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それから程なくして家に着き、電子ロックの鍵をしっかりかけたらお母さんをリビングのソファーに運び怪我の消毒と氷を渡した後、状況確認のため急いで2階の自室へ。
閉じていたカーテンと窓を開けると夜なのに夕焼けのような明るい空の色に爆発音や銃声、さらには悲鳴までもが聞こえてくる。
これは私の理解の範疇を超えたとんでもない出来事だと思い、知らせにお母さんの元へ戻る。
するとお母さんはリビングのソファーにもたれながら黒いケースを抱えて待っていた。
「戻ってきたのね、外はどうだったの?」
「街が燃えて夕焼けみたいな空になってた...あ、後は爆発音と銃声に悲鳴とか....」
そう答えるとお母さんは黙ったまま持っていたケースの開口部を私の方へ向けて開けた。
中には本来、一般人が所持しているはずのない物がしまわれていて驚く。
「これは見ての通り銃よ。できれば貴女に持たせることにならなければ良かったのだけど。使いかたは....知らないわよね?」
いきなり銃だとかなんだとか言われて、さらに混乱してしまう。
そもそも銃って確か日本では持てないはずではと思っていると、疑問を察してかお母さんが説明してくれた。
「細かい理由は知らないけれど、1年前に銃を使用できる人は所持するよう政府から言われていたの。国民がいざというとき自衛できるようにね」
「じ、自衛って....銃は軍人さんが持っている物じゃ....」
「とりあえず今は理解しなくてもいいわ、扱いかたを教えるから覚えてね?まずは.....」
説明を受けたが動揺している身としては全く頭に入ってこない。
「それと、銃口は人に向けないように下げておくのよ?後は銃の左側についているピンが安全装置。常に安全装置はかけておいて、撃つときだけ安全装置を外して、それから引き金を引くの」
「今時の新しい銃なら安全装置は両方で操作できるのだけど、これはお母さんの趣味で古い型の銃を再現した物だから片方にしかついてないのよねぇ....こんなことが起きると分かっていたなら改造しなかったのだけど」
どうしてという言葉しか出てこない、ついさっきまで2人と楽しく星を見ていたはずなのに。
なぜお父さんが亡くなって、なぜお母さんが怪我をして、なぜ子供の私が銃を扱う状況になっているのか....。
しかし何も言わず、お母さんから銃を受け取った。
銃については詳しくないので何とも言えないが、映画とかで見たことがある形の物だった。
そして持った感想としては
「重い...」
この一言につきる。
こんな物を撃てるのか心配になってきた、それ以前にこれを使わないといけない場面が訪れることに怖くなった。
「これ、いつ使えばいいの...?」
「貴女の命が脅かされるようなことになったら躊躇わず使いなさい。お母さんのことはいいから」
「え...だ、だめだよ!お母さんも守らないと!!」
自分だけが助かっても、お母さんがいてくれないと私は1人では何もできない、ただの子供だ。
「さっき公園で怪我したのが響いて、長くは持たないかもしれないの」
そういったお母さんが服を捲ってお腹を見せると、そこには内出血によって出来た痛々しい大きなあざがあった。
あぁ.....嘘だ、悪い夢だ.....。
......ごめんなさい。
私がお母さんの言う通りに早く帰ればこんなことには...目の前が真っ暗になるのを感じる。
