4-1

2036年 4月10日 木曜日 02時17分



果たして———これは現実なのか。



けたたましい悲鳴に、恐れを含んだ怒号。

空気を震わせる爆発音と、銃声。

それらがこだまする戦場のど真ん中で、私は銃を持って立ち尽くしていた。



訳がわからず放心したまま、なんとなく後ろを振り返るとたくさんの人が地面に倒れ込んでおり、彼・彼女らの鮮血によって大地が戦闘の凄惨さを描く、キャンバスアートへと姿を変えていた。



その光景に息を呑み、ぎこちない動きで首を正面へ戻す。

視線の先、この場から少し離れたところで戦闘が行われている。

その中では撃たれて怪我を負う者もいれば、その場で儚い命を散らす者もいる。




いったい、この地獄絵図は何なのか。




混乱する思考を振り払い、この場から逃げようと体に力を入れるが動いてくれない。

不思議に思っていると唐突に体が走り始めて、近くにあった厚めのコンクリート製バリケードの裏に滑り込んだ。



するとまたもや体が自分の意志とは関係なしに、手が持っている銃の動作の確認をし始める。

異常がないことが分かると銃弾が飛んでくる方向へ銃口だけを出し、適当に弾をばら撒く。



何度か射撃をしていると隣に仲間らしき人物が走ってきて、話かけてきた。



「隊長、このままでは我々は全滅するかもしれません.......負傷者も多く出ています、後退しましょう.....!」



同様の意見だと返事をしようとすると、それとは正反対の冷たい返事が口から発せられた。



「何を言っているのですか。私達がこの先の燃料製造施設を取り返さない限り、政府は確保できるまで何度でも攻撃を命じますよ。それこそ多大な犠牲を払ってでも.......引くことはできないんです、進むしかありません。もし、ついてくるのが嫌であればそれも構いません、私1人でも作戦を続行します」



「そ、そんな無茶ですよ!1人でだなんて!やめてください!」



制止しようとする手を振り払い、私の体は物陰を飛び出して走り出す。

近くにある破壊された車両など、盾になる物体をうまく使って相手の射線を切りつつ、前へ前へと突き進む。



しかし、途中で建物の角からライトマシンガンを持った兵士に掃射を受けて足踏みしてしまう。

この状況をどうやって切り抜けるのか行動を待っていると、胸のポーチに手を伸ばしてそこからスプレー缶に似た物体を取り出し、ついていたピンを抜いて前方に転がす。



すると、たちまち缶から白い煙が立ちのぼり始め、数秒で姿を覆い隠せる量の煙幕ができあがった。

風で広がった煙に紛れて、こちらを攻撃していた兵士の近くに移動したらポーチから手榴弾を取り出して角に投げ込み、爆散させる。

地面には血の華が咲いたがそれを気にもせず走り抜け、目についた兵士を片っ端から撃ち倒していく。



次の遮蔽物にたどりつき、一度状況を見るために頭を出して周りを探ると多数の銃弾が頭上を掠め、慌てて姿勢を下げる。

ここから先を1人で突破するのは無理に思えるが、どうするのだろうか。



膠着状態を崩したのは、後方から聞こえてきた頼もしい銃声たち。

びっくりなことに先程、撤退しようと進言していた人物が他の者を引き連れて、こちらを追いかけてきていたのだ。



「はぁ...はぁ....やっと追いつきました....隊長...申し訳ありません。私たちもお供します!」



ついてきた数は15人と少ないが隊員が増えたことは喜ばしい、1人ではだめだったとしてもこの数なら突破できるはず。



人員が増えたことで施設前の広場までは順調に進むことができたが、先ほどよりも更に激しい抵抗が行く手を阻み、思うように進めないでいる。

こちらも負けじと応戦するも、進めぬことでいたずらに装備を消耗していく。



このままでは弾薬が先に尽きて、下がるしかなくなってしまう。

攻撃を続けているといきなり相手が後退しはじめたので、チャンスだと思い隊員に手で合図を送って突撃。



しかしそれは罠であって、目指していた施設が突如爆発し、私たちは猛烈な爆風に吹き飛ばされてしまう。



朦朧とする意識の中、立ち上がって周りの隊員の生死を確認するが皆突っ伏した状態でピクリともしない、声にならない嗚咽が燃え盛る炎の中に響く。

.....意識を保つのが限界だったのか、バタッという音と共にそこで視界がプツリと途切れた。



ハッとして目を覚ましたら寮の自室で、ホッと細い息が零れる。

かなり呼吸が乱れ、汗も大量にかいており、さらに頬には涙の跡が。

体に異常はないか、全身をくまなく見て触って確認をしたが何もないようだ。



さっきの夢はいったい....?

ものすごくリアルな体験だった.....戦場の空気というものが夢なのに肌を伝わって身に染みた。

2ヶ月前の事件と似ていて、戦場ってあんなにも黒いものなのかとゾッとする。



とはいっても体を動かせないことが分かってからは、1人称視点の映画でも観ているような気分だったけど....。



とりあえず起き上がって洗面所で、汗が滲む顔を冷水で洗う。

化粧鏡で顔色を見ると血色が優れなかった、あんな夢を見れば誰でもこうなるだろう。



ベッドに戻って今の時刻を確認すると02時21分、変な時間に目が覚めたものだ。



寝ようとすぐベッドに横になったが、どうも眠りにつけない。

気分転換に星を眺めようと窓を開けるが、ここは前の街より光が多く、見える星の量が少ないことに気づかされる。

皆、星とかに興味ないのかなぁ......なんて乙女チックにつぶやいてみたものの、興味なさそうと即座に答えが出てほんのり悲しい気持ちに。



星はあまり見れなかったが部屋の空気の入れ替えくらいはできたし、今度こそ寝ようと横になって目を閉じると眠りについた。



そして起きたのは05時15分。

さて.....この学生生活で唯一の楽しみである学食に、朝ごはんを食べに行かないと。



支度を済ませ部屋を出たら学食へ一直線。

今日は何を食べようかメニューをパラパラ開いていると、ソーセージエッグマフィンなるものがあったのでそれとサラダ、オレンジジュースを注文してお気に入りの席へ座って食事を摂った。



そういえば学食というと、普通は1階に作られていそうなものだがこの学校はなぜか屋上にある。

どうして屋上に設置されているのかは疑問に思うけど、高い場所にあるおかげで食事のときはいつでも綺麗な景色を楽しめるから嬉しい。



後、お気に入りの景色が眺められる席があってそれは右側の窓側席。

昨日、右手には川と海が見えることを発見したから、ここが1番だと現状は思っている。



さらに窓側は座る人は少なく、大体空いているので独り占めできるのもプラスの要因。

座る人が少ない理由は推測になるが、カウター席風の構造の関係で友人と食べるなら面と向かって話せるテーブル席のほうが最適だからだろう。

それ以外はトレーの返却が遠いことくらい?



さてと...ご飯も食べ終わって時間にはたっぷり余裕がある、ここでのんびりと街並みを拝ませていただこう。



けど日光が気持ち良くて、眠く……ぐぅ。

私はそのまま机に突っ伏してしまった。




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