたら心拍数が上がるとかって話を聞いたことない?それと同じで疑似体験による錯覚が起きて、実際に走っていると脳が勘違いして息が上がっているんだと思うよ」



「VR機器に詳しいのですか?」



「うーん、まぁ。ゲーム関連の記事はよく見てるからねぇ。でも聞きかじった程度の知識だよ〜」



「いえいえ、それでも面白い話が聞けました。ありがとうございます」



「だから走ってるって思わなければ心拍数は上がらないはず、だと思う」



「わかったわ、試してみる」



「お2人は配置場所に着いたら教えてください。明星さん、自分たちも移動しましょうか。初瀬部さんが先行して索敵をしてくれているので安全でしょうし」



「はーい」



私たちは建物の影に隠れつつ、地上を少しずつ移動した。

先行している初瀬部さんから敵ぽいものを視認したと報告をもらったので、配置についた田町さんたちに姿が見えるか尋ねる。



「こちらは見えるわ、初瀬部さんがいる場所から見て前方のマンション2階にいる。識火さんはどう?」



「こっちからは、手前にあるアパートが邪魔で見えないわ」



「了解。リーダー、攻撃するの?」



相手の数がわからない状況で、せっかく隠れているアドバンテージを捨てて攻撃をしかけるのは果たして良策なのか。

だけど見つかっていない今であれば、こちらがされたように奇襲にはなる....かも。



「田町さん、一発で命中させられますか?」



「リーダーのご命令とあれば、必ず当てるわ」



「なら、当ててください」



了解と言って田町さんは口を閉じた。

きっと、射撃体勢に入ったのだろう。

一定のリズムを刻んだ呼吸音が、ヘッドセットのドライバーユニット越しに聞こえてくる。

自分が撃つわけではないのになんだか緊張してきた、気を紛らわすために隣にいる明星さんを見ると彼女も表情が硬い。



「準備できたから、リーダーの3カウントで撃つわ」



「えぇ...私がカウントするのですか。わかりました、では始めますよ」



「3、2、1.....」



0と発したのと同時に後方からドン、という力強い衝撃波が建物を反響して体へ届いた。



「命中させたわ」



「おおっ。有言実行なんて、凄腕スナイパーだね!」



「すごいわ〜、私も見習わなきゃ」



以前助けてもらったときと変わらない技量に、自分も思わずうなずいてしまう。

距離は約140mくらいかな、大通りのときよりも遠いのに外さなかったのは凄いことだ。



「さすがです、田町さん。やはり頼りになりますね」



「大したことはしてないわよ」



「いえいえ。一撃必殺の腕前、恐れ入りました。麗しさの中にも鋭い牙があってこの愛星、思わず淡い恋心を抱いてしまいそうになりました」



「っ...!///馬鹿なこと言っていないで次よ!」



田町さんの反応を楽しめたのでおふざけは程々にして、気持ちを切り替える。

狙撃が成功したことで華子宮高校の生徒は多少なりと動揺しているはず。

このまま攻勢に出るか、様子見をするか...うーん。

1つ案が浮かんだ、相談してみよう。



「識火さん。敵がいそうな場所に手当たり次第、射撃を行なってくれませんか?」



「え?どういうこと??」



「有体に言えば囮ですね。こちらの姿を晒し続けることで相手に攻撃したくなる心理を与え、居場所を教えてもらおうという作戦です」



「ですがこれは識火さんだけが集中的に撃たれてしまうリスクもあるので、ローリスク・ハイリターンとは言えないです。後は居場所をちゃんと見つけられる保証もないですし」



「あー、ちょっといい?」



初瀬部さんが会話の間に入って新たな提案をくれた。



「このゲーム、ガジェットっていうのがあるみたいなんだけど、私のロールは偵察ドローンが使えるらしいよ。これ使えばノーリスクじゃない?」



ガジェットなどというものがあったとは知らなかった。

ということは前回遊んだときは、そういうものを一切使わずにプレイしていたのかぁ......残念。



初瀬部さんの提案通りドローンなら体を晒す必要がない、さらに見つからずに飛ばせられたら一方的に相手の姿を捉えることもできる。

なんだか、日常生活を便利にするために街を飛んでいるドローンを軍事的用途に利用するのは気持ちが良くないけど.....実戦じゃないから良しとしよう。



「その案でいきましょう、操作をお願いしますね初瀬部さん。あ、それとヘルプを見たらマーカーをつけられるそうなので、敵を発見したらつけていただけると助かります」



了承の返事の後、初瀬部さんはドローン操縦に入った。

これでまた待機の時間がやってきて少々退屈だと思ったが、そう感じているのは自分だけではないようで、隣の明星さんも落ち着きがない。



「敵1人発見。マーカーをつけるよ」



報告を受けてマップを開きつつ、マーカーの指された場所を見る。

ここから左前方80mの距離にある建物の角で待ち伏せているようだ。



「2人目見つけた。んー...あ、残りの2人も発見。ドローンってめちゃくちゃ便利だね」



2人目は右前方90mの位置にいて、残りは100m先のところで一緒に待ち構えている。

マーカーの番号は順に1・2・3・4。

射線のことを考えると1番は識火さんに担当してもらって、2番は初瀬部さん。

残りは自分と明星さんで対処がベストかな。



「識火さんは1番をお願いします。初瀬部さんは2番を担当してほしいのですが、念のため田町さんも狙撃でサポートを。3と4は私と明星さんで対応します。異論はありますか?」