でも死ぬと決まったわけではない......私が病院まで連れて行けたら助かる可能性もあるはず。
そう考えると銃を握る手に自然と力が入った。
病院へ行く前に今の状況を詳しく知るため、片手にスマホ、もう一方の手にテレビのリモコンを持ってネット検索をしつつ、テレビの電源をつけてニュースを見る。
驚くことに他国が戦争を仕掛けてきたのではなく、未知の存在に攻撃をされていると言うアナウンサーの言葉に絶句した。
「未知の存在って何....よ。もっと詳しいことは....!?」
「そうよね....情勢を見ても特別、各国の仲が悪いわけじゃないもの......」
ネットのほうもおおよそニュースと同じ内容が書かれていて、役に立つ情報はなかった。
しかし嘆いてはいられない、相手が何であろうとお母さんを守らないといけないことには変わりない。
そういえば銃の他に役立つ物は何かないか、聞いてみよう。
「この家に銃以外には使えるものはあるの?」
「銃以外は確か非常時用の食料と救急箱しかなかったと思うわ、落ち着いたら後で他に何かないか探すわね」
食料があるのは嬉しい、大きな病院は県境の丘を越えた先だから移動に時間がかかるかもしれないし。
救急箱はお守り程度の物だ、銃弾や爆発物が飛び交う中では活躍の場はあまりないだろう。
それとこの家の安全性についてだ、正直な所を言えば隠れて難を凌げるならそちらのほうがいい、私に戦う能力なんて皆無だから。
「ありがとう、荷物が重かったら無理しないで呼んでね。後はこの家って安全だと思う?」
「今すぐにはどうこうならないと思うけど、爆発音と銃声が聞こえたなら近いうちに、ここも巻き込まれるでしょうね」
予想通りの返答で内心に更なる焦りが出てくる。
さっきも言ったが、私はただの子供で軍人さんや映画の主人公みたいに戦うなど、とてもではないができやしない。
どうしたものか....
悩み、唸っていると家の近場で爆発音が聞こえて、いよいよこの家も本当に危なくなってきたようだ。
「もしかしたら、この家に誰かが入ってくるかも。確か梯子があったよね?あれで2階の窓から出て逃げよう」
「そうね、行きましょう」
すぐ行動へ移した。
2階に登り、先ほど開けた窓から梯子をかけようとしたとき、小さめの爆発音と共にドンと重い物が倒れる音が下の階から響いてきた。
さっきの予想が当たったのだろう、銃を握る手が震え始めたが気持ちを宥め、窓から出ようとしたらお母さんに引き止められた。
「しまったわ、この下は窓になってるから降りたら1階の相手に気づかれるわ。あまり良い選択じゃないけど家を出て行くまで一旦、押入れに隠れましょう」
幸い押入れは結構スペースがある、手前に荷物とかを置いて奥に隠れたら見つからない可能性は高い。
「そうしよっか、私も見つかっていきなり戦うのは不安だから...」
手際よく荷物をどけて奥に隠れ、念のため銃を撃てるようほんの少し荷物の間に隙間を作り、そこへ銃身を置いて待機。
不謹慎にも今の状況がスパイ物の映画みたいだなと思っていたら
「何だかドキドキするわね」
お母さんも同じようなことを考えていたみたいで、クスッと笑みが漏れる。
だめだめ、和んでいる場合じゃない、集中しないと。
戦えるのは私だけ、こんなときお父さんがいれば2人でどうにかできたかもしれないけど。
「ねぇ、お父さんは亡くなったのよね?」
お母さんが急にお父さんのことを言い出した、顔に出ていたのだろうか?
