7-2

スーパーから川に沿って進み住宅街に入って適当に歩き回っているうちに、昨日のVRゲームで遊んだときに狙撃された道に来てしまったようだ。

こうやって実際に訪れてみると、あのゲームはかなりの精度で街を再現していたのだと思い知らされる。



そういえば、昨日の狙撃はどこからしかけてきたのか急に気になってきた。

前方をパッとみた感じでは3つほど高さのあるマンションが見えるが、その内のどれかかな。

この街は背の高い建物がちらほら建っていて、それでいて見晴らしがいいのはもし戦闘になった際、ゲーム内と同じく狙撃を受ける危険性が高そう。



まあ...危険とは言えど、まさかここが戦場になるなんてことはまず、ないとは思うけど....。



住宅街の方面を見て回った感想としては、前に住んでいた街と構造はそこまで大差ないと感じ。

小さい頃に住んでいた田舎の街とは違って都会寄りだったから、ここと大差があったらそれはそれで変か。



でも違いはちゃんとあって一軒家が少なく、アパートとか4〜10階建てのマンションが多め。

道は整えられているし、歩行者と車両の両方を気を遣ってか幅に余裕を持たせた作りをしている。

川を隔てた向こう側の住宅街もこの場から見る限り、おおよそ同じような形式になっていると思う。



都会寄りなら、案外どこの街も似たような作りをしているのだろう。

足を止めて一息つき、スマホを取り出して街についてのメモを書き込もうとするが光が邪魔で画面が見にくい。



大通りの方角の空を見上げると日差しが煌々と照りつけていて、まるで夏のようだなと思ったのだが.....。



「あれ、思っていたより暑くない?」



これだけの日差しならば、個人差はあれど多少なりとも暑いと感じるはず。

変だと思いながら見続けていると、徐々に光量が増して直視するのが辛いほどの眩い光を放ち始める。



手でひさしを作り、光を抑えつつ上を見ているとこの光景に対して奇妙な感覚を覚えた。




デジャヴだろうか———。




この状況はまさか.......いや、そんなことが。

その後、空気という空気を震わせてアポカリプティック・サウンドかのような不快音が、空全体に鳴り響いた。



目の前で起きていることに困惑と焦りを感じながらも、音がした方角である大通りへと走り出す。

先程の光はあの日、未知の存在が出現したときのものに酷似している。



もし予想通り、本当に未知の存在なら何故こんな所に出てきたのだろうか....?

