1-4

林から出ると、まだ空は明るいオレンジ色で照らされている。

この年で人を殺しただなんて、お母さんにどう言って謝れば良いのか思いつかない。

それどころか、嫌われてしまうほうが何よりも怖い。



重い足を引きずりながら進むと、お母さんがこちらに気づいて車の陰から歩いてくる。



「大丈夫だったのね....銃声が2つしたから、貴女がやられてしまったかと....。肩を怪我してるのね、早く病院に行かないと」



お母さんに事のあらましを話すと、急に強く抱きしめられた。



「そう....ありがとう、守ってくれて」



その言葉を聞いて泣き出しそうになる。

お母さんが急いでここから離れましょうと言って、私に手を差し伸べたその時だった。



破裂音がお母さん越しに聞こえて来た。



すると、お母さんは私のほうへ体を預けるように倒れ込みピクリとも動かなくなった。



恐る恐る背中に添えた手を裏返してみると、鮮血がべったりとついていた。




「お母さん??お、おか...お母さん!?」




呼びかけているとまた破裂音が聞こえた。



今度は私に向けたものだったらしく左の太ももを撃ち抜かれ、力が入らなくなり、お母さんを支えられず膝立ち状態になる。



銃声のした方向には、さっき死んだはずの人物がそこに立っていた。



抑えきれない激情が私の脳を占拠して、今すぐにでも撃ち殺してやりたいという気持ちでいっぱいになる。

でもお母さんを支えているから、銃を持つ右腕がどうしても使えない。



「ど、とうして生きてるの!?胸を撃たれて、心臓だって止まっていたのに!」



理不尽さのあまり、思わず叫んでしまった。

訳がわからない、あの状態から蘇生したのだろうか?それとも仲間なのだろうか?理解が全然追いつかない。



相手は私の問いに何も返して来ず、銃を構え、容赦なく3度目の発砲をした。



音が聞こえてから少しすると胸が苦しくなった、視線を下に落とすと自分もお母さんと同じように胸の付近を撃たれたのだ。



痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い....っ!

こんな痛みがこの世にあるだなんて....。

正しくこれこそ、激痛だ.....。



のたうち回ることもできず、うつ伏せに倒れ込む。

そんな...後もう少しで病院に行けたはずなのに、何故こんなことになってしまったのか。



やっぱり星を見てる時、私が素直に話を聞いて帰らなかったからなのかな....。

逃げるのに時間をかけすぎちゃったのかな...。

迷ったりしなければもっと早く逃げれたかな...。



今となっては反省しても意味のない、後悔が浮かぶ。



相手がこちらに歩いてきた、きっと確実に仕留めるためだろう。



「街の安全確保は......これから.....はい....ありがとうございます、ではそちらに....」



街の安全確保....?襲撃してきた人が何を言っているのだろう。

それ以外にも何か話しているが....耳が遠くなって聞き取れない。

まぶたを開けているのも辛くなってきた。

体が重い....冷たい、寒い.....。



ねぇ、どうして私達がこんな目に合わないといけないの.....?

おかしいよ.....。



離れたくない、ずっと一緒にいて欲しい。

また皆んなでご飯食べたり遊んだり、つまらない話をして笑いながら星を見たりしようよ...。



意識が朦朧とする中で最後の力を振り絞り、お母さんに腕を伸ばして手を優しく重ねた。





お母さん....大好きだよ。


それと、守れなくてごめんなさい.....。





そして、私の意識は黒く冷たい世界に呑み込まれていった。

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