酷く動揺すると察したのか、お母さんは憂いに沈んだ顔をして、静かに呟く。
「お父さんとは、もっと長く一緒に居たかったわ...」
私のせいで悲しい気持ちにさせてしまったと思うと胸が苦しい....動揺するなんて失敗したな。
会話をしていると階段を上る足音が聞こえてきたので口を固く結び、耳をすます。
嫌でも背筋が伸びて冷たい汗が頬をつたう。
一歩また一歩と近づいてくる、数秒のことのはずなのにとてつもなく長い時間に感じられた。
そしてついに2階の部屋のドアがドンッと勢いよく開かれる。
押入れの扉の隙間から息を潜めて様子を伺う。
侵入者は部屋の中にあるクローゼットを開けたりベッドの下を確認して周っている。
私の命はこの際どうでもいいから、お母さんだけは助けてください....心の中でそう祈った。
お願いをしていると押入れの前に侵入者が来たので、扉の隙間から離れて念のため銃を握り、音が漏れないよう気をつけて呼吸をする。
押入れの扉は開かれたが意外なことに、中をしっかり確認せずにすぐ閉めて、その後1階へ下りて行く音が聞こえてきた。
今までで生きてきた中で、一番強く安堵したと思う。
隣にいるお母さんも同様にホッとした表情をしている。
しかし、先ほど見た侵入者は外見こそ黒いスーツで隠していたが、どこからどう見ても銃を持った人間だった。
これは一体、どういうことなのか......。
私が見た現実は、ニュースの報道内容と食い違っている。
それはさておき、これからどうしよう。
家から避難して病院に行きたいけど外に出れば多分さっきの敵がいて、見つかれば死が待っているのは想像に容易い。
けどお母さんの怪我を考えると悠長にしてはいられない、決断しないと。
お母さんには一旦、押し入れの中で待ってもらって自分は銃を持って外に出る。
荒らされた自室を見ると、文句の1つでも言いたい気分になったがここは我慢。
今のスカート姿では外で足を開けないので、タンスの手前にしまっていたジーパンに着替えてコートを羽織り、銃を構えた状態で1階に降りた。
お母さんが言っていた非常食と救急箱を探して、貴重品と共にリュックにつめてからテレビのあるリビングで再度情報収集をしたが、特に更新されていない。
「こんなことになってるのにどうして何も情報がないのよ!少しくらい役に立ってよ...!」
情けなくも叫んでしまった、いきなりのことが立て続けに起きて大分まいっているようだ。
精神の疲労を自覚して、大きなため息をつく。
家の中の危険は去ったから今のうちに動いたほうが良さそうだけど、病院へ行くにしてもどの道を行けば安全なのか分からない。
そもそも相手が襲撃しているなら、どこも危険なことには変わりないか....。
2階に戻り、お母さんを外に出して話を聞く。良い道を知っていないか尋ねる。
「前に星を見に行ったときの道がいいと思うわ、あの細道ね」
その細道を通ると丘までは歩いて2時間位かかるはずだ、お母さんの体調が心配になった。
「お母さんは大丈夫よ、車を使えば20分くらいで着くから問題ないわ」
目の前のことで頭が一杯だったせいで車の存在を忘れていた。
だけど、そう言うお母さんの顔色はあまり良くない。
「運転はお母さんがしたほうが良いけど貴女してみる?意外と楽しいわよ♪」
「む、無理だよ!?私免許持ってないんだから!」
「免許がなくても操作は簡単よ?オートマチックだから。まぁ、貴女が運転なら私が銃を撃たないといけないけど、それはちょっと厳しそうだからやっぱり運転するわ」
「う、撃つって車の中から射撃するの!?そんなこといきなりは....」
「命に関わる状況ならいきなりでもやってもらわないと困るわよ?今後、貴女の命を守るためにも」
さっきから無茶なことばかり言われて困惑してばかりだ、でも正論だとも思う。
これから先、ただの子供で生きていられるか分からなくなってしまったのだから。
あれこれ考えているといつの間にか、車のキーと予備の弾薬・弾倉にベストとボールのような物にピンがついた物体を持ってきたお母さんが声をかけてきた。
「この弾を今から予備弾倉に入れてそれをベストのポーチにしまうのよ、お母さんもやりかたを教えながら手伝うから」
「後これは手榴弾。使う時はここのピンを抜いたら2秒以内に投げなさい、もたもたしてると爆発するから。もし投げ損ねて近くに落ちたら拾わずに離れて伏せるか、何かに身を隠して破片と爆風から身を守るのよ。使わない時はこれもポーチにしまっておいてね」
「そんな危ない物をポーチにしまっておかないといけないの?もし弾や何かが当たったら爆発するんじゃ....」
「大丈夫よ。流れ弾や爆発物の破片では、爆発しないようになっているらしいから」
話を聞いて心穏やかにはなれなかった。
危険な物は持たせないでほしいと文句を言いたくなったが、既に銃という危険物を所持している以上、危険な物が1つや2つ増えたところでさして変わりもしないか。
お母さんに弾倉に弾のつめかたを教えてもらい、それに倣って1つ1つ丁寧に装填していく。
それが終わるとベストを着せられたがお父さん用のサイズで私にはかなり大きい。
そして何より、これがまた重いのだ。
さっき装填した弾倉は一個当たり500gくらいを3つ、手榴弾は400gを2つとこれだけで2.3kgもあるのに、そこにベストの4kg近くとリュックに入れた食料や救急箱4kgがのしかかって来る上、銃の重さ約3kg.....。
私、何かあったときに走れるのかな....?