前回もそうだが、さして狙われる理由もないであろう場所のはず.....。

今はいくら考えても答えが出ない以上、疑問は捨て置いて一刻も早く大通りに戻らないと。



大通りへ向かっている途中、唐突に抑えきれない心の興奮を自覚した。

急にどうしてしまったのかと思い、自身の状態を分析してみると理由が分かった。

やるせない怒りを晴らせるのではないか、という期待が源泉の興奮だ。



でも、その怒りをぶつけたところで帰ってきてほしい者は戻らない。

今しなければならないことは、生きている人を守ること。



どうにか、どうにか気持ちを鎮めて足を速める。



住宅街から大通りに出て、商業施設近くの橋を渡ると、喫茶店の付近で立ち往生している車が視界に複数映った。

来る最中に銃声や悲鳴などは聞こえなかったから、街の人に被害は出ていないはず。

車の誘導はどうしよう、できれば降りて逃げてくれると盾として使えるけど。



現場にもう少し近寄ったら一旦足を止め、目を凝らして前方の様子を窺う。

視線の先に立っていた人物を見たら、抑えていたものが噴き出しそうになった。



顔を覆い隠すヘルメットに黒いライダースーツ風の衣装を身につけ、それぞれ腰と手に銃を所持した、明らかに場違いな姿の女性5人組。

間違いない......ベストはつけていないが、あの夜に出会った人物たちと、ほぼ同じ外見だ。



もっと近くへ寄ろうとしたが、人だかりができ始めているせいで思うように前へ進めない。

人が集まった今の状態で戦闘に発展したら一般人に被害が出てしまう、早く避難させないと。



「中央綾乃高校・防衛科の者です!皆さんこの場からすぐに離れてください!!」



精一杯、声を張り上げて呼びかけるも人々の声が作る騒音のせいか、反応が得られない。

さらに近くへ寄ってもう一度、呼びかける。



「その5人は未知の存在です!危険ですから、近寄らないでください!!」



強く叫ぶとこちらを見てくれる人がちらほら居たが、聞こえてきた声に私は驚く。



「もしかして、これドラマか映画の撮影?」



「あ、そういえば未知の存在が出たとかこの前ニュースに載ってたよねー。どこかの街が襲 被害にあったって。でもこんな街に出てくるわけないよね」



「あれ、昨日の銃もった高校生じゃん。コスプレショー?」



「何かまた最近問題になってる、配信者の街中ドッキリだったり」



相手が銃を持っている状況下で、よくそんな呑気な考えが浮かぶものだと思う。

あまりのことに、現状を把握できていないのだろうか。

それよりも、1つ気になった会話内容がある。



さっきニュースに載っていたと言っている人がいたが、確か前にニュースを見たとき未知の存在を映した映像は流れていなかった。

その後にネットで画像検索などもしたが、あれだけの騒ぎだったにも関わらず検索結果に引っ掛からなかったのだ。



そのことを思い出して、戦慄し俯く。




「もしかして皆、知らない...?」




頭の中の確信めいた疑問が、震えた声でこぼれる。

いや....姿を知っていようが知っていまいが、そんなこと今は関係ない!



急いで鞄を下ろし、中から2つのマガジンを取り出して1個はブレザーの胸ポケットにしまい、もう片方はM4へ装填する。

ハンドガンとそのマガジンは持てないから、すぐ使えるよう銃に装填だけして鞄の中にしまっておくしかないか。



準備が済んだら、気を強く持って前へと足を踏み出す。



「皆さん、この銃は本物です!流れ弾が当たったら危険ですから、この場から避難してください!!」



銃を掲げつつ再度、大きな声で呼びかけをしながら5人組のほうへ近づく。

距離としては目測で20mくらいまでに迫った。

道路に停まっている近くの車を盾代わりにして、そこから敵に問いかける。



「あなた達は何者ですか!日本人ですか?海外の方ですか?それとも軍関連の方ですか!」



問いかけに対して反応はなく、こちらを一瞥しただけ。

アクションがないことに不安を感じる。

ひとまず、手に持っている銃を捨てさせなければ。



「所持している銃を地面に捨ててください、捨てない場合は撃ちます!!一度しか警告はしません!!」



そう脅しをかけると手に持った銃をゆっくり地面に置き、次に腰の銃を抜いてそれも捨てるのかと思いきや、こちらに銃口を向けて躊躇いなく撃ってきた。

運良く車が弾を防いでくれたおかげで怪我はなかった。

慌てて車に隠れ、周りを確認する。



「すげー、火薬使ってるのか!迫力あるな!」



「格好いい!もっと撃ち合ってよ!」



「なんだ、やっぱり撮影だったのね。動画を撮ってSNSにアップしなきゃ!きっと人気者になれる!」



などと言って、和気藹々とこちらのやり取りを眺めている...…ありえない...これが俗に言う平和ボケなのだろうか?

ワイワイ騒いでいる人たちの中、身の危険を感じたのか逃げてくれている人もいるにはいる。

でもそれは少数で、大多数は危機感がなさすぎるどころか皆無なのでは。



「これは撮影でもなんでもありません!!本物の戦闘です!!この場を離れてください!」



大きな声で何度も避難をしてくださいと叫んでいると、1人の若い男の人が5人組に近づくのが視界に入った。

いったい何をするつもりなのか分からないが、後ろに下がらせないと。



「下がってください!その5人に近寄らないでください!!」



静止の叫びも虚しく、彼は彼女たちの目の前に立ってしまった。



「記念に写真撮っていいですか?てか、これ何のタイトルの撮影なんですか?」



男の人が未知の存在に話しかけると、5人の内私を撃ってきた者がその人に銃口を向ける。



「え、あの?撮影用のモデルガンでも人に向けるのは....」



怯えた声はためらいのない、乾いた破裂音にかき消された。




「へっ?」




こちらから見ていると、カーキ色のズボンの左太ももが朱色に染まり始めている。



「え?えっ?い、いた....痛いぃ!ひぃっ!」



撃たれた男の人は、悶えながらその場に倒れ込んでしまう——。



恐れていた出来事が現実となってしまった。もっとちゃんと警告すべきだった……けど悔やんでも時間は巻き戻ってはくれない。

一般人にこれ以上の危害がおよぶことは看過できない、反省は後にして今はできることをしないと!

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