6-3

今日は歩いたし、沢山食べられそうだから唐揚げ定食にしてみよう。

でも糖質が気になるから、食物繊維を摂るためにキャベツを増してご飯は少なめに。

家庭科の授業を受けた後に調べて知ったけど炭水化物を摂る前に、食物繊維を摂ると糖質の吸収が穏やかになるらしい。



カウンターで定食が載っているトレーを受け、右側の窓際席に持って行って座る。

食べる前に、ガラスと隔たれた外へと視線を移す。



さっきまで歩いてた場所は今眺めている街のほんの一部分でしかなくて、この土地にはまだまだ先があって尽きないなぁ...とワクワクする気持ちが出てきた。

かつて17年の歳月をかけて日本全国を測量し国土図を作った伊能忠敬、各地を回る旅の果てに世界の広さを体感したはずの彼も、同じような気持ちになったのだろうか———。



思いを馳せるのは程々にしておくとして、冷めないうちに唐揚げ定食へ箸をつけたのだが.......。

唐揚げの衣はぱりぱりしているのに中のお肉はぷにぷにで肉汁がこぼれてくる、これは本当に唐揚げ!?

私の知っている唐揚げというと、外はしっとり中は少し歯応えありなのだが....全然違う。



唐揚げの定義を再確認しなければならないほどの衝撃が走っている。

自分にも同じような食事が作れたらいいけど、流石にここまで上手には作れないだろうなぁ。

頬の緩みを抑えられないまま食事を食べ終え、少し胃を休ませたらトレーを返却して寮へ戻った。



部屋に戻ってからは歩いて疲れた足を癒すためにお風呂場で足湯しながら、足をマッサージ。

足元だけではなく上半身もほどよく暖かくなった所で切り上げ、ベッドへ大の字になると眠気を催してきたので慌てて起きる。



このベッド、マットレスが絶妙な柔らかさで横になると抗いがたい心地よさが襲ってくるのだ。

それに耐えられずに身を委ねてしまうと、あっという間に夢の世界へ連れていかれてしまう、なんとも恐ろしいベッド.....。

戦争が起きたらこのベッドを量産して、相手国に送れば兵士が自堕落になって戦争を止められそうなんて思ったり。



体につきまとう眠気を取りのぞくのに、筋肉トレーニングでもしようかな。

これから重い装備を身につけていく中で今の非力な体では不安があるし、鍛えておいても損はないだろう。



スマホを手に取ってネット検索。

ええっと...効きそうなトレーニングは....っと、体幹と全身を鍛えられるプランクというのがよさそうだが、やりかたの動画を見てみると結構つらそうだ。

うつ伏せ状態で前腕と肘、つま先を地面につけてそれを30秒キープを3回。

簡単に表すなら腕立て伏せの、伏せ部分をなくしたものだ。



早速チャレンジしてみたが......。

はひっ....こ、これはっ、効くかも.....!

まだ1回目にも関わらず体からギシギシと悲鳴が聞こえてくる、体弱過ぎない?!

いやまぁ...普通女性が筋肉トレーニングをする時間は多くないから持久力がなくてもおかしくないけど、ここまでとは....ショックを受けざるをえない。



3回目が終わる頃には完全に息が上がって、腕とお腹とお尻周りが痛くなった。

並の運動よりつらいのですが、これは....。

よし、当面はプランクをし続けて30秒3回が余裕でできるようになるのを目標に頑張ろう。



疲れた体を癒すため、ベッドへ倒れ込むと瞬く間に寝入ってしまった。

そして目を覚ましたのは15時18分。

ふぅ...気分爽快、巡回と筋トレ疲れが多少緩和されたかな。



でもまだ夕ご飯を食べるには時間が早い、何かすることを探さないと。

すること...すること....そうだ、この部屋にあるVRヘッドセットで動画でも見て過ごそう。

機器の電源を入れてホーム画面が呼び出されると、そこには一般的によく使われるアプリなどが並んでいた。

事前に必要なものが入っているのはありがたい。



音声入力で検索エンジンを呼び出して動画サイトを検索と...あ、今思ったが検索した内容は学校側が閲覧できるのだろうか?

