8-4
「何かおすすめのメニューってあるの?」
学食に着いたらすぐに先生が尋ねてきたが、どれも美味しいからおすすめと言われると悩んでしまう。
無難なものならカレーとか唐揚げ定食が良いと思うけど夜に量のあるものをすすめるのは同性として気が引ける。
そうだ、ハンバーグなどのお肉系なら少量でも満足できるし糖質がないから太らない、それらをすすめてみようか。
「チーズ・イン・ハンバーグとミネストローネはどうでしょうか?後はデザートにプリンパフェとか」
あ、しまった。
ついプリンパフェが美味しそうだし、先生が好きそうだから勧めてしまったが.....暴走しないかな?たぶん、大丈夫だよね!
「ふんふん、お肉に野菜のスープかぁ。美味しそうね!プリン好きとしてはパフェもそそられるし。じゃあ、それにさせて貰うわね。ありがとう」
どうやら気に入ってくれたようで一安心、先生が頼んでいる間に自分も決めないと。
なにを頼もうかな、今日は疲れてるし栄養がたくさん摂れる品にしたいところ。
メニューをめくり良さげな品を探しているとステーキの文字が見えて、んん!?と小さく驚いた。
よだれがじゅわぁと出たので食欲という名の煩悩に従い、迷わずステーキを頼むことに。
フルーツサラダとベイクドチーズケーキも頼み、トレーをもらって先生をお気に入りの席にご招待。
席に着くや否や、渡先生は感嘆の声を漏らしていた。
「へぇ〜...ここの夜景とっても素敵ね。くっ、学食なのに...生意気な...私の時代にはこんな学食なかったというのに!未来に生きてる若者は得してるわね〜?」
「先生もまだ25ですから十分、若いと思うのですが」
「分かってないわね?25と16〜18歳では大きな差があるのよ!社会に出て荒波に揉まれたせいで純真無垢でいられなくなったのよ...うぅ」
「た、大変だったんですね。心中お察しします」
適当なフォローありがとうと先生がすねた感じで言い返してきて、ちょっと優しくなかったかなと反省。
「先生、夜景もいいですが食事を摂らないと冷めてしまいますよ」
「そうね、いただきます」
先生のいただきますの後に自分もいただきますの挨拶をして、ナイフとフォークを持つ。
まずはステーキから、と言いたい所だが野菜から食べよう。
フルーツサラダを見てふと思い出したが昔、小学校の給食で出たときは他の生徒からは不評だったけど私は好きで、出るたびにおかわりしていたなあ。
そのせいで変な物が好きな子という認識を持たれて困った記憶がある。
このフルーツサラダは葉物野菜にりんごとパイナップルとみかんを和えて、そこへシーザードレッシングがかかっており、しょっぱさが果物の甘みを引き立てていてかなり私好みの味。
サラダを食べた後はお楽しみのステーキ、厚さは1.5cm程度だろうか。
弾力があるのにちゃんと噛み切れる、硬いのに柔らかい。
こういう食感がヴェルダンなのかな?美味しければ名称なんて関係ないけど!
ある程度サラダとステーキを食べてから、隣にいる先生の方を見るとハンバーグとミネストローネの味はどうなのかちょっと気になった。
こちらの視線に気づき、食べる?とハンバーグを差し出してくれたので飛びつきたかったが、一方的に貰うのは良くない。
お互いに少量を交換するのはどうですかと提案。
OKをもらえたので早速、ハンバーグを一口分切り出して口へ運ぶ。
中のチーズは濃厚でまったりしていて、お肉の汁もたくさん溢れてくる、そして食感はぷにぷにだぁ...。
続いてミネストローネも一口、トマトの酸味が食欲をそそる所にアルファベットパスタのもちもち感がががっがっっ!
