第14節
「さて、じゃあプレゼントタイムも終わったし、ケーキ取りに行こっかー」
どろんぱがそう言うと、女子達が相談をし始めた。
「取りに行く? ここの冷蔵室にあるんじゃねーのか?」
しっぺりんがそう訊ねるのも無理はなかった。定食屋の冷房室は一般家庭のそれに比べて広いのだから、事前に保管していると思うのが当然で、おまけに外はもうほとんど日が暮れて薄暗くなっていたので、今から取りに行くというのも不自然な話だった。
すると、じゃすたとぷにまるがそれに答えた。
「あたしらがさっき取りに行ったんだけど、『こめっことてってれえの祝宴用』って伝えてたら、なんかケーキ屋の人が勘違いしたみたいでさ。王都で少し前から流行ってる、ウエディングケーキ? ……結婚式で使うケーキだと思って、めちゃくちゃ大きいの作ってたんだよね」
「そうそう。重いわ大きいわであたしらじゃ持っても帰れなかったし、そもそも持って帰っても置くとこ無さそうだったしで、後で食べる前に取りに行くって言っといたのよ」
「えっ! そんなでっかいの!? わたしも行く!」
二人の大きいケーキという単語にこめっこが反応して、早く見に行きたいと駄々をこねだした。そんなこめっこに、じゃすたが「あんた食うつもりでしょ」と言って止めようとしたのだが、「昨日我慢させたんだし、いざとなったら絞め落としてでも止める」と請け合ったなびたんが子分のしっぺりんとあらおを荷物係に任命して、4人がケーキを取りに行く流れになった。
4人が今にも出発しようとしている中、俺は緊張を飲み下すように一つ大きな深呼吸をして、
「こっ、こめっこ!」
と声を掛けて呼び止めた。
「ん、なに、てってれえも行きたいの?」
振り向いたこめっこに見据えられて、俺は高鳴る鼓動をなんとか抑えつつ、
「い、いや。そうじゃなくて……実は、俺からも、その、お前に、誕生日プレゼントがあるんだけど」
と、ポケットから小さな赤い袋を取り出してこめっこに手渡した。
「ほんとに!? やった!」
それを受け取ったこめっこはぱあっと笑みを浮かべて、袋からプレゼントを取り出す。
「……これって」
「お、お前はあのドラゴンの方が良いって言ってたけど……、俺は、それ、似合うかなって思ったから……」
こめっこは自分の手のひらの上にある、三つ星のヘアピンを見つめたまま黙りこくった。
その沈黙に耐え切れず、気まずくなって頭を掻き、
「あー、や、悪い。嫌だったら、買い直してくる……」
と俺は言った。こめっこは少し間を置いて、落ち着いた柔らかい声で答えた。
「……ううん、これがいい。わたし、一生大事にするね」
こめっこは薄く微笑みながら俺を見上げた。そうしてすぐさま、元々つけていた大きな星形のヘアピンを頭から取り、
「ねっ、てってれえが付けて!」
新しい三つ星のヘアピンを俺に差し出してそう言った。
俺はこめっこの髪に触れる気恥ずかしさに少し戸惑いながらも、やがて差し出されたヘアピンをおずおずと受け取って、こめっこの小さな頭に、柔らかくて滑らかな手触りのその黒髪に、そっとヘアピンを挿した。
髪の感触で俺がヘアピンを付けたことを感じ取ったこめっこは、閉じていた目を薄く開いて俺を見上げ、
「ありがとう!!」
と、今度は満面に笑みを湛えて言った。その表情があまりにも愛らしく思えて、俺はすぐさま目を逸らし、4人に「じゃあ気を付けて行ってこい」と促した。
すると、いつの間にか静かになって俺達を見ていた友人達が、
「わっ! ちょっと! 見た!? あれ見た!?」
「いや、あたし無理! 直視できない! 甘酸っぱすぎる!」
「ピュア」
「恋だねありゃあ!」
「こめっこすっごく嬉しそうですね!」
「やっば、アイツめちゃくちゃ顔赤くね?」
「顔どころか首まで真っ赤だぜあいつ!」
「心なしかこめっこも赤いねー」
「紅魔族は興奮すると顔も赤くなるんだねえ」
などと次々と冷やかし始めた。それでますます居た堪れなくなった俺は、四人を逃がすように送り出して、定食屋のドアを勢いよく閉めた。
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