第2話

冒険者になるのは初めてだった


協会から支給されたものは身分証明のバッチと簡単にまとめられた仕事内容のしおりであった




僅かにあった貯金を切り崩し受注の手付金を払う




「簡単な依頼からこなしていくにしても…なぁ…」




依頼には薬草の採取とあった


町はずれの丘に収穫の手伝いに行かなければならないらしい




「たまにはこんなのもいいか」




愚痴をこぼすのもほどほどに杖と短剣を携えて街を出た








気持ちのいい快晴


しばらく歩き続けていると丘が見えてきて農場と思わしき建物もそびえたっている


すれ違う行商人の中には異種族を載せた馬車もあった


東に位置するこの街は観光業で賑わっており、重労働を目的とする異種族の運搬に違和感を感じる




丘上には魔素を多く含む土壌が広く広がっているらしく


多く貴重な野草が栽培されている


何でも大昔に名のある龍がこの地で果て、その骸がこの丘だそうだ




「おぉ!君が協会からの冒険者かね」


「はい。本日はよろしくお願いいたします。」




恰幅のいいおじさんはひげを撫でながら言葉をつづけた




「若い人はあまり来てくれないのでな、とても助かるよ」


「体力には自信があるのでお任せください」


「ふっ、嬉しい言葉だ」




背中を叩かれ農場へ案内される


薬草は機械や魔法での収穫は難しく


魔力量を視れる人間が収穫時期のものを一つずつ収穫するそうだ




「これが収穫に適したものだ」


「承知しました」




なるほどほんの少し青白く変化しているのが見て取れた


魔力量を視れないものには全て同一に見えるのだろう




昼前からはじめた作業は夕方まで続いた




「いやぁ~~~~本当にありがとう。とても助かったよ


 身体のわりにタフなんだな!あっはははははははは」


「よく言われます、はは。依頼はこれで完了ですかね?」


「もちろん!教会には私から色を付けるようにいておくよ、はははは」


「ははは」




おっさんが嬉しそうでよかったよ


簡単な依頼だったが時間はかかるし地味な作業だった


でもこれが放置され続けていた最大の理由はそこじゃない


みんなはこれを冒険とは思えないところだろう




おっさんが大手を振っている




夕方に見下げる城下町は冒険という言葉を肯定するには十分すぎるほど綺麗で


疲労の蓄積した身体は達成感に満ちていた




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