もし見られるなら、変なページは開かないよう注意しないと。



さて、お目当ての動画はというと....プラネタリウムだ。

1度VRで体験してみたいと思っていたのが、こんな形で実現するとは。



なぜプラネタリウムを体験したかったのかというと、14年前に老朽化で使えなくなったハッブル望遠鏡の後を継ぐジェームズ・ウェッブ望遠鏡が宇宙へ打ち上げられた。

以降、その性能を遺憾無く発揮して観測できる星が増えたのだ。



なので、以前のプラネタリウムには登録されていなかった星々が随時追加されている。

昔に投影機タイプのを見たきりで、直近のものやVRのような新しい機器を用いたものは見たことがなかったから、いい機会だと思う。



それから30分ほどバーチャル宇宙旅行を楽しみ、ちょっと目が疲れたので休憩。

動画サイトを閉じてホーム画面に戻ったときにある、アプリアイコンが目に入った。

Sphere of Defence ———ネットで調べてみるとどうやらゲームみたいだ、それもシューティング系の。



気になるので試しに起動してみると、スタート画面には戦争映画のような映像を背景にシンプルなフォントが浮かんでいる。

カゴに入っていた専用のガンコントローラを握り、とりあえず遊んでみようとトレーニングモードを選ぶ。



数秒のロードを挟んだ後、学校にあるような射撃場が目の前に現れて驚いた。

過去に古いハードのゲームを遊んだときは、ロードが長くて遊ぶのが辛かったけど....これは快適。



えっと、まずはメニューを開いて武器庫を確認っと...自分の使用しているM4があったのでそれを選んで取り出す。

装備したらガンコントローラのトリガーボタンを右人差し指で押して、数回試し撃ちをしてみるものの、なんだか通り物足りない感じ。



うーん......やはりゲームだからか銃を持っている"視点"はリアルだけど、重量や反動などの体に直接訴えかけてくる"感覚"がないため、現物を扱った経験があると違和感がある。

近頃は感覚に影響を与えるVR周辺機器の開発が完了に近いとの噂を前に見たが、それを使った機能があればまた変わってくるのかな。



一通り動作の練習をしたら、目標防衛モードでAIとの対戦をするためにステージ選びをしていると、面白いことに検索エンジンの会社が提供している、バーチャル地球儀と連携をすれば現実の街並みを再現できるらしい。

この街の範囲を正方形の枠で囲んで決定すると、驚くことに30秒ほどでステージ構築が終了して遊べる状態になった。

色々気になるから、さっそくその辺を歩いてみよう。



朝に巡った街がバーチャル世界で再現されているのを見て、感嘆せずにはいられない。

技術の進歩に呆気にとられながらも、流石に部屋の中までは作り込まれていないだろうと思い近くの家へ入ってみたら、ちゃんと再現されていた。

この機能を使えば外に出なくとも街の構造がわかるではないか、なんて便利!!



じゃなくて...対戦なのだから、そろそろ敵AIを探しに行かないと。

マップを開くと3Dマップが出現し、それには様々な情報が載っていた。

付近にぽつぽつ浮かぶ青の三角形は味方で赤は敵、残存兵員数や補給所に目標である確保地点も表示されている。



とにかく目標の場所へと向かうべく住宅街を前進していると、前方のどこからか飛んできた弾が地面に当たり、アスファルトが砕ける音と銃声が街中に鳴り響く。

見た目だけではなく音もかなりの再現度!って感心している場合ではない。

 


急いで横にあるコンクリート壁へ身を隠して先程の3Dマップを開き敵を探すが、周辺に赤い三角アイコンは表示されていない、離れた場所から撃ってくるのは厄介だ。

これが狙撃される恐怖か、現実じゃなくてよかったと胸を撫でおろす。



また狙われないよう迂回して壁に沿って移動し約10分、目標の100m手前まで来た。

AI同士が撃ちあっている音が聞こえる、どうやら私がつくまでの間に穏やかな街が激戦区へと様変わりしてしまったようだ。



この銃撃戦に乗り遅れまいと、味方AIのいる場所へ近寄り攻撃に加わる。

今のところは均衡を保っており、目標を隔ててお互いが撃ちあっているけどこれが前線というものだろうか。



戦闘に参加してはや40分が経過。

味方AIが前面にいた敵を順調に倒し、少しずつながらも前進を続けて目標までの距離を確実に縮めている。

かくいう自分はというと、攻撃はしているものの誰かを倒したりはしていない。



ゲームだとわかっていても、人を撃つことへ抵抗を感じてしまっているのが主な理由。

銃口をAIに向けるとあの夜の撃った、撃たれたの記憶が蘇ってきて自然と銃口をそらしてしまう。

もし現実で戦闘が起きたら、今のままでは役に立たないだろうなぁ....。



なんだかんだで対戦は終わった、結果はこちら側が目標を占拠・防衛して勝ち。

自分は人を撃てなかったから、AIに治療を行ったり弾薬の配給をしたりと補助に徹底した。



うん、まぁ...ゲームとして見た場合は面白いものなのは間違いないかな、時間の合間を縫ってまた遊ぼう。

VRヘッドセットを頭から下ろし、一息ついていると廊下が賑やかになってきた。

時刻は17時50分、夕食の時間だからか部屋にこもっていた寮生も外に出てきたみたいだ。



それにしても、時間を忘れるくらい結構VRを楽しんでしまった、技術の発達は人々に色んな経験を享受させるから素晴らしい。

さてと、お腹が減ってきたことだし食事を摂りに行こう。

あっと...その前に乱れた髪と服装を整えておかないと。

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