11-2

バスが走り出してはや1時間、目的地までは残り1時間40分ほど。

席で流れる風景をじっと眺めていたものの、さすがにちょっと飽きてきた頃合い。



胸ポケットからスマホを取り出してネットサーフィンを始める。

検索アプリを開くとタブ一覧が未知の存在について調べたタブで溢れかえっているのを見て、小さなため息が出てしまう。



2ヶ月前に再度出会って以来、日々ネットの海を漁りに漁ったが結局のところ彼女らについての有益な情報は得られなかった。

以前もそうだったが、やっぱり情報の規制などを行なっているのかもしれない。

AIが記事の生成・管理やコメントの伐採などをしている世の中だから十分あり得る。



未知の存在のことを考えていたら、全く関連のない嫌なことを思い出してしまった。

そう、学生の宿命である中間・期末テストのこと。

期末はともかく中間テストは、私が学校に復帰して2週間後に実施されたのだが、非常に辛い思いをすることとなった。



結論から言うと、中間の結果は国語や社会などの暗記系は50〜65点で数学は赤点ギリギリの42点、英語も同様に46点だった。

う〜ん、悲惨な点数だね!これには自分もビックリ!



いいですわよね、皆さんは4月から欠席していらっしゃらないですもの!

きー!未知の存在に邪魔をされなければ私だって、良い点数を獲得できましたわ!

ええ、ええ!きっとそうよ!!(涙)



そこに、渡先生のどうフォローしようか悩み混じりの微笑みが、私の心にグサッと深く突き刺さったものだ。

ごめんなさい渡先生、不出来な生徒で...ぐすん。



復帰してからの2週間で1ヶ月半の授業内容を覚えるのは、どうやら自分には難しかったらしい。

期末はちゃんと時間に余裕があったおかげで暗記系は平均75点くらいで、数学と英語も意外なことに60点代だった。

やればできるではないか私、偉い!でもそこまで点数は高くないけどね!



そんな感じで1学期のテストはなんとか凌げたわけだが、これからもっと授業の内容が複雑になっていくとなると先が思いやられる。

嫌なことは忘れて宇宙に関する動画でも見て、リフレッシュしよう。



それから現地に到着したのは12時30分ごろ。

渋滞にあってしまったため、予定より1時間ほど遅れての到着となった。



バスから降りるとその先にはたくさんの学生が集まっていて、これから演習が始まるのだと実感させられる。

綾乃高校の生徒が全員集合したら、引率の先生が話を始めた。



「皆、注目!今日からここ、元自衛隊駐屯地で5日間合同演習をします。他校の人に迷惑をかけないよう気をつけつつ、演習に励んでください」



どうやらこの場所は自衛隊の基地だったようだ。

元というわりには建物や道が綺麗だし、掃除も行き届いていると見える。

案外、人の利用頻度が高いのだろうか。



話の後は宿泊先になる建物へ移動。

事前に決めておいた班ごとに部屋割りを行い、各自荷物を部屋に置いたら食堂で軽く昼食を摂ることに。



ここの食堂は学校と違って1階にあるため、綺麗な景色を見ながら食事をできないのは少し残念。

そのかわり、ご飯の味に期待を膨らませたい。

メニューは...ふむ、定番のカレーにうどん・そば、和食の定食など。

カレーにしようかな?追加でカツをのせて....

あぁ、でも糖質制限をしているからだめか....くぅ。



でも合同演習ではたくさん運動するはずだし、1食くらいなら....ほら!栄養が足りなくて倒れたりでもしたら困るし!