今まで生きてきた中で13kg以上ある物を身につけた経験はそうそうない、かなりの動きにくさ。
でも戦争ではないにしろ、戦うということはここまでしっかり準備をしないといけないのかと痛感させられる。
「ふふ、ちょっと無理をさせちゃってるけど案外似合ってるわね!」
そんなこと言われても全然嬉しくはない、似合っていると言われるならもっとこうレースのワンピースだとかゴシックな服を着たりしてるところ褒めて欲しいものだ。
家を出る準備が整い、お母さんに話をすると先に車庫の安全確保をしてと言われた。
「車は目立つし急には動かせないから、貴女が今のその装備を持ったまま外に出て安全の確保をするの。しっかり周囲を確認してね?その状態になれる訓練だと思って慎重に行動しなさい」
少し心細い気持ちもあるが、さっそく行動に出よう。
時間をかけてしまうと家が安全ではなくなるし。
「安全装置を外しておきなさい。外した後は、近くに書いてるSEMIって文字にピンを合わせて。SEMIはセミオートで単射、AUTOはフルオートで連射、覚えておくのよ?」
危うく安全装置をかけたまま、のこのこ敵がいるかもしれない場所へ行くところだった。
でもセミオートより連続で射撃のできるフルオートのほうが便利なのではと思ったが自分は素人、疑問は置いといて素直に従うべき。
でもお母さんがどうしてここまで詳しいのか気になるけど、それを聞くのは無事に病院へたどり着いた後にしよう。
言われた通りに安全装置を外し、セミオートにピンを合わせる。
銃を構えて引き金に指をかけないよう注意を払いつつ移動。
動きにくさに慣れていないせいでかなりのストレスを感じる。
銃だけならまだしもベストとリュックのせいでで上半身が動かしにくいし、重心が後ろに寄っていて立っているのがやや辛い。
いかに普段、筋肉を使っていないかがよく分かる良い体験だ。
廊下を進み、道中にある部屋の中を入り口の外から覗き込んで誰もいないことを確認したら玄関の方向へ進む。
玄関前までは異常無し、次は外だ。
扉は壊されているので開ける必要はないが、家の中が常に丸見えなのはいただけない。
玄関先に出ると相変わらず、銃声や爆発音などが散発的に聞こえる。
次は車の駐車場へ行き、周囲を見渡したがこちらも異常はないようだ。
私が外に出て何事もないなら今はこの周辺に敵がいないことの証明になる、あまり褒められた証明方法ではないけど。
家の中に戻り確認が終わったことを伝え、お母さんを駐車場までエスコートして車に乗せる。
すごく疲れた、腰が辛いし肩が痛い、軍人さんはこんな思いをしながら戦地に赴いていたのかと同情を禁じ得ない。
目的地に着くまでちゃんと警戒しないと。
気をひきしめ直して自分も助手席へ座り、銃の安全装置をかけたらシートベルトを着用して出発を待つ。
そして直に車は、ブルブルと心臓を震えさせてゆっくりと発進した。
さようなら我が家、さようならお父さん。
目元に涙が浮かんだが、感傷に浸っている余裕はない。
その後、お母さんを守るために精いっぱい目を凝らして周辺の警戒に務めた。
無事に病院へたどり着くために———。
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