全員、異論なしとのことなので行動開始。

その直後に後ろから、けたたましい連続した射撃音が飛んできて驚いた。

識火さんが発砲し始めたようだ、それに釣られた1番の相手が撃ち返してきている。

2番が動かないのを確認した初瀬部さんは、遮蔽物の間を縫うように移動して距離を縮め、対象の40m前あたりで射撃を開始。



2人の動きを見た後は自分たちも移動。

道を真っ直ぐには進まず相手の裏を取れるように、横道にそれて進む。

70mのダッシュを済ませ、相手の背後を取れる位置についた。



銃声が前後を含めて5つ聞こえてくるあたり、まだ2人は存命だが相手を倒すこともできていない。

3番と4番を早く倒して、手伝わなければ。



「明星さん、4番を狙ってもらえますか?」



「わ...わ、わかった」



緊張しているのを見て大丈夫か不安になるけど、信じるしかない。

3カウントで同時に射撃することを伝え、数字を数える。



「3・2・1...0」



引き金にかかった指を、躊躇なく引いて弾丸を数発放つ。

3番の上に表示されているライフゲージが0になったのを確認して倒したと判断。

しかし明星さんは弾を当て損ね、4番から反撃を受けた。

取り急ぎ、彼女の頭を押し下げて自分は4番へ撃ちかえす。



「ごめんっ....!手が震えてはずしちゃった....」



「構いませんよ、こういうときのツーマンセルですから」



謝る隣人を尻目に適当なフォローの言葉をかけながら射撃を続け、4番のライフゲージを0にした。

ちょっと危なかったけども、結果よければ全てよし。



そういえば、さっきまで聞こえていた銃声が聞こえなくなっている。

もしかすると生き残ったのは、自分たちだけではないかと心配になり通信を行う。



「皆さん、生きていますか?」



「生きてるよ」



「私も大丈夫」



「そっちも、なんとかなったようね」



「はい、なんとか。皆さん、この先にある基地付近のコンビニで集合しましょう」



さて、ここからが本番になりそうだ。

コンビニに集まった後、補給場に寄ってから基地へ向かったが、その基地前に揃った味方の数は120人中80人と開始時点よりは数が減っていた。

スコア表を見る限りでは華子宮高校のほうは120人も残っている。



40人という数の差が目標確保に対して、いかほどの影響を及ぼすのか簡単に想像はつかないが頑張るしかない。

この先の段取りを考えるために、補給場に集まっていた各班のリーダー同士で話し合いをした。



「何か攻略の案がある人いる?」



「とりあえず、左側の建物から攻めるとか。狭めの場所だからすぐ制圧できそうだし」



「狭いのは逆に危なくないか?狭いってことは逃げ道も狭いんだぞ」



「じゃあ、右にある広めの建物を先に攻略したらいいんじゃないかな」



「そういえば愛星さん、実戦の経験あったよね?」



「え?あ、はい。不本意ながらも」



「それじゃあ、経験のある愛星さんなら案が思いつくかな??」



「いえ。経験があると言っても、ここまで広い場所での戦闘はこのゲーム内でしかないので....期待には沿えないかと」



「ただ...そうですね....。ガジェットのドローンを使って偵察すれば、攻略する順番も見えてくるかと」



しかし、この自衛隊基地は広さがあるうえに建物が10棟もある。

例えドローンを駆使しても、この広さで10棟の建物を見て回るのは骨が折れるだろう。



ただ正門から見て奥の方の建物は手前に木が生えている関係上、射線が通しにくいように見える。

だから敵は隠れていないと考えられるので、その周囲の偵察は省いてもよさそうだ。



となると、ここに来る道中で自分がやったような攻撃要員のスナイパーとガンナーを高所に待機させて、下にいる他の者が索敵と護衛をしている構図なのではなかろうか。

なにせ素人の自分にさえ思いつくような作戦なのだ、相手にも似たような作戦を考えた人はいるはず。



