第8話 倒せ?!サイボーグ悪役令嬢!!

前回までのあらすじ

 完全体となった私と戦ってみたくはないか?



 何故私の頭部がお空から飛来してきたのか。何故ノーマンがヤ◯チャみたいに地面に転がっているのか。まずはその事について説明しておこう。


 飛ばした腕が自動で戻ってくるのだから気合を入れれば体も自動で戻ってくるだろう、という私の考察は概ね合っていた。確かに自動で戻ってきた事は戻ってきたが、体が頭に戻るのではなく、頭が体に戻ったのだ。つまり、体のある場所まで頭がぶっ飛んだのである。

 まさかこうなるとは思わずに何の脈略もなく急に頭がお空に飛んでいった訳だが、そこんところは流石はノーマンである。空を飛ぶ私の頭にしがみついて一緒に空中に飛び上がったのだ。

 隠れ家の床や天井を粉砕しながら空へ飛び上がる私の顔に最後までしがみついたノーマンの据わった根性には脱帽するばかりだ。しかし最後の落下の衝撃までは耐えきれなかったようで、ノーマンはボロボロになり地面に転がっている。ノーマン。後は任せろ。仇は私が撃つ。


 衝撃的な登場演出にちょん切れた首が生えてきた事実が組み合わさって、誰もが私が魔女であると疑うことがない魔力的魅力を放っているに違いない。実際は魔女でなくサイボーグ悪役令嬢なのだが、どちらも人間をやめたバケモノという点では共通しているので、今は細かい所にとやかく言って雰囲気を台無しにするのは避けたい。

 私は意図せず放つ事に成功した威圧感を利用して、悪役令嬢らしく悪さをしでかす事にした。丁度旅の足が欲しかったところだ。


「馬車を置いて失せなさい。それで特別に命だけは助けてあげるわ」


 ギロリと睨んで、出来るだけ低い声を出す。うーん、悪党っぽい。相手は登場シーンだけで既にビビり散らかしているのでこんな安い演技は追い討ちにもならないが、悪役令嬢らしくって考えてたらそれっぽい振る舞いをしてしまった。場の空気などに流され浮かれて滑稽に踊るのは、私の頭の中にへばりついた前世の悪いところである。


「ふ、ふざけるなっ! 魔女が何だってんだい!」


 安っぽい悪党ぶりで余計にビビらせたのが、彼らに反抗的な態度を取らせるきっかけになってしまった。ローグンとショウトは各々武器を取り出した。

 余計な争いは避けたかったが、こうなったら仕方があるまい。私は悪役だ。悪役同士がぶつかった際は、どちらかが潰れるのがお約束である。


「あれはローグン、ミッド、ショウトの飛矢ひし盗賊団ですな。主に火事場泥棒などを生業にしている大物コソ泥集団です」


 拳を握りしめた私を止めたのは、いきなり起き上がって悪党図鑑めいた事を解説し出したノーマンであった。


「なにそれ、大物コソ泥集団って。原作に出てきたっけ?」

「原作ゲームでは登場しません。スピンオフの小説で登場するキャラクターですな」

「スピンオフ小説……あんたそんなのまで手をつけてたの?」

「なにしろ無職だった時期があるもので。時間だけはあったもので」


 雑談じみた方向へ舵を取り始めた会話を仕切り直すためにノーマンはわざとらしく咳払いをした。「彼らはコソ泥の中のコソ泥ですが、なにしろ顔が広い。今後の為にも利用しない手はないでしょう」

 盗賊というのは盗品を売り捌く為に各地に顔の効く商人がいるらしい。特に飛矢盗賊団は耳ざとさとフットワークの軽さを遺憾なく発揮し、全国各地で窃盗行為に明け暮れているようで、そういったご贔屓の商人が全国各地にいるようだ。彼らが裏の商人に気に入られているのは、殺しは極力行わない弱腰の姿勢が余計な厄介ごとを引き起こしづらいという理由もあるらしい。

 あの馬車の中身もどうせインポリオ家からくすねてきた物だろうから、インポリオ家で唯一の生き残りとなった私にこそ、その所有権はあるとノーマンは主張した。盗賊団ごと貰ってしまえばセイントハーヴスへ忍び込むのも少しは楽になるかもしれないという事だ。

 当面の目標は私に確実に破滅して欲しいと願ってやまないどこぞの何某をぶん殴って明るい未来を勝ち取る事だが、それを達成するにしたって人手もお金も足も幾らあっても困りはしないだろう。全部丸ごと頂こうなんて欲張りな話だが、ハブリーは生来からの欲張り娘である。ならば欲張ってなんの罪があるだろうか。


 私が歩み寄ると、ローグンとショウトは緊張に顔を強張らせて武器を握る手に力を込めた。手は僅かに震えているようだった。

 ノーマンの言った通り彼らは殺生は好まないようだが、このビビりようは少し異常である。私が単純に怖いのか、そもそも人を傷つける事すら忌諱しているのか、どちらにしたってあまり悪さをするのに向いた人たちではないようだ。

 いや、そもそも悪さに向いてる人間ってなんだ。我が家、インポリオ家の人間のことか? だが私自身がそうであったように、おぎゃあっと泣いた時から悪党の人間などこっちの世界にもあっちの世界にも居てたまるものか。何の因果か悪役に身を窶す羽目になっても、みんながみんな好きで悪党気取ってるわけじゃないんだ。事情がある。その事情に目を向ける機会が設けられているならば、悪事を働いただけであらゆる前途がその瞬間に途絶えるなんて、それほど冷酷な事はないだろう。


「やめましょう。お互い、道を外れた者同士。更に他人を道の外に追いやるような事はしなくて良いじゃない」


 最初におっかない事を言ったのは私だから、この発言はかなり都合がいいものだ。でも、飛矢盗賊団は私の言葉を聞いて武器を下ろしてくれた。


「この馬車にはアンタの家から盗んだ物も積まれてる。まさか返してくださいって言うんじゃないよね」


 ローグンの顔色は非常に複雑で、様々な心情が入り混じっているのが見てとれた。その中でも一際比重を多く占めているのは困惑だろう。私の発言の意図がよく分からないでいるのだ。「それはあなた達にあげるわ」と私は言った。「今の私が持ってても、まさに宝の持ち腐れですもの」


「ただ、暫くの間は私たちを仲間に加えて貰えないかしら。行きたい所があるのだけれど、徒歩じゃとても遠くって」


 私の提案にローグンとショウトは顔を見合わせた。その間に言葉はなかったが、どうやら無音の相談は直ぐに終わったようだ。


「一先ず乗りなよ、大悪党のお嬢様。話は道すがらで聞かせてもらう」


 魔女と罵られ、極刑に処されて、何やかんや生き延びた挙句に盗賊団の一員になる。絵に描くよりも驚きに溢れたエキサイティングな転落人生だが、なんだか不思議と悪い気はしない。何故なら私は、サイボーグ悪役令嬢なのだから。……って、それが関係してるかはよく分からないけど、破滅の先に転がってた出会いに浮かれているのかもしれない。

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なぜなら私は、サイボーグ悪役令嬢だから!!〜破滅が運命づけられた悪役令嬢に転生したけど、拳で明るい未来を勝ち取ります!〜 @ookam1

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