12-1

2036年 7月19日 土曜日 05時30分



スマホの目覚ましアラームが起きなさいと、顔の横でぶるぶる唸っている。

画面に手を伸ばしてアラームを切り、ゆっくり体を起こす。

他の人はまだぐっすりお休み中のようだ。

睡眠の邪魔をしないように気をつけて外へ出る支度を済ませ、部屋を離れる。



朝食を食べられるようになるのは07時以降だからそれまではグラウンドを走って、体を温めよう。

あ、その前にちゃんと柔軟体操をしておかないと。

初めはゆっくりめに走り、徐々に速度を速めて15周走ったらランニングからウォーキングへ移行。



初日に走ったとき、しんどくなったことが気になって翌日にネットで調べてみたら運動をした後はすぐには体を止めず、クールダウンの時間を設けたほうがいいと書かれていたので取り入れるようにしてみた。

そのおかげか、気持ち悪さや吐き気は軽減されたけど、しんどさについてはあまり変わりがない。



ウォーキングが済んだらベンチに座って一休み。

早く起きすぎたせいで、長いあくびが口から漏れる。

眠いから部屋に戻ったらもう1回横になろうかなぁ....あー、でも汗をかいているしだめか。



運動をするとすぐ額に汗が浮かぶくらい気温も高くなってきて、本格的に夏を迎えたなと感じる。

今年の梅雨はまだ終わっていないうえ、梅雨明けが観測できない可能性があるとネットニュースで見た。



湿度が高く、天候が安定しない状態が続くと気持ちよく部活ができないため早めに去ってほしいものだ。

とはいえ、今は合同演習中だから部活とは違い天候などお構いなしだけど。

さてと...休憩もとったし、もう一走りしてこよう。



ふぅ、体を動かした後に食べる朝食は乙なものだ。



あれからグラウンドを、ぜぇぜぇ息を切らしながらもう10周走った。

息が整うまで休憩するついでに、時間を確認したら07時前だったので急いでシャワーを浴びに行って、この食堂にきた次第である。

朝食はブランロールパンと目玉焼き・ソーセージにカフェインレスのミルクコーヒー。



冷めないうちに、焼きたてのロールパンを裂いて中にバターを塗っていく。

ブランパンは糖質が少ないのは良いが、ふすまを使っている関係でどうしても、味に苦味が出る。

だからバターだったり、間に何か具材を挟まないと食べにくいのが玉に瑕。



では、いただきます。



早食いをして胃に負担をかけないようゆっくり、しっかり噛んで飲み込む。

ソーセージは脂がひかえめで食べやすく、ミルクコーヒーも新鮮な豆を使用しているようで酸っぱくなくて飲みやすい。



ごちそうさまでした、美味しかったです。



食事を終えて部屋へ戻るとベッド2つが空になっていた。

対して、まだお休み中の田町さんと識火さんの寝顔をこっそり拝見。

田町さんのにこやか笑顔としかめっ面の識火さん、普段のイメージとは全く逆の表情にふふっと笑みがこぼれる。



名残惜しいが人の寝顔はまじまじと見つめるものでもないので、自分のベッドに戻ってネットサーフィン。

ぼけーと画面の情報を眺め続けていたらいつの間にか40分近く時間が過ぎていた。



おお...怖い怖い、便利で快適で合理的な世の中になったのはいいけれど、色んな情報が溢れていて目移りしやすい今の環境は、人にとって情報過多なのかもしれない。



それはさておき、今の時刻は08時27分。

訓練開始は09時30分からなのでそろそろ、2人を起こしたほうがいいかも。



金髪ツインテールの美少女のそばに寄って肩を優しく揺らして起きるように促し、黒髪ロングの彼女にも同じことを行う。

しかし2人とも中々起きてくれないため、頬をツンツンしたり、頭を撫でてみたりと悪戯をしてみる。



すると金髪ツインテールさんが、私を抱き枕か何かと勘違いしたのか抱きついてきた。

綺麗なご尊顔が近くて、恥ずかしさのあまりに急いで腕を解こうとするが、想像以上に力が強くて逃げられない。

もぞもぞ抵抗し続けてなんとか解放してもらえたが、今後は気をつけて近寄らないと。

