第5話 テリア・ラッセル:ハスキード視点

 社交界に本格的に出始めて数年が経ったころから、一人の令嬢と会う機会が増えた。彼女は外交官を務めるラッセル公爵の長女テリアで、よく王城にも来ていた。ラッセル公爵が僕の父上と話している時間は手持無沙汰なのか毎度お茶に誘われた。暇になると分かっていながらなんで来るんだろう。そして何度目かの茶会の時。


「ハスキード様は次代の国王に相応しい方ですわ」

「ありがとう」(カーリー以外に名前を呼ばれるのは不快だけど公爵令嬢だから注意したらまずいよな)

「わたくし、実は物心ついたころから王家に嫁ぐべきと教育を受けてきましたの。王家の一員になることはわたくしの夢でもありましたからそれはそれはたゆまぬ努力をして参りましたわ」

「それはさぞ大変だったろうね」(カーリーもとても頑張っていたよな)

「特に語学は外交官である父さえわたくしには及びませんわ」

「それはすごいね」(僕は何を聞かされてるんだ?)

「こと隣国に関しては滞在期間も長く、言葉だけでなく彼らの文化にも精通しておりますの」

「ほお」(隣国、言語、王家…最近どこかで聞いたことがあるような?)

「隣国の言語であれば現地の方々が聞いてもわたくしが外国人だと気付かないほどですのよ」

「素晴らしいね」(似たような話を最近…何だったかな…)

「ところでハスキード様。今年も避暑地にはおいでにならないのですか?」

「避暑地?」(避暑…涼しい…!!、ウルシダー王国!!)

「ええ、王家の避暑地はとても快適だと聞き及びますわ」

「君は涼しいところが好きなのか?」(ウルシダー王家の嫁の話だ!思い出した)

「そうですわね。暑いのは苦手ですわ」

「君は先ほど王家に嫁ぎたいと言ったか?」(さっきから何を聞かされてるのかと思ったが、そうか、遠回しにウルシダー王家に嫁ぎたいと言っているのだな!)

「そ、それは…叶うことならば…」

「なぜ王家に嫁ぎたいのか聞いても?」(まずは動機確認しよう)

「わたくしは我が国のため、ハスキード様のために力を尽くしたいのですわ」

「よし!分かった!君の願い、叶えよう!」(なんという愛国心!)


 なぜやたらめったら僕に会いに来るのか謎だったが目的があったのだな。きっとラッセル公爵からウルシダー王家の話を聞いたに違いない。だが結婚に関して淑女が明言するのは恥ずかしかったのだろう。そもそも淑女は心情を詳らかにする行為をはしたないとしている。年も近く一応立場のある僕に結婚の後ろ盾をして欲しかったのだな。


 その後も彼女の意思を確認すべく何度か会うことになった。彼女が恥ずかしさのあまり口を閉ざしてはいけない。聞き方や言い回しには苦心した。リラックスさせて本心を聞きだすために庭園を散歩したりもした。時折頬を染め、伏し目がちになる姿は恥ずかしさの表れだと分かったので、そんなときは「何も心配いらないよ、すべて僕に任せて」と声をかければ、瞳を潤ませて喜んでいた。


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