第6話 かみ合わない会話
ついに婚約解消と言われてしまった。しかも殿下からではなくテリア様から。が、殿下の様子がおかしい。目を丸くし、首を傾げてテリア嬢を見ている。
「テリア嬢。婚約解消って、君は誰かと婚約していたのかい?」
「え?いいえ、わたくしの伴侶はハスキード様と心に決めておりましたので婚約者はおりませんわ」
「???、じゃあ誰との婚約解消を手続するんだい?」
「それはハスキード様とカーリー様ですわ。わたくしがハスキード様の妃になるのですから当然ではございませんこと?」
「ええええ!?」
殿下は驚嘆の声とともにテリア嬢から一歩離れた。華麗なステップとは裏腹に右手で口元を覆った殿下の目は高速で泳いでいた。高速で泳ぎすぎて瞳が残像で二つに見えるほどだ。
「えっ、どういうこと…僕とカーリーが?…えっ…結婚、できない?…テリア嬢が?僕の…き…妃?」
誰が見ても殿下は動揺を極めている。あまつさえカタカタと震えているではないか。殿下とテリア嬢の間に何か認識の乖離があるのだと、ここで分かった。その認識の違いは一体何なのだろう?
「殿下?」
「カーリー…どういうこと?」
殿下はまるでしょぼくれた大型犬よろしく私のドレスに縋りついて来た。どういうことか聞きたいのは私なのだが…。
「殿下、テリア様との間で何か誤解があるのではありませんか?」
「カーリー様、失礼なことをおっしゃらないで。殿下とわたくしの間に誤解などありませんわ。殿下は確かにわたくしを王家に嫁ぐに相応しいとおっしゃいましたもの」
「そう!そうだ、テリア嬢は王家に嫁ぐに相応しい!でもそれは僕とカーリーとの婚約には関係ないじゃないか!」
「殿下、わが国では重婚は認められていません」
「僕もそれは知っているよ」
「国王陛下だけはお世継ぎの問題があり、複数の妻を迎えることが可能ですが、殿下はまだ玉座を継いでらっしゃいませんし、立太子もまだですよね」
「うん」
「ですので、殿下がテリア様と結婚するためには私との婚約を解消しなければいけません」
「いやいや!僕はテリア嬢と結婚なんてしないよ!」
「ハスキード様!?ハスキード様は確かにーー」
「殿下はテリア様が王家に嫁ぐに相応しいとおっしゃたのですよね?」
「ええ、ええ、そうですわ。ハスキード様は確かにそう仰せになったのです」
「うん、言った」
「つまりテリア様がサイベリアン王家に相応しいとお考えなのですよね?」
「えっ違うよ!違う違う!」
私のドレスにぶら下がったまま殿下は頭を左右に高速振動させる。こんなに高速で頭を振っても目が回らない三半規管が羨ましい。
「ハスキード様!?お話が違うではありませんか!!」
「何も違わないよ!テリア嬢にはウルシダー王家に嫁いでもらおうと思ったんだ!うちじゃない!!」
王家をその辺の一般家庭よろしく『うち』と呼称するあたり、今日も殿下の知性はかくれんぼしているようだ。
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