でも、尊い時間だったなぁ....ふへへ...えへ。



おふざけはこの程度にしてもらうとして、本当に起きてもらわなければ。

田町さんは一旦後にして先に識火さんを起こそうと手を伸ばしたら、こっちでも抱きつかれてしまい戸惑う。



「...おはよう、愛星さん。えっと....そういうことは他人がいない時にしたほうがいいわよ?私は見なかったことにするから、安心してちょうだい」



識火さんを引きはがすためにわちゃわちゃしていると、タイミングを見計らったかのように目を覚ました田町さんに変な誤解を与えてしまったようだ。



「いや、あの、そういうのではなくてっ....ですね!寝ぼけた識火さんが、抱きついてきただけです!」



「本当?愛星さんが抱きついたのではなくて?なんだか怪しいわね」



「私に対する信用のなさは、どこから来ているのか分かりませんが...。そんなことよりも、引きはがすのを手伝ってください!というより、田町さんにも抱きつかれたのですが!?」



「だって愛星さん.....え...!?そんな記憶はないのだけど....事実なの?」



「事実、事実ですから!お願いします〜!」



投げやりに返事をすると抱きついていたことが恥ずかしかったのか、顔を逸らした状態で、みるみる彼女の頬が熱を帯びていく。

その様も絵になるけど、今は助けてくださーい!



それから間をおかず情緒が回復したようで、識火さんを一緒に引きはなしてくれたので助かった。

荒い息を吐きつつ横目で時計を見ると08時50分、彼女を早く起こさないと。



「訓練まで時間があまりないですよー!識火さん、おきてくださーい!!」



こちらの苦労を知らぬ、気持ちよさそうな寝顔を晒す人へ遠慮なく大声で呼びかけるがそれでも起きてくれないので、頬を優しく叩いて物理的な刺激も加える。

すると、痛いよぉと言いながら体を起こしてくれた。



「識火さん、おはようございます。訓練まで残り40分なので、顔を洗ったらすぐにご飯を食べに行ってください」



「えっ、もうそんな時間なの!?ごめんなさい。それと、起こしてくれてありがとう。急いで用意してくるね!」



ふぅ、これでなんとか大事には至らないだろう。



「手伝ってくださってありがとうございました。田町さんも準備をされたほうがいいかと」



「そうね。愛星さん、私が貴女に抱きついたことは誰にも言わず墓まで持って行って?もし言ったら、こちらもさっきのを言いふらすから」



「言いませんから脅さないでください。目が本気で怖いです」



「分かったわ、じゃあ私も用意してくるからまた後で」



そう言って彼女は識火さんの後を追うように部屋を出ていった。



「うふふ、まさか田町ちゃんが愛星さんに抱きつくなんてね〜?」



心底楽しげな声色で初瀬部さんと明星さんに、先程部屋で起きた事件を語る識火さん。

2人が起きた後は皆んなで食堂に集合し、そこで自分以外の人は朝食を食べながら雑談をしていたが、唐突に爆弾を投下した識火さんに焦る。

なんてことをしてくれたのですか!心臓がキュッとなりましたよ!



私の横で話を聞いている田町さんは、恥ずかしさを抑えられずプルプル震えている。

実は識火さん、寝たふりをしていて私達の一部始終を見ていたそうな。

そして自分もやってみたくなったのでこちらに抱きついたとさ、めでたしめでたし。



いや....めでたくないです、全くもって全然!

どうするのですか、田町さんが今にも大噴火しそうな状態ですよ!?

仕方なく、田町さんの両手を優しく握って、落ち着いてくださいと諭す。

すると耳を真っ赤に染めて俯いてしまった。



「愛星さんって意外と大胆なのね♪」



彼女をこんなふうにした張本人が喜んでいるのを見て、やれやれと思う。

それから少ししたら、田町さんは機嫌を回復してくれたので訓練開始の時間まで噴火要素なしの雑談を続けた。







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