昔話

『ガキがそんなとこでべそかいて何してんだい』


……。


『まあ、どうでもいいがね』


……学校の先生に、このままじゃアークウィザードになれないぞって言われたんです。


『へえ、そうかい』


 ……俺だけなんです、みんなはなれるのに。


『それがどれだけ大切なもんなのかは知らないけどね、あたしゃ下向いてるガキがこの世で一番嫌いなんだ』


 ……。


『上を見な、ガキンチョ』


 ……。


『アンタみたいなチビスケの足元になんてね、大事なもんは何一つ落ちちゃいないよ。だからしんどくても辛くても、歯食いしばって上を向いてな』


 ……上を向いてたら、アークウィザードになれますか?


『知るか、そんなもん』


 ……。


『それでも上を向いてりゃ、何者かにはなれるだろうよ』


 ……俺は、アークウィザードになりたいんです。


『ガキが一丁前に口答えしてんじゃないよ。立ちな、飯食いに行くよ』


 ……え?


『下向くのはね、飯を食う時だけにしときな。飯食って、腹が膨れたら、上を向いて歩きな』


 ……おばちゃん、誰ですか?


『誰でもいいだろ』


 ……名前は? おばちゃんの。


『人に名前を訊く時は、まず自分から名乗るもんだ。覚えときなガキンチョ』


 ……俺は、てってれえです。


『変な名前だね』


 ……外の人にはよく言われます。


『名前、名前か。色々と呼ばれて来たんだがねえ』


 ……。


『そうさね……、今はマイアだ。あたしの名前はマイア』


 ……おばちゃん、変な人ですね。


『アンタらにだけは言われたくないよ』


 ……あ、待っておばちゃん。


『失礼なガキだね。レディに向かっておばちゃんおばちゃん言うんじゃないよ。ほら、行くよ。さっさとついてきな』

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