9-2

5限目の予鈴が鳴り、化学の時間になったが予想通り覚えることに必死で余裕が全くなかった。

「ワタシッテ、コンナニベンキョウデキナカッタノネ」などと、ふざけて慰めないとやっていられない。

いや、勉強については能力が足りないと薄々気づいていたけども....くっ、悔しい。



6限目、射撃訓練。

これは勉強なんかに比べればかなり楽な授業、なぜならば的に照準を合わせて、無心で指を引くだけだから。

私を含め生徒達は移動時間の合間に、自身の部屋へ銃を取りに向かう。

射撃場につくと、既に渡先生がベンチに座って待機していた。



「全員来たわね。じゃあ、訓練を始めるわよ。肩慣らしにハンドガンから撃っていって頂戴」



そう言われ、8つあるレーンにそれぞれクラスメイトが立って撃ち始めた。

人の射撃をまじまじ見るのもプレッシャーを与えてしまいかねないので、自分の番が来るまでは空を眺めて時間を潰しておこう。



今日は快晴で気持ちの良い空、ただ雲がないから楽しさが減ってしまっているものの、夜景や星を見るにはいい条件だ。

またいつか望遠鏡を手に入れて星を覗きたい、そのためにはこれからの生活をしっかり頑張らないと。



それから20分経つか、経たないかくらいで自分の番がきたことにちょっと驚いたが、すぐにレーンへ立つ。

私がいなかった1ヶ月の間にクラスの子は射撃の手際が良くなったみたいだ。

経験者として、これはうかうかしていられない。



P365のセーフティがかかっているのを確認し、銃口の向きに気をつけてマガジンを装填。

セーフティを外してスライドを引き、射撃の姿勢を整えたら15m先の的をしっかり狙って撃つ。



結果は10発中6発が命中、昨日言われたように膝とお尻に気をつけたけど...なんというか、1日では劇的な変化は起こらないものだなぁ。

日々のたゆまぬ訓練が良い結果をもたらすのであろう、頑張らねば。



ここで1つ思い出したが、この前銃撃戦になったときは相手に攻撃を受けていたせいで、じっくりと狙える余裕がなかった。

距離を取れる屋外はまだいいけど、建物内となればそれが顕著だろう。



照準をのぞかずに素早く、精度の高い射撃をする方法はないのだろうか?

後は片目で照準を見ていると左側の視界を確保できないのが怖い、だからといって両方の目で見ると慣れてないせいでピントがぼやけて、狙いにくくなってしまう。



この2つは、放課後の訓練で改善・克服するべき課題として取り組んでみよう。

それからアサルトライフルも撃って、今回の射撃訓練は終了。



さて...次は体術訓練で体育館に移動し、着替えたのはいいが...体力に自信が全くないから悲惨な事にならないか、おっかなびっくりで授業開始を待った。

後は怪我のこともあるし、できればお手柔らかに願いたい。



「皆集まってるわね?それじゃあ体術の授業を始めるわよー」



渡先生がそう言うとまず準備運動として、おなじみのラジオ体操をすることに。

その最中、私は体術と言うからにはきっと映画などで見たような派手な動きをするのだろうなぁ....と考えていたが現実は違った。



「格闘術については、護身と殺傷があるのだけど今回、あなた達には護身格闘術を学んでもらうわ。殺傷に関しては"必要な状況"になったら教えるわね」



とんでもなく物騒な説明を聞いた気がする、そもそも体術ではなく格闘術...?

さらに言えば護身と殺傷で違うものというのも初めて知った、というより"必要な状況"というのは....あまり想像したくないものだ。



「それとぶっちゃけ、格闘術は現代の戦闘だと銃火器を使う関係で覚えてもらっても活躍する場面は、ほとんどないと思うわ」



確かに先生が言う通り銃火器を扱う中、素手で相手に立ち向かうなんてことは基本ないはず。

あり得るとしたら、銃が壊れたときや閉所でばったり出くわしたなどの限定された条件下だろう。



「簡単なものから実践していくわ。訓練のときはマットの上にちゃんと乗ってね、じゃないと怪我をする可能性があるから」



なっ…何それ怖い!

肩とお腹が痛いので休んでもいいですか?

いいですよね!?



「最初は相手が右手にナイフを持っている状態で襲ってきたときの対処法を教えるわ。まず右手を相手の顎に押しつけて視線を逸らす、次に左手で相手の右手を掴み、右足で右足を押すと簡単に倒せる。これを覚えてもらうのだけど、誰かに体験して貰おうかしら」



渡先生は誰かを探す様に見渡しており、ボーッと見つめていると目が合ってしまった。



「あ、いたいた。愛星さんいいかしら?」



最悪だぁぁ...なぜ私を選ぶのだぁぁぁっ!

やめてぇぇぇ!?

しぶしぶ、本当にしぶしぶ前に出て生贄になることを受け入れる。



「では愛星さん、さっき言った通りのことを私にしてみて頂戴」



えっ、されるのではなくする側とは....怪我をさせないよう慎重にやらないと。

皆の前で実演するのは緊張して、体の動きが硬くなる。



「じゃ、じゃあいきます....」



そう言って、右手を渡先生の顎に当てながら左手で右手を掴むのと同時に右足で右足を押し倒す。



「あ、あわわ!?」



先生の慌てる声と共に、バタンと勢いのある音が体育館中に反響すら。

そして、自分は先生の上に乗っかるように倒れ込んでしまった。



「いたた...」



「すみません!勢いよくやり過ぎました...」



「気にしないで。想像していたよりも愛星さんが上手だったから受け身を取れなかったの、ごめんね」



こちらのせいなのに謝られると萎縮してしまう。

うぅ、悪くないのに謝られるというのは案外精神に訴えかけてくるものががが……。



「出席番号順でペアになって、さっきの動作の攻めと受けを交代しながらやってみて。愛星さんは私とペアでもう一度しましょう」



むぅ...どうして私だけ先生となのか....。

それから先生と何度か練習をして体に馴染んだところで、初めての体術訓練の時間は終わりを告げた。

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