第4話 生き残れ!!サイボーグ悪役令嬢!!
前回までのあらすじ
ヨーガを極めても破滅からは逃れられない
私がノーマンの決死戦の陰でヨーガを極めんとしていたせいで、未来が大きく変わってしまったようだ。しかもかなりダメな方向に。
ハブリーは原作では元婚約者である王太子殿下の恩赦により、インポリオ家では唯一極刑を免れて国外追放で済んだ筈だ。そのあと結局死ぬんだけど。
いきなり原作の流れから逸脱してしまった。しかしそうなる心当たりはまるでない。ノーマンの誘いも断ったし、今日まで静かにしていた。まさか本当に私が瞑想していたせいなのか?
いや、待てよ。冷静に考えたら私自体が原作にない埒外の存在ではないか。なんせ転生しただけでは飽き足らず、サイボーグ悪役令嬢なる意味不明のバケモノになっているのだから。こんな有様で原作通りにやれって言うのは流石にわがままがすぎるだろう。
……つまり、こうなったのは私を勝手に改造したノーマンのせい? あのハゲ、やりやがったな。私の自己嫌悪を返せ。
散っていったハゲに責任の所在を求めても、首を刎ねられようとしている窮地を脱する助けにはならない。カッコよくお役目を果たした事に敬意を表して、悪口を言うのは極刑を免れてからにしよう。
「ア、アリウス殿下はなんと仰っているのですか?」
本来ならば私は王室メンバー、その中でもとりわけ王太子であるアリウス殿下のお慈悲により極刑ではなく国外追放で許される筈である。私の首を断頭台に嵌めろという命令が出るという事は、王太子殿下が心変わりした事になる。その理由がなんであるか知ることは、この度の難所を潜り抜ける助けになるだろう。
「ええい! 調子にのるなよ! 貴様はもはやただの罪人だ。軽々しく殿下の名を口にするな!」
ご尤もである。裁判にかけられている時点で婚約破棄されているだろうし、今の私が王族の心情を伺おうとすること自体おこがましい。かと言って私の頼みの綱は殿下のみなのだ。ここはいっちょぎゃーぎゃー騒いで、ご本人様が登場なさるのに賭けるしかないだろう。
「お願いします! どうか殿下を、アリウス殿下とお話を!」
「この無礼者を連れて行け! 牢屋にぶち込んでおけ!」
裁判官を務めた大臣はぴーちゃか喚く私を牢に繋いでおくように命令した。兵士が武器を構えて私を取り囲んだ。
ここでサイボーグ悪役令嬢パワーを遺憾なく発揮して包囲を薙ぎ払う事は可能だが、それではあまりに大事になる。ノーマンはああ言っていたが、私自身は自分が国家に匹敵する武力を持っているとは信じきれていない。ここは素直に捕まっておいて、牢屋からこっそり脱走して国から出る事にしよう。飛ぶ拳を活用すれば古典的牢屋からの脱出は容易いだろう。
「それはならん。その者の首を即刻刎ねよ。その者は恐るべき力を持つ魔女なのだ!」
逃亡者に身を窶す覚悟を決めた私の策略を粉砕したのは、あろう事か頼みの綱であったアリウス殿下だった。まさか頼みの綱で首を絞められるとは思わなくって、私はひどく驚いた。
「今からでありますか?」
「そうだ。父上からも許可は出ている。不服であるなら直接確認するがいい」
「殿下! アリウス殿下! 魔女だなんて、なんでそんな恐ろしいことを!」
処刑の即日決行に疑問を呈した大臣と話しているアリウス殿下に私は声を張り上げて語りかけた。殿下のこちらを見る目は冷ややかで軽蔑に満ちたものであった。
「口を開けるな、悍ましい魔女め! 貴様がハブリーの皮を被ってこの国に災いを齎そうとしているのは分かっているのだぞ!」
魔女だのなんだのは心当たりがないが、ハブリーの皮を被っているというのはかなり図星である。どうやらこれがアリウス殿下の心変わりの理由であるようだが、前世の記憶を取り戻した事により私が往年のハブリーとは別物になってしまったことをアリウス殿下が自力で知る事は不可能だろう。
突然ファンタジー世界の貴族のご令嬢になっちゃった! うわー、この世界の作法とか全然分からないよー! うえーん! と右往左往していたのならば殿下が私が別人になったと怪しむのも百歩譲ってあり得ることだろう。だが、私にはハブリーの記憶がある。彼女が生涯かけて頑張って身につけてきた作法や渡世術は私の経験でもあるのだ。幾ら精神の大半が現代社会にすり潰されかけていたOLであっても、ハブリーの記憶を使いそれらしく振る舞うことぐらいは可能である。てか、そもそも今日に至るまでに私は殿下と一度もお会いしてはいない。バレる機会すらなかったのだ。
じゃあなんで殿下は私の中身について疑ってらっしゃるのか。それはもう、誰かが殿下に告げ口したと考えるのが妥当である。そして告げ口した人物が誰であるかは考える必要もない。
ノーマンめ、課せられた役割に準じるサラリーマンの鑑と思っていたが、土壇場で命惜しさに私を売ったか! おのれ、許せん!
身に余るほどの怒りを噴出して、みだりに腕を飛ばしてこの場にいる連中をコテンパンにしてやってもいいが、それではアリウス殿下も巻き込みかねない。ノーマンの密告により殿下は一時的な敵対をしているだけだ。ここで一発でも小突いたら、ごめんなさいで仲直りできなくなってしまう。一先ずは我慢するしかあるまい。
私は抜け出すチャンスを虎視眈々と待ったが、なんと私の護送にアリウス殿下まで着いてきたのだ。なんでも「この魔女の首が刎ねられる所を見ておかねば安心できない」との事だった。ノーマンの野郎はどこまで私の事を悪く吹聴したのだ。
結局私は国で最も広い広場に設けられた特設死刑会場まで連れて来られてしまった。会場には乙女ゲーの世界観にあるまじきthe・処刑人みたいな格好の大男が、これまた大きな斧を持って待機していた。私の死刑については急遽決まったことであるはずなのに、日々のストレス解消の為に他人の首が飛ぶ所を一目見ようと集まった見物客で溢れかえっている。全くコイツらは、他にやることないのか。暇人どもめ。
アリウス殿下を巻き込みかねないが、暴れるならもう今しかない。私の中のハブリーの部分が嫌がっても、千恵美の部分が生き残りたいと駄々をこねている。一対一の同票だが、私の心会議は民主主義ではない。
いよいよ暴力も辞さない心構えであったが、私をおっかない処刑人の前に跪かせようとした兵士が耳打ちをしてきた事により、一瞬芽生えた戦意と一緒にその場にがくっと膝をついてしまった。
――そうか、そういう事だったのか。
そう思った時には私の首をギロチンの刃みたいにデッカい斧が両断した。
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