ニア・フューチャー・ガールズ

Athymia

第1部

1-1

2036年 2月8日 金曜日 22時14分



「今日も星の光が綺麗だね」



そう小さく声を漏らすとお父さんはうなずき、お母さんはにっこり笑顔を見せた。



寒い時期に見る星は格別だ。

空が澄んでいて綺麗なのもあるが、雰囲気が良い、雰囲気は重要だと思う。

これで高い場所なら星を観賞するついでに煌びやかな夜景も拝めるのだけど、あいにく今は家の近くの広場で見ているからそれは叶わない。

でもこの場所は光がかなり少なくて星が見やすい、穴場の観察スポットなのだ。



私が星を見るのが好きになったのは小学校のころ、お父さんが買ってくれた天体望遠鏡で初めて月を見たとき。

肉眼では見えない月の表情を、詳細に知ることができたのがあまりにも衝撃的だった。

それ以降、色んな星や惑星を見ているうちに気づくと趣味になっていたのだ。



星を見ると、なんというのか.....心が躍る。

この宇宙の果てに何があるのか、そこへ人はたどり着けるのか、そしてそのとき何を感じるのか——。



星と宇宙は無限大の好奇心を与えてくれて、いつも私の心を掴んで離してはくれない。

しかし、それすらをも超えて私の心をもっと魅了するのが家族全員で一つの物事を共有しあう時間。



いつかはこの時間も失われてしまうと知っているから、とても大切だと感じる。

失われるのが明日か明後日か、はたまた何年後になるのか、そんなことは分からないけど今この大切だと思っている瞬間を、生き抜きたいと強く思う。



そんなことを考えていると、お母さんがそろそろ夜も更けてきたから家にもどりましょうと言って、広場の近くにある自宅へ帰ろうとしていた。



私はそれに従おうと思いつつも、名残惜しくて星を望遠鏡で眺めていたら、気のせいかさっき見ていた時より星の輝きが強くなっている気がする。



不思議に思い、続けて観察していると唐突に目を開けられないくらいの眩い光りが、視界を真っ白に染めた。



その後、耳がつんざくような爆音が聞こえ、そして何かの冗談か私は月を見上げるように宙を舞っている。



「え...?」



現状の理解ができないままでいると、直に地面へ落ちて頭と肩に鈍い痛みが走った。

頑張って上体を起こすと酷い耳鳴りに頭痛がする。



痛む頭を押さえながら今の状況を知るため辺りへ視線を巡らせると、煙と火が上がっているのと広場の真ん中に大きな穴が出来ていて驚いた。

驚きのあまりに固まっていると、ドシャッと上から何かが降ってきたが暗くてよく分からない。



そんなことよりも....。



「お母さん、お父さん!!」



2人がいた場所を見ると、煙で見難いがお母さんらしき人が倒れてうずくまっていたのが見えた。



お父さんが見当たらない....。

お母さんの近くにいたから、いないはずはない。

探すために立ち上がろうとした際、さっき降ってきた物体のことが気になって触ってみた。



これは何なのだろう...ぶよぶよしてるし、温かくてぬめっとする...。



そう言えばスマホを持っていたんだった、ライトを使えば分かるかと思い明かりをつけた。



すると、これは頭....?....お父さん....??

どうしてお父さんの頭が?



脳が理解を拒み。

思考が停止した。



...えっと...。

このぶよぶよするのって...中身、だよね....?

ひっ.....!?



私が触れたのはお父さんだったモノで、あまりの惨事に気がおかしくなりかけた。

さっきまで人の形をしていた者が見るも無惨な形へと変わり果てているのだから。



乱れる気持ちを抑えてお父さんだったモノから手を離す。

足がもつれ、こけそうなりつつもお母さんに駆け寄って名前を呼ぶと若干、意識が朦朧としているものの反応がありホッとした。



外から見た限りでは近くで爆発があったのに擦り傷程度ですんでいで奇跡だと思った。

しかし安心は出来ない、どうしてこんなことになっているのか全く分からない。

とりあえずここにいては危険だと判断し、起き上がったお母さんに肩を貸して急いで家の方角に歩いた。



道中お母さんに、お父さんはどうなったのかと聞かれたが素直に答えられるわけがなかった、あんな状態になってしまったことを。



「"お父さん"は見当たらなかったよ....先にどこかへいっちゃったのかも.....」



私は心苦しくも嘘偽りない事実を伝えた。

それに対してお母さんはありがとう、重いでしょうけど家までお願いねと冷静なトーンで返してきた。



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