第2話 受け入れろ!!サイボーグ悪役令嬢!!
前回までのあらすじ
なんかアホの手により、サイボーグ悪役令嬢とかいうバカみたいなものに改造された
屋敷の壁を粉砕してどっこへ飛んで行った私の右手は、暫くすると全自動で手首の下まで戻ってきた。実に素晴らしいハイテクっぷりだが、こんな最先端技術が右手に仕込まれても持て余すだけである。
「ノーマン、これはどういう事なの?」
私の問いかけにノーマンは何度も同じ事を聞くなといった表情をする。「ですから改造したのです。サイボーグに」
ですからってなんだ。いきなりサイボーグとか改造とか、世界観無視の訳わからん単語が飛び出して、はいそうですかって素直に受け入れられるわけがないだろうが。そのトンチンカンな単語が飛び出した理由を教えろと言ってるんだ。
私は進展を見せないやり取りに頭痛を感じながらも、冷静を保つことに努めた。このボケジジイを粉々にするのは、話を聞いた後だ。
「改造ってなによ、人間を改造できる技術なんてこの世界にはないでしょ……」
「それがあるんですな。神から与えられしスキルが」
トレードマークの片眼鏡と見事に禿げ上がった頭部をキランと輝かせながら、ノーマンはカッコつけて世迷言を宣った。
いい歳こいて神だのスキルだの、実に恥ずかしい男である。まあ、こんな摩訶不思議な世界ではそういう事を言いたくなる気持ちもわかるが、私の反感を買って土手っ腹に飛ぶ拳を受けないように奴は心掛けて慎重に言葉を選ぶべきだ。
私が怪訝な表情でうわ言を吐く厨二ジジイを見ていると、向こうは向こうで可哀想な者でも見るかのような表情でこちらを見てくる。「まさか、記憶が戻ってないのですか?」
「記憶なら戻ってるわ。前世の記憶でしょ」
「ならば神やスキルの事もご存知のはず……」
「そんなバカなものは知りません。まあ、転生ものでは付きものかもしれないけど」
私の言葉にノーマンはとうとう絶句してしまった。小さなビー玉みたいな目を精いっぱいに見開いて、額に脂汗を浮かべる露骨な狼狽えっぷりには、もしや変な事でも言ったか? と、自分を疑ってしまいそうになる迫真めいたものが宿っている。
「えっと、私には神とかスキルとかサッパリなんだけど……えっ? ノーマンは会ったの? 神様とかに?」
「ええ、会いましたとも。その時にスキルも授かりました。ハブリー様はそうではないと?」
「うん。そんな記憶ないし、気づいた時には転生していたもの」
ノーマンは禿頭をペチペチ叩きながら、どうするべきか考思しているようだった。口を挟むのは簡単だが、一先ずはこのハゲの好きにさせてやろう。令嬢らしい寛容さが私の中にあった事を存分に感謝なさい、ノーマン。
暫しの間、木魚ごっこを楽しんでいたノーマンがふぅーと息を吐いた。「では、スキルや神については後々話す事にしましょう」
「それよりも今は貴方様、そしてインポリオ家に訪れようとしている破滅を回避する事を優先いたしましょう」
明日にはインポリオ家の悪事大暴露大会が始まってしまう。そうなれば私も当然破滅は免れない。ノーマンだって主人公達と戦い、死亡する事になる。
私としても絶対に回避したい事態であるが、今からどうにか出来る方法などあるのか?
「そんなことが今更可能なのかしら」
「ええ、出来ますとも。その為にハブリー様を無許可でサイボーグ悪役令嬢に改造したのですから。今のハブリー様なら、この国の兵力全てを相手にしても容易に勝つことができます。つまり、正真正銘の国家転覆を行うことができるのです」
腕が飛ぶだけの悪役令嬢にそれほどのパワーが秘められているとは思えないが、ノーマンは本気で国家転覆を行えると信じているようだ。
インポリオ家は国宝の横領から晩御飯の摘み食いまで、大小様々な悪事に手を染めてきた。それだけでも処刑台に首を突っ込むには十分なのだが、あろうことか悪事の傍で外国の間者を手引きして、侵略戦争のどさくさで美味い汁を啜ろうと企てていたと言う。なんとも度し難い由緒正しき悪党一族である。
ノーマン曰く、私を筆頭にして兵をあげて謀叛を起こせば必ずや間者たちが動き出して各国が侵略を開始し、内外から突っつかれたこの国は対処しきれずに瓦解するとのこと。国が滅びれば我々の悪事を裁く者もいなくなる。その後は王家の首を手柄にどこそこの国へ亡命すれば、インポリオ家は安泰という作戦だ。
私はノーマンの奸計を聞いて決心がついた。「インポリオ家は救わないわ」
「な、何故ですか?! 前世の記憶が戻っても貴方はハブリー様でおられますぞ!? お母様やお父様が、いや、ご自身の身すらどうなっても良いと言うのですか!」
「お母様もお父様も、そしてこの私も悪い事には違いないでしょう。悪いならお仕置きを食らって然るべきだわ。それに何より……」
ノーマンの作戦は周囲の被害についてあまりにも無頓着だ。悪事を帳消しにする為に悪事を働いていたら、いつまで経っても裁かれる恐怖からは解放されることはない。悪事を犯したのであれば、キッチリと裁きを受けるべきなのだ。それからやり直す道を探すのが、人道というものである。
「そんなに強くなったのなら、私一人でもこの先生きていけますもの!」
というのは建前で、国外追放された後に野党共に負けないほどのパワーがあれば、私だけは無事に生き延びられるのだ。わざわざ国一つを滅ぼすような面倒な事をする必要もない。
然るべき裁きを受けた後に私だけは生き残る! そして人生をやり直す! 何故なら私は、サイボーグ悪役令嬢なのだから!!
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