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翌日、久しぶりに見る黒いお団子ヘアで柔和な表情をした女性、伊藤先生が扉を開けて病室へ入ってきた。

私の顔を見るや否や、心配そうな表情を浮かべていたが笑顔を作って出迎えると一応安心してもらえた。



先生に椅子へ座ってもらい事件後の話を聞くと、自分以外にも数名の生徒が被害にあったが何ヶ月も入院するほどの大怪我を負ったのは私だけだそう。

他の子達が大事にいたらなかったのは、非常に喜ばしいことだ。



それから少し世間話をした後、病院に保管してもらっていたリュックから、お母さんと自分の財布とスマホを持って役所へ赴いた。



そう、両親の死亡届の提出や入学先で必要になる通帳の開設だったりをするためだ。

やり方が分からなかったが、マイナンバーカードのICチップで国民保険や年金など様々な個人情報を一括管理しているそうなので、職員の人に提示すれば手続きは全て肩代わりしてくれるそうな。

呼び出しの機器をもらい、ソファへ腰をかける。



待ち時間は暇だった、だけど頭の整理をするにはよさそうだ。

こうやって、届出を出すと本当にいなくなってしまったのだなと、嫌でも実感させられる。



でも大きな謎が残る、お母さんの死体はどこにいったのだろうか。



昨日の夜、他の病院にお母さんが運ばれていないか念のため医師の人に確認を取ってもらったが、どこにも運ばれていないと判明した。

私が撃たれて倒れたとき、隣にいたのだから普通に考えると一緒に搬送されていないとおかしいはず。



訳がわからず、頭を捻っていると機器のランプが光ったので受付に行き、手続き終了の報告を受けた。

世帯主や携帯の契約主変更に水道や電気・ガスの解約、両親の遺産なども受け継ぎ、待っている間に充電をさせてもらっていたスマホも使える状態へ。



用事も済んだので病院へ戻ることに。

道中、寄りたい所はないか聞かれたので丘と自宅に寄ってもらえるようにお願いをした。



向かっている間にネットを見るため、復活したスマホをポケットから取り出すと指先が触れた背面部分に対して違和感が。

裏返して見てみると、擦ったような傷がついている。



おかしい、こんな傷はつけた覚えがないのだが....。

あ、林の中で伏せて移動した際に、木の根っこに脚をぶつけた記憶があるからその時かな。



今となってはこのスマホも、両親の形見みたいな物だから大切にしないと。

けど今まで傷をつけないように使ってきたから、ちょっとショック。



少しして丘のパーキングエリアに到着。

先生には車で待機してもらって、あたりを歩いて回る。



まずは林の中に入り、相手を撃った場所へ向ったが案の定何もなかった。

次は撃たれた場所へ行き、周辺の草を見てみる。

すると、赤茶色に染まった草を見つけた。

これは私の血と、お母さんの血が乾いたものだろう。



ここに来る前は乱れないか不安だったが案外、冷静に現場を見れていることに驚かされる。

自分って意外と、冷たい性格なのかも。



ここで見たいものは見れたので先生が待つ車に戻り、丘を後にする。



自宅へ着くとそこには、焼け焦げた建物が鎮座していた。

家族との思い出の場所が黒い煤になり、崩れ散ってしまったことに悲しみを覚える。

いつかお金が貯まったらここに家をもう一度建てたい、何十年先になるか分からないけど。



帰り道にケーキ屋さんにも寄ってもらって、今日のお礼に伊藤先生の好物である、ショコラケーキを買って渡すと喜んで貰えた。

そこでマイナンバーカードについている、ICチップからでも支払いが出来ることを初めて知って驚いた、時代は進んでるなぁ....。

普段支払いはお母さんがしてくれてたけど、これからは自分でするのかぁ......面倒だなあ。



病室の前に着くと先生に入学式の日は学校の手前まで送ると言われたが、流石にそこまでしてもらうのは申し訳ない。

けど相手の厚意を無碍にするのも失礼なので、素直にお願いしますと頭を下げた。



それから4日間、忙しなくリハビリを行い体はある程度運動の感覚が戻ってきたものの、心にはぽっかりと隙間が空いた状態が続いている。

無理もないと思う、大切なものがなくなれば誰でも悲しさと苦しみ、そして失望感に囚われるだろう。



今更ながら、とても理不尽な出来事だったと思う。

唐突にお父さんとお母さんを目の前で失うなんて、誰が予想できようか。

いつかは別れの時が来ると分かっていたけれどそれは病気とか、歳をとってだと思っていた。

なのに、誰かに殺されるなんて....。



ただ、皆んなで楽しく星を眺めていただけなのに。



入学式当日の8日になり、はれて病院から退院だ。

08時09分、約束通り病院に伊藤先生が車で迎えに来てくれたので助手席に乗せてもらい、高校へ。

移動中、ちょっと気が重く先生との会話はおろか、景色を楽しんだり新しい生活に心を弾ませることもできずにいた。



なぜかと言うと病院の手術・入院費用で100万円近くの借金を背負うことになったからだ。

相続した遺産が支払いなどですっからかんになるとは、思いもしなかったなぁ....。



この度わたくし、若干16歳にして約100万円の借金を負いましてよ!

おほほ、お先真っ暗から始まる高校生活だなんてロマンがありますこと....!!



はぁ....胃がキリキリする。

大丈夫かなぁ...私の今後は....。


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