4-2

うつらうつらして、はや1時間30分ほど。

ポケットにしまってあるスマホのロック画面をのぞくと06時45分と表示されている。

そろそろ教室に行こうかと思ったとき、あることに気づく。



もしやこれは、昨日と同じパターンで早すぎて教室の扉が開いていないのでは。

いやいや.....昨日はたまたま人がこなかっただけで流石に今日は誰かいるはず…だよね?



今回は大丈夫と、根拠のない謎の自信を持ったまま教室へ行くとやはり空いていなかった。

フラグを立てたのだから回収して当然。

また失敗したか...頭を抱えつつ、職員室に行くと後ろから声をかけられた。



「あら...おはよう愛星さん。まさか、今日も鍵を取りに来たの?」



渡先生の不意打ちにビクッと肩が跳ねる。

今回も後ろから声をかけられたけど驚いて変な声は出さなかった、えらい....体は素直な反応を示してたけど。



「おはようございます。渡先生のおっしゃる通り、鍵を取りに来ました」



「やっぱり、愛星さんが毎日1番に来るならその度に鍵を取りに行くのも面倒でしょうし、渡しておこうかしら?」



「え、あ、うぅ...わかりました」



困りながらも反射的に返事をしてまい、後悔。

いつか、ちゃんと自分の意思を表明できるようになりたいね!



「変に気構えなくても大丈夫、鍵は2つあるから。愛星さんが朝来れなかった時は他の子が取りに来るわ、安心して」



そう言って職員室内の棚から予備の鍵を取ってこちらに手渡すと、先生は中に戻って自分の机へ歩いて行った。



予備の鍵があるのはいいけど、やっぱり遅れたりすれば皆に迷惑がかかるし....変なこと言われたりしないかな....?

不安はあるが前回の出来事で学ばなかった私の失敗だから諦めよう、もらった鍵をブレザーのポケットに入れて教室前へ戻った。



鍵を開け、自席に座ったら鞄からタブレットを取り出して予鈴が鳴るまで書籍あさり。

ちなみに今座っている席は左側のグラウンドが見える窓に近く、外の景色が見える。

景色を見ることにかまけて授業内容を聞き流したりしないよう、気をつけないと。



画面としばらく睨めっこしていると人が数人、教室へやってきた。



「おはよう愛星さん、はやいねー」



急にクラスの子から声をかけられ、またもや飛び跳ねそうになった。

おはようございますと事務的に挨拶を返した、ちょっと居心地が悪い....緊張して戻しそう。

あまり構わないでくれると、それこそ飛び跳ねるほど嬉しいのだがきっとそれは無理だろうなぁ....。

そう心の中で思いながら、再度タブレットへ目線を下す。



予鈴が鳴り、今日は遅れずに先生が教室に入ってきてHRが済んだら15分の休憩を挟んで、1限目の数学が開始。

今日は初日なので担当先生の挨拶と、中学校でやった内容をおさらい。



だが、そのおさらい———。

はっきり言おう、全くわからない....っ!



数学はおろか算数すら怪しいという悲惨な状態を把握してうなだれる。

もし高校の入試なんて受けていたら落ちていたかもしれないレベル....9+4を12と計算してしまう辺り、自分が怖いです。



別に?本当に?全く?できない訳ではないけどあやふやな点が非常に多い。

ちょっとまずい気がするから、ちゃんと取り組んだほうがよさそう......嫌だなぁ。



授業終了のチャイムが鳴って数学は終わり、休み時間になったが特に話す人もいないので、さっきの数学のやり直しをして時間を潰した。

9+4=13...9+4=13....本当に大丈夫かなぁ....?



