7-4

私はポカンと口を開いたまま、ただ状況を見ているだけだった。

銃声がしたってことは誰かが助け舟を出してくれたのは間違いない、けど誰が....?

そうだ、こんなことを考えている場合ではない。



周囲を見渡して、他に怪我人がいないことを確認できたら撃たれた男の人の側に歩み寄る。

意識があるか呼びかけをして、首と手首の脈の測定と唇へ耳を近づけ息をしているかを確認。

脈と呼吸はあるものの反応が薄い、すぐに救急車を呼ばないと.....。



スマホを取り出そうとしたが携帯は鞄の中だったことに気づき、盛大な舌打ちをしてしまった。

とりあえず撃たれた部分の失血を抑えるために確か....股関節付近に動脈があったはずだから傷口だけではなく、そこも圧迫しないと。

それと同時に意識が途絶えないよう、優しく頬を叩いて呼びかけを続ける。



「誰か救急車を呼んでください!お願いします……!!」



声を張り上げ周囲に助けを求めた、正直情けない気持ちでいっぱいだ。

さっきの銃撃戦で人は周辺から逃げているため聞いてくれているから分からないが、この場を離れる訳にもいかない....。



守らないといけないものがあるのに、自分勝手な理由で自身の命を投げ捨て、あまつさえその守る対象に最後は助けを求めるなんて....。

私には何も守れないのかもしれない...。



守りたい、守りたいと言いながら、本心ではどうでも良かったのだ。

ただ、死んでも許される理由が欲しかっただけ....何が最悪な結末だけは迎えたくない!!だ。

既に十分、最悪な結末を迎えようとしているではないか。



それでも助けられるかもしれない、この人だけは。

自分の行いを償う機会をくれるというのなら、誰か助けて.....。



声を張り上げて、耳がおかしくなるまで必死に叫び続けた。



「誰か救急車を....っ!」



「愛星さん!!」



聞き覚えのある声に顔を上げると、車を降りた渡先生がこちらへ走ってきていた。



「渡...先生.....?今日はお休みでは...」



見知った人に出会えて安堵したせいか、意識がふらっときた。

でも、まだ耐えないと.....。



「先生....この人を早く病院に...」



「分かったわ、もしもし中央綾乃防衛高校ですが....」



先生に任せれば後は大丈夫だろう、そう思うと視界がだんだん暗くなってきた....。

腕は痺れてるし、体は相変わらず重いし、体温も気がつくと下がっているような.....。

自業自得だなあ.....本当に。



「愛星さん!愛星さん、しっかりしなさい!!」



「せん...せい.....救急車は....」



「問題ないわ、後7分程度で到着するから!その間は私がなんとかするわ、だから愛星さんも意識を保つのよ!!」



だめだ、せめて救急車に彼が乗せられるまでは鋼の意志で起きていようと思ったけど.....。

あはは....私の体って貧弱だなぁ.....もし生きていたらちゃんと鍛えないと.....。



「あとの...こと...はお願いします.....ね」



上手く口が動かせない....。



「愛星さんッ!!」



「すみ...ま....」



最後まで言葉を伝えられないまま体が、自然と地面へ吸い寄せられていく。

それに抗える力はもうどこにもなくて、成す術なく倒れ込む。



そして、次第に私の意識は赤く暗い世界へ引き摺り込まれていった。

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