第12節
カモネギ鍋をなんとかしてお代わりまで平らげた俺達がゆっくり休んでいると、どろんぱが急にスッと立ち上がって大声で言った。
「そろそろ宴もたけなわってことでー。……プレゼントターイム!」
こさみんの隣に腰掛けていた俺は、どろんぱに手招きされて元の角席へと戻った。
これほどまでの豪勢な祝宴を催してくれた上に、どうやら誕生日プレゼントまで貰えるらしい。予想を上回る友人達の優しさに、俺は思わず胸を打たれた。
「んー、じゃ、……あんま期待してないけど、男子からよろしくねー!」
「……お前ってほんと、いっつも一言多いよな」
どろんぱの余計な一言にきんこんがすかさず反論し、男子達がそろってどろんぱに非難の目を向ける中、恐らく代表なのだろうてにすけが立ち上がり、包装紙の上に可愛らしいリボンのラッピングが施された小包と、それとは反対に簡素な見た目の小さな箱を持って俺達に歩み寄った。
てにすけは気恥ずかしそうに、一度わざとらしく咳払いをして、
「ゴホン。……えー、俺達男子からは、こめっこには新しいマントを、てってれえにはポーションの詰め合わせを贈ります。二人とも、誕生日おめでとう」
と言い終えてから、こめっこに小包を、俺に箱をそれぞれ手渡した。
俺達は口をそろえて「ありがとう」と伝えそれを受け取った。こめっこはプレゼントを受け取るなり包み紙を剥がし中のマントを取り出した。
「へー、マントにしたんだねー」
「まあ、男子にしてはマシかもね」
「及第点」
「デザイン次第でしょ」
「安心すんのはまだ早いわ。どろんぱ、生地の鑑定してやんな」
「おっ、お前らなあ……」
口々に失礼なことを言う女子勢に、男子達は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
こめっこに倣って俺も箱を開けてみると、てにすけの言った通り、中には6本のポーションが入っていた。一人一本ずつということだろうか……?
「へー、みんなありがとな。……で、これどれが何のポーションなんだ? 全部色が違うけど」
そう訊ねると、代表のてにすけが答えた。
「聞いて驚け……赤いのが『頭髪が全て胸毛になるポーション』、黄色いのが『視力がなくなる代わりに一定時間透明になれるポーション』、緑のが『異性を引き寄せるが体臭がゴブリンの匂いになるポーション』、で、青いのが『知力が極端に下がるが筋力のステータスが著しく増加するポーション』で、白いのが『一生分の性欲を三日で使い切るポー』————」
「全部ゴミじゃねーか!」
一つとして使い物にならない贈り物を捨ててやろうと立ち上がると、慌てた様子のてにすけが俺の前に立ちふさがった。
「ちょっ、まて、まだ全部聞いてないだろ! その紫のやつは『スキルアップポーション』だよ!」
「……まあ確かに、色はそうだけど。……ホントか?」
「マジマジ、ほんとだって! 小瓶の側面にちゃんと刻印してあるだろ?」
そう言われて手に取って見てみると、なるほど側面には『スキルアップポーション』と刻印されていた。
スキルアップポーションは、レッドプリズンでこそ成績上位者は頻繁に手にする機会のあるポーションだが、市販であれば一本で50万エリスは下らない代物であった。確かに他の5本は紛れもないゴミでしかないが、それを差し引いても子供の贈り物としては破格の一品であろう。
……もっとも、こいつらが悪知恵を働かせて中身を移し替えていないのであれば、の話だが。
俺達がそんなやり取りをしている隣で、黒いマントを貰ったこめっこは早速それを羽織って見せており、どろんぱはなびたんに促されるまま、その生地の表面を撫でて品質の確認をしていた。
「ふむふむ、なるほどねー……。最高品質ってわけにはいかないけど、なかなか良い生地だね。ま、里で手に入るものとしては上等だよー」
「まじで?」
「どろんぱがそう言うんなら間違いないでしょ!」
「へえ、裏地は濃紅か。男子にしては良いセンスじゃないか」
「格好良い」
「似合ってますね!」
「こめっこ! もっとよく見せてよ!」
盛り上がる女子達の中心で、プレゼントが気に入ったらしいこめっこはにっこりと笑いながら小躍りしていた。俺は先週二人で服屋に行った時のことを思い出した。
……あの時はいらないって言ってたくせに、なんだかんだで人から贈り物をされると嬉しいんだな。
こめっこが無邪気にはしゃぐ姿を見て、「せっかくのプレゼントを捨てるなんて俺はどうかしていたのかもしれない」なんて考えていると、どろんぱがこちらを向いて、
「てか、あんたらよくこめっこのサイズ知ってたよねー」
と男子に向けて言った。やはりてにすけがそれに答えた。
「なんか最近こめっこの裾を直してたから、おやっさんがだいたいのサイズ覚えてたらしいんだよ」
「あー、なるほどねー……。ま、ほんとに良いもんだし、こめっこも喜んでるし、ちょっと見直したかも。さっきは期待してないって言ってごめんねー!」
どろんぱに続いて数人の女子が褒めると、男子達は気恥ずかしそうにしつつも、こめっこに「似合ってる!」だとか「さすが!」などと囃し立てていた。
……まあ、こんな連中だが今回はなかなか頑張ったのかもしれない。俺自身、スキルアップポーションなんてとても高価なものを貰った上に、こめっこのプレゼントもどろんぱの見立てでは上質な生地らしい。普段から女子達にバカにされてて、金回りも悪いこいつらにしては…………。
「……おい、ちょっと訊きたいことあんだけどいいか?」
俺が落ち着いた声音でそう声を掛けると、照れ臭そうに鼻を掻いているてにすけが向き直って、
「なんだよ、どうしたんだ?」
「いやさ、プレゼント自体はすごく嬉しいんだ、ありがとな。その上で、こんなこと訊くのは俺も気が引けるんだけどさ。……ちょっと疑問に思ったんだけど、このクラスの成績上位者ってこの三年間ほぼずっと俺達三人なんだよな。だから、スキルアップポーションも常に俺達が貰ってるわけだ……。気まぐれで貰ってる女子は……まあ見たことあんだけど、男子で貰ったことあるやつって見たことねーんだよ。誰かいたっけ?」
俺の真意を汲み取れていないてにすけは怪訝な顔をした。
「ん? いや、いないんじゃないかな。俺も見たことないけど……つまり、何が言いたいわけ?」
「だよな、良かったよ。……いや、ホント心苦しいんだけど訊いてもいいか? こめっこの誕生日プレゼントを用意した上に、スキルアップポーションなんて数十万エリスもするようなもん、普段から金遣いの荒いお前らが一体全体どうやって用意したんだ?」
俺の質問に、先程まで和気あいあいとしていた男子達が一斉に黙り込む。
代表として、俺に問い詰められていたてにすけは、どもり気味に、
「えっ!? いっ、いや……そ、その、ほ、ほら…………」
「……そういや、お前んちって魔道具店だったよな?」
「ま、まあな……」
「……これ、ちゃんと親父さんに言って貰って来たんだよな? あ、嘘つくなよ?」
「………………もちろん」
……俺はその長い沈黙で全てを理解した。
「お前ふっざけんなよ! プレゼント貰っといてこんなこと言いたかねーけど、人に盗品寄越しやがったのか!!」
「いや、ちょっ、待って! 分かった悪かった! 俺達には言葉があるんだ! 話をしよう!」
誕生日プレゼントとして盗品を流してきた友人に俺は掴みかかった……!
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