12-2

「今日の訓練は、他校との模擬戦を行なってもらいます」



訓練の時間になったのでグラウンドに集合したら、いきなり模擬戦をすると引率の先生から伝えられて動揺する生徒たち。

かくいう自分も驚いている、でも合同演習という話の時点でありうることではあった。



「模擬戦とは言いましたが、演習弾などを使って実際に戦闘を行うのではなく、VR空間で戦ってもらいます。これから体育館に移動してそこで機器を渡します、ついてきてください」



そう説明を受けて体育館内について行くと既に他の学校の人たちが準備をしている様子が見えた。

そして先生たちから学校にあったものと同じVR機器にプラス、見知らぬスーツを受け取った。



「このスーツはダメージを受けた際の痛みを再現するための触覚スーツです。危険性はないので安心してください」



ええっと、ダメージって撃たれたりしたときの場合を指してますよね.....?

うえぇ....あの痛みを疑似とはいえ、また体験するかもしれないのかぁ。

危険性はなくとも.......絶対に被弾したくない、なにがなんでも避ける心構えで挑もう。



指示通りにベッドセットとスーツを装着して電源を入れると、見たことのあるアプリがホームに浮かんでいる。

そう、学校で遊んだ"Sphere of Defence"だ。

まさか合同演習でこのゲームをプレイすることになるとは思ってもいなかった。



「班長が班員をパーティに誘ったら、その状態で大規模戦モードを選んで人がそろうまで待機してください」



VRヘッドセット越しに先生の話を聞いて、言われたとおりに皆をスクワッドへ招待して、次の指示を待つ。

待っている間に味方の参加人数の欄を見ると30人、50人と徐々に数が集まってきている。

そして最大プレイ人数はなんと360人、大規模戦の名を冠するに恥じぬ数だ。



「皆さん、集まったようですね。華子宮(かしみや)高校の人たちの準備が終わるまで、もう少し待っていてください」



対戦相手は華子宮高校。

こちらは30×4の120人だが、あちらの生徒は何人いるのかが気になるところ。

それから数分待ち、相手側の参加人数の表記を見ると300人になっていたので華子宮高校は、180人の生徒がいる計算であってるかな?



「両校の準備が済みましたので、模擬戦の内容を説明をします」



「初めに、攻撃する側と防衛する側に分かれてプレイしてもらいます。攻撃側は目標地点を制限時間内に攻め落とし、防衛側は攻撃側の侵攻を凌いでもらう形になります」



「ダメージを受けて戦闘不能になった場合は戦死扱いになり、復活はありません。それから各員はロールを選択した状態で戦闘に臨んでもらいます」



「ロールは斥候のポイントマン、一般歩兵のライフルマン、衛生兵のメディック、狙撃手のスナイパー、機関銃射手のガンナーから選んでください」



「操作方法などの詳しいことはアプリ内で表示されるので、それを見て学ぶように。ではロールを選んで準備完了を押したら開始まで待機をお願いします」



ロール?前回遊んだときは、そんなものはなかったような気がする。

とりあえず皆にやりたいロールを聞いてみよう。



「田町さん、長谷部さん、明星さん、識火さん。それぞれ、やりたいロールはありますか?」



「私はスナイパーがしたい」



「ポイントマンかな」



「わたしはメディック〜」



「ガンナーをしてみたいわ」



この班の人は積極的でいい、自分とは大違いだ。



「じゃあ、私は残ったライフルマンですね」



各自決めたロールを選択して準備完了ボタンを押す。

ゲームは60秒後に開始だ。



他人と一緒に協力して遊ぶのは何年ぶりくらいだろう。

記憶が正しければ、中学1年生のときに友だちの家へ遊びに行ったとき以来かな?

でも今回はゲームを使用しているとはいえ、訓練だから遊びではないか。



カウントが10秒を切った、そろそろ始まる。



5・4・3・2・1.....0。

模擬戦の開幕だ。



数秒のロード画面を経て視界に映ったものは、この合同訓練地である基地を含んだ周辺の街。

右上の目標欄に、目指す場所は先ほどまでいた基地と表示されている。

そして目標欄の内容と合わせて、基地の内側ではなく外側にいることをふまえれば自分たちは防衛側ではなく、攻撃側になったのだと思う。



「へぇ、今のVR技術はこんなに凄いものなのね」



「うひゃー、めちゃくちゃリアルだ〜」



後ろから田町さんと明星さんの声が聞こえ、ふり返ると他の2人も興味深そうにバーチャルの世界を眺めている。

初々しい反応で微笑ましく思う、かくいう自分も初回は同じような反応をしてたけど。



「皆さん物珍しいのはわかりますが一応、訓練中なので楽しむのは学校に帰ってからにしてください」



「え、学校にもあったんだ!」



「ええ。このゲームなら部屋にあるVR機器の中に入っています」



「愛星さんは遊んだことあるの?」



「あります、でも1回だけなので素人同然ですよ。とりあえずマップを開いて現在地の確認と味方の位置を把握しましょう」



マップの開きかたを4人に教え、自分もマップを開く。



「今いるところは基地から700mほど離れた地点のようです。味方は横に20mくらいの等間隔で展開していますね。目標の100m前付近までは安全だと思うので、そこまで前進しましょうか」



そうして現地点から200mくらい進んだあたりで、銃声が散発的に聞こえてくるようになった。

どうやら先に進んだであろう他の班が、華子宮高校の生徒と戦闘を始めたらしい。



「うえぇ....学校で訓練してたときと違って聞こえてくる音がおどろおどろしくて、嫌なんですけど〜....」



明星さんがビクつきながらそう言う。



「そうだね。なんか動画とかで聞いてたものとも全然違う....こう、想像以上に淡々としてるっていうか」



初瀬部さんは怖がっていないが、若干不安そうではある。

私も襲撃にあった日の夜に初めて銃声を聞いたときは、心底怖いと思ったから明星さんの気持ちはよく理解できる。

フィクションなどとは違って派手さは一切なく、重く冷たい音が骨を伝って響いてくる感じだった。



「本物の銃声はフィクションのような加工された破裂音じゃなくて、火薬が爆発した際に出る衝撃波が空気を伝わり音波になって聞こえているから、派手さがないのだと思う。それとおどろおどろしく聞こえるのは、音が建物に反響しているからだと思うわ」



「へぇ、そうなの。田町さんって博識ね?」



和気藹々としていて喜ばしいことですが、今は訓練中。

すでに戦闘が始まっているとあれば、自分らも早く戦線へ合流しないと。

班員たちに話を切り上げるよう促して足を進めることにした。

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