7-3

銃を使うため素早く冷静に、状況の把握に務める。

道路わきに人はいるが前方に立っている者は敵しかいない、奥にも人は見受けられないので射線はクリアだ。



これから本物の銃撃戦が始まる、心してかからろう。



M4のセーフティを外し、車体から上体だけを出して男の人を撃った相手に数発の弾丸を放つ。

しかし銃を構えた右肩に異様な痺れが走り、手に大した力が入らず狙いがそれてしまった。

この痺れって、まさか....タイミングが悪い!



重く響く銃声と激痛に悶える声を聞き、ようやく事態を理解した人々は騒然とする。

次第に悲鳴を上げ、我先にと言わんばかりに逃げ出す者たちで道はごったがえす。

それを後目に、私は銃を構えながら避難を呼びかける。



「速やかにこの周辺から退避してください!銃撃戦が始まっています!!」



強い語気でそう言い放ってから、一般人が逃げる時間を稼ぐため牽制射撃をしようと思ったが、射線上に人が入ってきたせいで撃てない。

このまま強行すると逃げる人に当たる可能性がある。

退避してくれるのを待ったほうが懸命かもしれないが、それを相手は見逃してくれるのだろうか。



襲撃された日は周りに人がいない状況だったおかげで、何も気にせず銃を撃つことができた。

けど守るべき人が大勢いる場合はこんなにも、もどかしい気持ちにさせられるのか。



射撃を行うのが困難であると判断して射撃体勢を1度解き、避難誘導を優先した。

人が減ればそのぶん被害も減るし、安心して攻撃に専念できる。



「車は降りて徒歩で逃げてください!物を盾にしながら、住宅街の方角まで走ってください!」



誘導をし始めると5人組はやはりそれを許したくないのか、相手も素早く散り散りに車へ隠れ、射撃体勢を取ってきた。

先に撃たせてしまったらここは地獄絵図になる、相手の動きを止めるためにも、こちらから先に攻撃を仕掛ける。



人が射線上にいる中で射撃をするのは初めてだから、怖くて手の震えが止まらない。

痺れる右肩と震える手の補佐をしてもらうためにも、銃をしっかり車の屋根へあてがえて、人の少ない左側から狙いをつけて射撃を始める。



射撃体勢を取っていた相手は撃たれるとすぐさま車の陰に体を引っ込めた。

1発撃つたびに右肩の感覚が、おかしくなっていくのがよく分かる。

このまま撃ち続けたら、そのうち右腕全体が麻痺しそうで怖い……。

けれど、攻撃をやめるわけにはいかない…!



肩を気づかいつつ、順に相手が隠れている車へ誤射をしないよう慎重に3発ずつ撃ち込む。

しかしこちらが撃っているのに撃ち返してくる気配がなく、何か怪しい。

訝しんでいると、左側の敵が急に立ち上がったと思えばおもむろにグレネードランチャーを構え始めた。



正気...!?街中で小規模とは言え、射出型の爆発物を使うなんて!

あ、あんな物を使われたら確実に怪我どころでは済まないし、一般人が巻き添えになる....!



被害を少しでも減らすため、私から離れるように叫んだ後、地面に置いた鞄は拾わず全力で後ろへ走った。

それと同時に人の気もしらないポンという軽快な発射音が聞こえ、その直後に車が爆発して、追いかけてきた爆風により吹き飛ばされる。



視界がグラグラと歪む中、急いで体を起こして近くの車へと滑り込む。

膝に痛みを感じたので見てみると、擦りむいていて血がけっこう出ている。



あはは...膝を擦りむくなんて小学校の運動会以来かも。

それと、爆発音のせいで耳が遠くなって気持ち悪いなあ....。



怪我の確認を終えたら様子を伺うため、車の窓越しに少し頭を出して相手のほうを覗き込むとすぐに弾が複数飛んできて、その中の1発が右肩をかすめた。



……っ——。

弾がドアを貫通してきた———。



そんな簡単にボディを貫通するものなの…!?

前は大丈夫だったのに....!

ふぅ…どうやら車に隠れるのも安全じゃないらしい、全くどうすればいいのやら......。



そもそもこの街は、昨日巡回したときも思ったが隠れられる場所が少なすぎる!

不平不満を心の中でぶちまけるが、それで現状が改善されることなどない。



何か考えないと.....例えばここから右斜後ろにある電柱や後ろの車へ移動する?

でも先ほどの反応を見る限り、安易に動けば蜂の巣になるのは間違いない。

かといって動かずここに留まっていると、また車を破壊される恐れがある。



それに残弾は今装填しているマガジンと胸ポケットの予備分だけでいずれ尽きる。

どちらにせよ、長く場を持たせられないことは明白。

せめてハンドガンがあればよかったが、車の爆発で鞄を失ってしまったのは痛かった...。



はぁ....今の状況は客観的に見て、八方塞がりに見える。

向こうはプロだし、5人もいるから容赦は一切してくれない。

それに対して対抗する戦力は素人1人、このままでは人を守るどころか自分の身も守れず、あっさり殺されて終わりなのでは....?