いや、1回決めたことは目標が達成されるまで曲げてはならないのだ、私よ。



なくなくカレーは諦めてトンカツとサラダにお味噌汁を頼んだ、カレー食べたかったなぁ…。

文句をいっても仕方ない、自分で決めたことだから。

とりあえず、冷めないうちにいただきます。



うん。

美味しい。



このトンカツ、すごくジューシーなのにさっぱりしている。

外のころもが油っぽくないのが凄くグッド、自分は油物に弱い体質で量を食べられないほうだけど、これは大丈夫。

お味噌汁はほんのり甘い味がする、具は玉ねぎと油揚げのみとシンプルではあるが、きっと味噌の味を楽しんでもらうための配慮だろう。



最後の一切れであるカツを味わって食べ、お水を飲んだら、ごちそうさまでした。

まさかここまで美味しいとは予想していなかったなぁ、学校に帰ったら学食のトンカツと味を比べてみねば。



昼食タイムの後は早速、合同演習の始まり。

といっても、他校との演習は4日・5日目に行う予定でそれまでは各々の学校ごとで訓練。

どんな演習をするのかは伝えられていないが、ほんのちょっぴり楽しみ。

それと演習はチーム戦なので部屋割りのときの班で受ける。



自分は8班でメンバーは田町さんと、その他3人を含めた5人構成。

この人数は軍隊でいうところの班に値する数で、これが8〜12人くらいになると分隊となり、小隊は30〜60人と人数が多くなるにつれて名称がランクアップするらしい。



集合場所へと向かうとすでに他のメンバーはそろっていてた。

引率の先生が班に合流次第、リーダーと副リーダーを決めるように声をかけて回っている。

ひとまず、コミュニケーションの基本として挨拶をしなければ。



「皆さん、こんにちは。これから3日よろしくお願いしますね。ええっと...失礼ながら田町さん以外の方は知らないので、お互いに自己紹介をしませんか?」



「そうだね〜」



「うん、5日間だけだけど一緒に過ごすものね」



「じゃあ、まずは自分から自己紹介しようかな。私は田町さんと同じ2組の初瀬部 加賀水(はせべ かがな)。よろしく」



「次はわたしだね〜、1組の明星 莉宵(みよせ りよ)だよ〜!」



「今度は私かな?4組の識火 胡乃依(しきび このえ)です。よろしくね?」



「私は田町 紫陽(ちまち しはる)よ。よろしく」



「最後は私ですね。3組の愛星 愛璃(あいせ あかり)です。よろしくお願いします」



背丈は私と同じくらいで肩にかかる1歩手前まで伸ばした黒髪、精悍な顔立ちでクールなのが初瀬部さん。

目はキレ目に近い感じだけど、怖い雰囲気はなくてむしろ格好いい。



背が私より10cm程度低く黒ショートヘア、愛らしい感じの顔つきなのが明星さん。

初瀬部さんと比べてこちらは目が大きくて可愛い系だ、そしてやたら元気いっぱい。



身長が私より少しだけ高くて、髪は肩甲骨あたりまで伸ばしており茶色く見える髪色、大人の余裕が見える顔つきが識火さん。

目がほんのりタレ目で、休日にカフェとかで働いていそうな雰囲気。



そして背は私より2cm低く、金髪ツインテール、優雅な輪郭をもつ顔の田町さん。

ふふっ…いつ見てもお美しい肢体とご尊顔ですね、お嬢様。



ふむ、外見の感想は置いとくとして田町さんと初瀬部さんは同じ組で、他の2人は別々かぁ。

こういうグループ決めのときは基本、クラス内の人間で組むイメージだったけど今回は先生たちがメンバーの割り振りを決めたので、この人選には何かしらの理由がありそう。



名前と顔を一致できるよう、3人をじっくり見ていると識火さんが班のリーダー・副リーダーは誰がするかの議題をなげてきた。

自分は人に命令したり、上に立って行動を起こすのは苦手だから是非とも遠慮したい。



田町さんならクールでツンデレで可愛いうえ、頭脳明晰ぽいし適任かな?

初瀬部さんは落ち着いて、物事をハキハキ言える性格に見えるため彼女もおススメかも。



明星さんは...うん、全身から漂う面倒くさいオーラから察するに勧めても拒否されそうだ。

識火さんは優しいお姉さん系な感じがするので、副リーダーの立場でリーダーを支える係が得意そう。



リーダーは田町さん、副リーダーは識火さんが良いのではないかと私は提案すると明星さんも同意見だと賛成してくれた。

考えるのが面倒で、適当に賛成していそうだなぁ。

初瀬部さんは意外にも、自分は向いていないからしたくないときっぱり明言した後、私の案に乗ってくれた。



残るは2人の意見。



「私、リーダーは苦手。その...性格がきついのと、愛想が悪いって自覚してるからやめておく」



田町さんがこれまた意外なことに、リーダーを辞退した。



「うーん、おかしいですね。性格はツンデレだけど良い人で、愛想だってちゃんとあると思うのですが....」



はっ....つい、心の声を外に出してしまった。

恐る恐る田町さんの様子を窺うと、頬と耳を朱色に染めながらこちらを睨んでいる。

ひぃぃ...だって本当のことだもん、仕方ないもん、ごめんなさ〜い!!



「まぁまぁ、落ち着いて。私は副リーダーに田町さんを推薦するわ」



識火さんが田町さんをなだめた後、意見を述べる。



「そして、リーダーは愛星さんが良いんじゃないかと思うの」



ん〜...んんっ、なぜ!?



「え、ええっと......??参考までにどうして私をリーダーに推すのでしょうか?」



「理由は2つ。積極性を感じるのと田町さんと仲が良いこと。副リーダーに田町さんが就く前提なら、愛星さんがリーダーを務めれば色々スムーズで、万事解決よ♪」



うーん、満面の笑みで何を言ってらっしゃるのかしらこのお方は。

自分がリーダーになんてなったら、ソリューションどころかクラッシュしちゃうと思いますよ?



「愛星さんがリーダーをするなら、私は副リーダーになっても構わないけど」



あのー、田町さん?さっきの仕返しですか?

彼女のほうを見ると、他の人にバレないようこっそり口角を上げるのやめて!?

挙句の果てには残りの2人も賛成し始める始末、裏切りものぉ!

これが人間社会で最も恐るべき攻撃の1つ、同調圧力!



この流れには、逆らえませんよね...はぁ。

しぶしぶ役目を引き受けることを承諾して会議、もとい責任の押しつけ合いは終了。

責任は負いたくないなぁ.....うぅ。

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