4-1話 「ネスト」
多目的組織【ネスト】。この組織のメンバー約500人は皆、自分たちの肩書きに違和感を覚えながら生活している。
というのも、ネストは戦争に巻き込まれて身寄りを失くした者が集まるのだが、慈善団体などではない。メンバー一人一人が労働力となって、戦場痕や廃工場でガラクタを漁ったり、別の組織から用心棒の依頼を引き受けたりして、必要な金品を調達する。
難民キャンプ的ではあるが、ジャンク屋でもあり、小規模な傭兵団としての側面もある。今後、別の事業に手を出す可能性もある……だから丁度良い呼称が無く、「多目的組織」と名乗っているのだ。
また、彼らは統一連合とテレストリスどちらの配下でもなく、日々を生きることだけ考えていた。
そんなネストの拠点である廃校跡には、毎日様々な物が運び込まれるのだが、アセラントを持ち込むのはアンリが初めてだった。
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物資搬入係の男衆が粗方その日の仕事を終え、即席ラーメンでささやかな晩餐会を開いているところだった。
「おい、またアンリが変な物拾って来たぞ」
1台のトレーラーを連れた黒いワーカー――パラポネラが帰還したのを見て、3人のうちの1人・ユーハンが言う。
「今度は何だ? 昨日もアセラント用か何かのスナイパーライフル見つけてたよな……ワーカーにゃデカすぎるけど」
「まぁプロエリウスの頭丸々持って来たときと比べりゃ、もう驚かないさ」
あと2人イドとクオンも軽く笑っていたのだが、トレーラーの荷台を見るや否やラーメンのカップを落とし、開いた口が塞がらなくなってしまった。
唯一そうならなかったのは、整備班長のシューベルトだけ。彼はゴワゴワした髭を撫でながら呵々大笑し、コックピットから出て来たアンリに向かって話し掛けた。
「お〜、アンリ! こいつはドえらいな! アセラントか?」
「そうだよ、おじいちゃん! すごいでしょ!」
アンリは満面の笑みでシューベルトに跳びつく。2人に血縁は無いが、本当の祖父と孫娘のように仲が良かった。
それを気おくれした様子で見つめる搬入係の3人。
「アンリ。お前、公園でドングリ拾って来た子供みたいなテンションで……」
「経緯を説明するとね、この機体がついさっきティニア岬基地を潰しちゃったの。で、活動停止してるところを私が保護したわけ」
「「「保護……?」」」
ユーハンたちが怪訝そうに呟くと、アンリはアセラントの方に向かって呼び掛けた。
「は〜い! 出て来て良いよ!」
すると、アセラントの陰から白いパイロットスーツを着込んだ子供が姿を表した。
「ジャジャーン! パイロットのイレヴン君です! あれ? 君、ちゃん? どっち?」
「……アンリ、お前……ついに誘拐にまで手を染めたか」
「違うよ!! 行く当てが無いって言うから連れてきたの! そうだよね?」
アンリに抱き寄せられたイレヴンは静かに頷いた。
シューベルトはイレヴンに握手を求めながら言う。
「その脚……改造人間に会ったのは初めてだが、ここは『ネスト』。儂はどんなヤツでも歓迎するぞ」
「あ、この子喋れないの」
アンリのフォローが挟まりつつ、イレヴンはぎこちない握手をした。
「儂はここの整備班長だ。あの機体を直すことがあったら儂を頼ってくれ!」
ユーハンたちが接し方に困る中、彼は年の功もあって、あっという間にイレヴンとの距離感を縮めた。
赤髪の女がやって来たのは、その直後のこと。
「まさか本体まで拾ってくるとはなぁ……ネストの拠点でアセラントを拝む日が来ると思わなかったよ」
シャルロッテはタバコを咥え、ポケットに手を入れたままイレヴンの機体を見上げた。
彼女の存在に気が付いたユーハンたちは慌てて帽子を取って深くお辞儀する。
「「「お、お疲れ様です! ボス!」」」
ただし、シャルロッテはそちらにはあまり目をやらず、
「ハイ、おつかれ」
とだけ言って、適当にチョコを渡しながら前を通り過ぎて行く。
そして、イレヴンの所まで来ると、カツカツとヒールを鳴らすのを止めた。
「君があの機体のパイロットかい?」
背の高いシャルロッテに対し、イレヴンは上目遣いのまま頷く。ただ、少し怯えているようで、その体をピッタリとアンリにくっ付けていた。
「シャルロッテ、ちょっと怖がっちゃってるみたい」
「おっと、それは悪かったね。これで機嫌を直してもらえると良いんだが」
シャルロッテは髪の間からまたもチョコを取り出した。
金の包み紙が成された円盤型……コインそっくりの物だった。
「よかったね、イレヴン。これレアだよ」
ただし、当のイレヴンはチョコレートもコインも知らないので、手の上で持て余している。
そんな彼を見つめながら、シャルロッテは言った。
「色々訊きたいところだが、もう遅い……取り敢えずイレヴンにも部屋を貸してやろう」
「待って待って! 私と
「あぁ。アンリ、ルームメイト欲しがってたもんな」
常日頃から元気を持て余しているアンリにとって、部屋に一人でいる時間は天敵で、それは皆も理解していた。
「ねぇ、いいでしょ? シャルロッテ?」
「イレヴンがいいなら別にいいぞ」
シャルロッテがそう言うので、アンリがイレヴンの方を見ると、二つ返事のような感じで頷いていた。イレヴンは早くもアンリに懐き始めているらしい。
一方、ユーハンやシューベルトは機体の方にも目を向ける。
「こっちは……ひとまずカバー掛けて倉庫に隠しとくか」
「そうじゃな。ニコルに見つかったらドえらいことになる」
「誰かあたいを呼んだ?」
丸メガネを掛けた、黒ずんだ金髪ショートの女がひょっこり顔を出した。
・後書き――――――――――――――――――――――――――――――――――
搬入係の青年たちの名前に関して
ユーハン→宇航:中国系
イド →이도:韓国系
クオン→Cuong:ベトナム系
シャルロッテ、イメージイラスト
https://kakuyomu.jp/users/yuki0512/news/16818093081585564221
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