国語の時間になり、先生の紹介が済むと漢字についての授業が始まる。

"超える"と"越える"などの同じ音で違う使い方をするものについてだったり、重複語で"1番最初"と"1番最後"のような言葉が保有する意味について、意識を持って考えたことはなかったから面白いと感じた。



国語は昔も今も好きだ、作文は苦手だけど漢字を書いたり覚えたり、本を読んで情景を浮かべるのは楽しいことだと思っている。

最近は紙媒体の本が減り、デジタルが多くなって実物を読む楽しさが失われつつあるのが残念。



紙の本を1000部刷ると300万円くらいかかるみたいだし、もっと紙の本を安く作れたらなぁとしみじみ思う。

300万円…入院費の100万円を思い出してしまった、嫌な感じー!



次は社会の時間、先生の自己紹介の後は今の社会情勢についての話。

現在の各国の友好関係はどこも平坦で険悪ではないが仲が良いわけでもないと、お母さんも言っていたことと同じ内容を教えられた。



7年前、バイオ燃料の実用化のめどが立ったことによって今まで使っていた石油の価値が下がって世界全体の景気が悪化。

それにより倒産する会社がたくさん出たり、外国企業による買い叩きが起きたそうだ。



その後、バイオ燃料には地球温暖化に対して悪影響があることと、燃料用作物によって食料用の作物を作る畑が減少することによる食糧問題が浮き上がってきた。

新エネルギーは実用的ではないと判断され、主要なエネルギーは石油へと戻ることになった。



結果、景気は持ち直したがアメリカなどでは財政負担軽減のために軍・警察組織の縮小が行われ、世界各国もそれに倣って軍縮を実施。

日本はというと、自衛隊は存在してはいるものの災害救助と海域の警備が主な仕事になっている。

国土防衛の演習は年2回しか行われておらず、人員や基地は1/3まで削減された。



軍の数が少なくなったことで、第三次世界大戦のような大規模戦争が行われる可能性が減ったのは良いことだとも話していた。

ただ軍の表だった衝突はなくなっただけで電子戦、すなわちサイバー戦争は裏で行われるいるとか。

何年か前に、アメリカの銀行のセキュリティが突破されてお金を取られたとか、どこかの国の送電施設にハッキングして破壊しようとした形跡があったのがそれに該当する。



それと警察の数が減少したアメリカでは国民に対し、犯罪行為に対する自衛のため1年ほどシューティングレンジに赴いて、射撃の訓練を受けた後に銃を所持することを推奨している。



日本も昔から免許があれば猟銃などは所持できたが、ライフル類は1970年代に起きたシージャック事件以降、猟師をしている人でも厳しい審査をクリアできた者しか持つことが許されていない。



なので1年前にアメリカを見習い、もう少し簡単に銃を持てるように制度を改めたみたいだ。

これでお母さんが銃を持っていた訳が分かってすっきりした。



そしてこの防衛科が設立された理由については、減ってしまった軍・警察の代わりになることを政府側から期待されているそうな。



確か、入学前に読んだ手紙にはそれっぽいことを書いてあったから驚きはない。

しかし、他の生徒は違うらしく教室内が急にざわめき立った。

もしかして入学前に説明を受けていなかったのだろうか?



うーん、私ですら手紙で知ってるからそんなことはないと思うのだけど....??

まぁ、知りたいことが知れたので満足な授業だったと思う。



休み時間を挟み、化学の時間。

先程話があったバイオ燃料と地球温暖化についてや、最新技術による合成燃料というものが実用化に向けて研究が進んでいるとか、特にこれといって興味の湧くような内容ではなかったから、適当に聞き流した。



これで今日の日程は終わり。



予鈴がなると、渡先生が教室に入ってきてショートホームルームの始まり。

先生が明日以降の説明をしてくれて、今週一杯は4限授業で、それ以降は基本6限までだけど防衛科は8限まである日もあって、残りの2限で射撃訓練とか対人格闘術みたいな軍事的な内容を学ぶことになる。



大変だと思うけど頑張ってね、先生も頑張るから!明るい笑顔でそんなことを言われても、内心ではうっと思った。

普通の授業は45分で終わるけど、軍事的なものだと時間がどれくらいかかるのやら。

一抹の不安を抱えながらもSHRを終え、解散となった。

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