「幸い、奥の建物は木々で射線を塞がれているのでそちらは警戒しなくていいと思います。そこを除いた場所を各班のポイントマンにドローン偵察をお願いしましょう」



見回ってもらった結果としては手前の2棟に90人、グラウンドを挟んだ先にある1棟に残りの敵は構えているらしい。

ただ偵察の最中、ドローンに気づかれて撃墜されたことを踏まえると場所を移動された可能性もある。

しかし制限時間が迫っているため、不安要素があっても前に出るしかない。



「では、先程偵察をしてもらっている間に話し合った作戦でいきましょう」



当初は自軍の80人のうち、70人を2棟に当て残りをグラウンドの1棟に送る予定だったがそれはやめて、全員で先に2棟を攻略することにした。

グラウンドのほうは敵の人数が少なく距離があるのと、自分たちが2棟の建物内部に入った場合、外からこちらへ攻撃を加えることは難しい。

ゆえに放置しても大丈夫だと推測して後回しにすることにした。



自分の班の元に戻ってこれから行うことを4人に説明し、配置を決める。



「初瀬部さんと識火さん、私が前に立ちます。田町さんは後方から援護、田町さんの護衛役を明星さんが担当してください。それと我々は左側の建物制圧に参加します」



気になることなどがないか確認をしたが、挙手はなかったので門前へ移動。

他の班も準備は終わったらしく、作戦開始の号令を待っている状態だ。



大人数での戦闘は初めてだから、さすがに緊張する。

スムーズに事が運んでくれるといいけれど....。



「みんな!建物までは少しだけ距離があるけど、足を止めずに走って中へ入ってね!作戦開始!!」



さっき話し合いをしていた班の人の号令と共に門を潜るべく、人の波が動き出す。

そして敷地内に入った途端に、攻略対象の2棟から銃弾の雨あられが降りそそぐ。



その勢いにあてられて、走っていた味方はたじろいでしまっている。

自分の班員たちも前がつっかえているのもあるが、同様に足がすくんでいる様子。



「うえぇ...ここにくる前よりも酷いんですけど!?」



「確かにさっきとは比較にならない...かなり怖いわ...」



「足を止めないでください!建物まですぐです、頑張って!!」



そう叱咤し、的を分散させるためにも自分は歩みを止めず先頭を進む。

走りながら後方をチラッと見ると、4人はちゃんとついて来てくれていた。

なんとか欠員を出さずに建物にたどり着けたがここからが本番。



突入の合図を出して、開扉....するや否やまたも銃弾の嵐に見舞われた。

銃撃が止んだら顔を出し、廊下にいる相手の数を確かめようとしたが、少しでも体を晒そうものならすぐさま弾が飛んできて、数えることもままならない状態。



しょうがないので数えることは諦め、銃だけを扉から出して適当に乱射する。

他の人たちもこちらを見習って同様に射撃を行う。

しかし、アサルトライフルでは装弾数が少ないため弾幕を維持できない。

ここはガンナーたちの出番だ。



「ガンナーの皆さん、ライフルマンの方々に代わって弾幕を維持してください。その間にライフルマンとポイントマンが前進して廊下の敵を掃討します。援護お願いします!」



作戦を伝え、識火さんを含めたガンナーたちが射撃を始める。

急いで初瀬部さんとツーマンセルになって、突撃。

一気に雪崩れ込んできた攻撃側に対して廊下の防衛側は対応しきれなかったのか、なし崩しに倒されていった。



その後は勢い任せに各階を制圧。

攻略が完了したため外に出ると、右の建物に行った人たちも外に出てきた。

あちらも上手くいったようでなにより。



残すはグラウンドの先の建物。

こちらも合流した人たちとで一気に制圧して、ゲームセット。

これで攻守役は終わりで次は防衛役だ、頑張ろう。

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