ふふ......気がおかしくなったのか、戦って死ぬならそれも運命で悪くないかもなんて、徐々に思い始めてきた。

どうせ、お母さんとお父さんのいない世界には未練などない。

それならばいっそのこと、華々しく散るのもありだ。



防衛高校の生徒が一般人を庇って戦い、名誉の戦死。

って見出しで夕方にニュースサイトに載って、それを見たネットの人々は連日、大盛り上がりするだろうなあ....はぁ。



......今挿しているマガジンの弾を使い切るつもりで撃てば、敵が隠れている車のドアを貫通できるだろうか。

複数貫通してくれれば、2人くらいは道連れにできるかもしれない。



攻撃する前に周囲を見回すと、人はほとんど逃げてくれたようで射線上には、未知の存在と怪我をした男の人しかいない。



幾度めかのため息混じりの息を吐き、覚悟を決めて体を晒し、1番近い相手の車に狙いを定める。

そして挿さっているマガジンの弾をフルオートで全てプレゼント。



撃っている最中に他の2人が撃ち返してきたが車のボディが守ってくれてたおかげで、こちらには被害が出ずに済んだ。

先程は貫通したのに今度は貫通しないなんて、運が良いのやら悪いのやら。



弾を撃ち切ったら車へ隠れて空のマガジンを抜いて床に置き、胸ポケットから新品のマガジンを取って装填する。

なんだか、こなれてる感じが出ていて嫌だなぁ...…本来なら、訓練の成果が出ていると喜ぶところなのかもだけど。



車にパチパチと弾の当たる音がする中、相手側の様子を見るとさっき撃った車に1人駆け寄ろうとしている。

多分、撃った弾が上手くドアを貫通してくれて相手に命中したのだろう。



だとすると私は、人を———。



しかし好機ではある、思い切って駆け寄っている相手に数発撃った。

すると足に命中したらしく、上体から勢いよく地面に倒れ込んでうずくまっている。

これで残り3人だけど....そう思っていると何か硬いものが転がってくる音がして、反射的にその場から離れると車がまたもや爆発した。



すぐ後ろにある車へ隠れて1回落ち着く。

呼吸をすると腹部に鋭い痛みを感じ、手で触って確認してみると左脇腹の後ろに車か手榴弾かかは分からないが、小さい破片が刺さっていた。

歯を食いしばって破片を抜き、それを道路へ放り投げる。



左手にべったりついた血を見て、またため息をつきたくなる。

私って怪我してばっかりな気がするのは気のせい?怪我の神様にでも愛されてるのかな?

足を前にだらんと出して、リラックスした姿勢を取る。



まずいなぁ...こちら側にはもうこの車しか隠れられる物がない、次また壊されたら丸裸だ。

何とかして壊される前に倒すしかない。

ずいぶんと重たくなった体を動かして、相手が隠れていた車へ射撃を加えるが手応えがない。



不思議に思っていると、狙っていた車ではなく近場の電柱の陰から相手が姿を表して銃を撃ってきた。

飛んできた数発の銃弾のうち1発が、私の右肩を撃ち抜いた。



えっ?と思わず間抜けな声を出てしまったが相手はプロ。

そう易々と同じ手には、引っかかりはしないのだろう。



すぐに車へ隠れて、撃たれた肩が動くか試してみるものの痛みで腕が上げられない。

これでは右手で銃の保持はできそうにない……。



......それでも戦わないと、守るために———。



撃たれたのは自分だけではない、早く決着をつけないと男の人が失血死してしまう可能性がある.....。

守るべきものを守れずに死なせてしまう、そんな最悪の結末だけはもう迎えたくない…!!



心身を奮い立たせ、笑う膝に鞭を入れて地面から離れる。

左手と左肩でM4をしっかり保持し、力の入らぬ右手はぶらんと重力に逆らわないよう垂れ下げたままにして、射撃の構えを取る。



そして意を決して、敵の隠れる車へ攻撃を始めた。

しかし現実は非情で、相手はグレネードランチャーを持って私が姿を晒すのを堂々と待ち構えていた。



「....嘘でしょ....」



いくらなんでも意地悪すぎる。

怪我の痛みから歩くのもしんどくて......移動は、もう無理だ……。

流石に今回は助からないだろうと察して目をきつく閉じ、死を受け入れる。



さっきまで、死んでも構わないと考えていた人間のする行動ではないなと思う。

本当に死んでもいいなら、後のことは気にせず相打ち覚悟で銃を撃つはず。

やっぱり自分にはそんな覚悟もなかったんだ。

この期に及んで、死ぬのが怖いと思って目を背けているのだから。



ああ、死んでしまったら男の人はどうなってしまうのだろうか。

心残りがある状態で死ぬって、こんなにも悲しくて苦しいことなんだ。

きっと....お父さんとお母さんも同じ気持ちだったんだろうなぁ.....。



しかし死ぬまでが異様に長く感じるけど......実は既に死んでいたりするのだろうか?

そもそも死んだことって、実感できるのかすら分からないけど.....。

ちょっと怖いが、勇気を出して目を開けてみよう。



おや、これは......既視感のある光景だ。

目を開けた先には、まだグレネードランチャーを構えている未知の存在がいる。

どうやら事件の日、林に入って死にかけたときと同じ現象、要するに体感時間がスローになっているのだろう。



.....受け入れるはずだったが死が、とても遠くにいる。

そして、その更に遠くから轟いてきた勇猛な銃声によって私の世界は急速に加速した。



そして加速が収まるとグレネードランチャーを持っていた相手が、いつの間にか肩を押さえてうずくまっている....?



あまりにもの加速に、何が起きたのか理解が追いつかない。

さっきの轟音は学校のある丘の方面から聞こえたように思うけど....。

しばし呆けているとまた、けたたましい銃声が響いてきた。



今度は先程とは違う相手に対して撃ったみたいだが、外れた模様。

相手は予想外のことが起きたためか、慌てふためいていたがすぐに持ち直し、煙幕を学校側に張って倒れている仲間を回収し始めた。



その後、出てきた際と同じ強い光に包まれたと思えば忽然とその場から消え去ってしまった。

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