....危ない壊れそうになった、先生の前では堪えないと。
先生もステーキを美味しそうにもぐもぐしていたが、フルーツサラダはどうやら苦手みたいでちょっと手をつけただけで満足したらしい。
うーん、もう少し貰えば良かったかな?などと思っていると雰囲気でバレてしまったのか、口元にハンバーグが運ばれてきた。
全自動で食事が運ばれてくるだなんて時代は進んでいるなーなんて、ふざけることで顔が熱くならないよう誤魔化して咀嚼する。
お返しとして私も同じことをしたら、先生も照れていて面白かった。
食事を終えて、お水を飲みながら窓の外を眺める。
久しぶりに人と一緒に食事をしたけど、まぁ...なんというか...いつもより美味しかったかも。
「ふー、久しぶりに人と食事したから中々楽しかったわ。最後のは大人には恥ずかしかったけどね!いたずらっ子め!」
「学生の私でも恥ずかしかったですよ、お相子様です」
昔はよくお母さんにあーんをねだって苦笑いされたなぁ...良い思い出だ。
「先生はご両親にあーんをねだったことありますか」
「う、うーん、どうかしらねー?覚えてないわー」
あっ....聞いてはいけなかったか、忘れておこう。
でも意外と皆、甘えたい気持ちがあるのだと思うと子供にとって両親という存在は大きいものなのだろう。
私も幼くないけどとても依存していた、それこそ自分の命より大切だったくらいに。
「んーっ、そろそろ良い時間だから私は帰宅するわね」
そう言われて時計を見ると針は18時30分を回っていた。
教員のお仕事というと夜20時くらいまで働いていそうなイメージだったけど、中央綾乃高校はホワイトな職場説?
分かりましたと答え、トレーを返却して学食を出る。
先生が外で風にあたりながら夜景を見るのも風情があって良いわねと零し、それに釣られて同じ方向を見るが確かにこの光景には心が揺さぶられる。
視線を先生に戻すと手すりを触っているが、何かが気になっている様子だ。
「ここの手すり、塗装が取れてて傷があるわね。新設したばかりなのにどこの誰かしら、帰る前に職員室で事務員の人に報告しておかないと」
ふむ、ここの生徒は比較的大人しいと思っていたが。
この美味しい...綺麗な学食を傷つけるとは許せん....見つけたら罰として、屋外スペースの掃除をさせてさしあげよう。
「私、学食結構気に入っちゃった。また来よっかな、愛星さんを引き連れてね♪」
「別に構わないですが、目立ちませんか生徒と教員が一緒にいると」
「そんなの気にしないわよ、異性ならともかく同性なのだから」
ふむ、そういうものなのだろうか。
私としては視線があると、居た堪れない気持ちになるからご飯が食べにくくなりそう。
それを差し置いても、先生と食事をするのは悪くないとは思うけど。
「じゃあ、また明日教室で会いましょう」
「はい。暗くなっているので気をつけて、帰宅してくださいね」
挨拶を交わしたら私達は別れ、それぞれの帰る場所へと向かった。
寮の部屋についてからはベッドに座って、満足したお腹を優しく、優しくさすりながら今回の襲撃について考えた。
学校に入って初めての実戦だったとはいえ、負傷してしまったのはよくなかった。
他にも一般の人が失血死するかもと焦り、雑な行動をしてしまったのも反省点。
あの銃声の主が手助けをしてくれなければ、今ここで満腹感に浸ることは叶わなかったであろう。
運が良かったとしか言いようがない、次も入院程度で済むとは限らないのだから。
しかし、銃撃戦中に気になったが未知の存在は女性のみで構成されているのだろうか?
初めて会ったときは女性の隊員がいてもおかしくないと思ったが、2回目も女性しかいなかったのは偶然....?
でも防衛校だって男女がいるし、やっぱり偶々かも。
そういえば今回の事件はどんな形で知られているのだろうかと気になったので、部屋にあるPCの電源をつけて検索してみた。
結果としては前回の襲撃のニュースを見たときと同じような内容で、具体的なことは書かれていなかった。
もちろん映像や画像も存在しない。
あれだけの騒ぎで写真すらないのはおかしい気はするが....。
とりあえず今日はお風呂に入って早く休もう、明日は射撃訓練と体術の授業がある。
痛みの残る今の体では辛そうだから少しでも早く回復せねば。
今まで通りお風呂を洗い、お湯を張っている間に体を綺麗にして、お湯のたまった湯船に浸かって一息。
1ヶ月ぶりに湯船へ浸かったけど、やっぱりお湯に浸かるのは気持ちいい。
病院では相変わらずシャワーだったし、のんびりできる湯船は最高。
15分ほど浸かったら外に出て、髪の水気をよく拭き取り乾かし終わったらベッドへダイブ。
痛みでぐえっと鳴いてしまう、学習していない自分に笑う。
本当、生きていて良かった…お父さんとお母さんにはもう少し待ってもらわないと。
すると、すぐに睡魔が襲ってきて意識は灰色の世界に落ちていったのであった。
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