3-2話 蟻が見たもの
ティニア岬基地から激しい火が上がったのはその直後のことだった。
シャルロッテの指示を受けて、アンリは現場へ急行する。巻き込まれるは無きにしも非ず。しかし、アンリが基地に着く頃には既に戦闘は終わっていた。
警備に就いていた大量の戦車・ヘリ・ワーカーなどが全て破壊され、施設も大部分が機能停止している様子。基地の敷地を歩き回っても生存者の姿は無い。
探索を進めていると、フレディが口を開いた(彼はAI、本当は開く口など無いのだが)。
「アンリ、滑走路の方に機体反応があります……」
「ホント?」
「はい。近付くまで検知できませんでしたが」
熱源センサーを使っている影響で、辺りで燃えている兵器の残骸ばかり検知され、本当に生きているものと判別するのに時間が掛かったようだ。
「用心に越して行こう」
アンリがレバースイッチをひと押しすると、旧式のコンピューターボイスが言った。
《ジェネレーター停止》
《動力がバッテリーに移行》
こうする事で機体の発熱量が激減し、敵に探知され難くなるのだ。ただし、バッテリーの消耗は速いので、この隠密モードは長続きしない。
アンリは手早く仕事を済ませようと思った――が、探すまでもなく、滑走路の真ん中にはワーカーよりも幾回りか大きな人型ロボット兵器が鎮座していた。
「アセラント……のようですね」
純白の機体色というのは、先刻、アンリの眼前でプロエリウスを撃破して行った機影と合致する。そして、それがこの基地を襲った事は容易に推察できた。
近付いても動かないことを確かめると、アンリはもっと傍へ移動する。
そうして、彼女は主に2つの箇所に目を引かれた。
1つ目は背中に設けられた一対のブースターユニット。鳥の翼のように長大である。
2つ目が脚。これもまた鳥の骨格のように膝から踵までが短く、踵から爪先までが長くなっている……いわゆる「趾行」となっていた。
要するに、人間通常の脚と比べて膝が一つ増えて見える。
「アンリ。見入っているところ申し訳ないのですが、この機体のコックピットハッチに強制ロックが掛かっているようです」
「……普通パイロットが自分で開けられるよね?」
「閉じ込められている可能性があります」
「……ちょっと会いに行ってみようか」
アンリは念の為、護身用の拳銃を持ってパラポネラから下りた。
彼女はアセラントの鳩尾にあるコックピットハッチまで来ると、フレディがハッキングを仕掛け、ロックを解除する……ガチャンとハッチが開いた。
日差しの向きの都合、コックピット内は完全に影になっている。
しかし、確かに誰か乗って居た。アンリはヘルメットの僅かな光沢を捉え、その人物が自分の方を向いたもの分かった。
ただ、それ以上特に動こうとはしていない。
「大……丈夫?」
声を掛けてみると、パイロットは無言で頷いた。
が、目線がアンリの手元に移った途端、体を震わせながら身構えた。
「あ、銃……ごめん、怖かった?」
アンリは直ちに、そして大袈裟に拳銃を放り捨てる。
「平気だよ。ほら!」
彼女はそのパイロットの背景を何となく察した。きっと、誰かに銃の痛みを以ってしつけられていたのだろうと。
アンリの心には早くも庇護欲なるものが滲み出て来た。
「取り敢えず、そこ出る?」
彼(彼女)は幸い落ち着きを取り戻したらしく、またこっくりと頷いた。
アンリは狭いコックピットの中に何とか自分の体もねじ込んで、手助けしてやった。シートベルトを取り、一生懸命抱っこして機体の外へ運ぶ。
人型ロボット兵器を操るパイロットには似つかわしくない、とても小柄で華奢な子だった。
着用している白いスーツは、複雑そうなデバイスを備えつつも、肌にフィットしているせいで体型が浮き彫りだったのだ。
アンリは自分の身長167cmと比較して、140cmくらいかと思った。
「ふぅ……」
ゆっくり地面に降ろして立たせると、その予想は大きく外れた……身長差は大して無かったのである。
パイロットの彼(彼女)もまた、乗機と同じように趾行の姿をしていたからだ。
「おぉ……? こ、これは……」
彼女が狼狽えている間に、彼(彼女)はカシュッという音と共にロックを外してヘルメットを取る。シールド部分は外から見て真っ黒だったので、顔もここで初めて見せた。
アルビノのような肌と、肩上で切りそろえられた髪、あどけないながらも端正な顔立ちが露わに。
ただし、驚くほど中性的かつ無表情である。
「改造手術を受けているのでしょう」
フレディが何気なく発した言葉を重く受け止めつつも、アンリは彼の前に屈んで優しく問い掛ける。
「……君、どこの所属?」
彼(彼女)は憂鬱そうな表情をするだけ。
「……もしかして、喋れない?」
パイロットの子はすぐに大きく首を縦に振った。
「よし、分かった! 君、行く当てとかはある?」
今度は首を横に振る。
「じゃあ、君も昔の私たちと一緒だね! 私の仲間の所に来なよ」
アンリはなるべく彼(彼女)が心を開いてくれるように、濁りの無い微笑みで接した。
そしてそれが上手く通じたのか、彼(彼女)はやはり無表情だったけれど、先程よりもしっかり頷いたのだった。
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・イレヴン、イメージイラスト
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