第2話 「女装からはじまる青春ライフ」
6時間目の授業が終わって帰り支度に取りかかる。今日はとくに用事もないし、部活にも所属していない──浪澪を巡った部活間抗争が勃発したことがあり、その争いを鎮めるために浪澪はどの部にも所属しないことにした──ので寄り道せずに帰宅する。
「用事がありますので、先にお帰りください」
校門を出て間もなく、珠璃がそう言った。
浪澪を一人にするなんて珍しいこともあるものだ。
「護身用のスタンガンです。念のために携帯してください」
が、やはり心配ではあるらしくスタンガンを持たされた。珠璃の用事が済むまで待ってもよかったのだが、帰るよう強く念を押されたので、仕方なく帰路につく。だけどやっぱり気になって学校へ引き返すことにした。どうも今朝から珠璃の様子がおかしいように思えたのだ。なんとなく切羽詰まっているような、張り詰めているような、そんな気がする。
(思い過ごしならいいんだけど)
姉の姿を求めて校内を散策する。だけどどこにも見当たらない。そばを通り掛かったクラスメイトに行方を尋ねてみると、なぜか彼女は躊躇いがちに「あそこにいるかも……」と、ある場所を指さした。その先にあったのは女子便所。どおりで見つからないはずだ。
『今朝のなに? ちょっとスキンシップしただけだよね。……肩、まだ痛むんですけど。ねえ?』
女子トイレから生徒の声が聞こえた。
声の主はおそらく本間清美。機嫌が悪いのか刺々しい口調。
物音から察するに、他にも誰かいるみたいだ。
気になって、少しだけ中を覗いてみることにした。
『清美に謝りなよ、逢坂。ほら、早く』
『……申し訳ありませんでした』
『声が小さいっての』
クラスメイトの女子数人が見下すように珠璃を取り囲んでいる。そのうちの一人が、バケツに入った水を珠璃の頭にかぶせた。丁寧に編み込まれた金髪が汚水に濡れる。常にクールを装っている珠璃もさすがに堪えたのか口元を歪ませる。
『浪澪の姉だからって調子に乗らないで』
珠璃は黙っている。
『話しかけてもいっつも無視するし、この前なんか、せっかく遊びに誘ってやってたのに断るしさ。ホントはウチらのこと馬鹿にしてんでしょ? ねえ? そうなんでしょ?』
静かに首を振る珠璃。
黙ってないで何か喋りなよ、と苛立ちまじりに一人が呟く。
『言っとくけど、逢坂嫌ってんの私らだけじゃないからね。全校生徒みーんな、あんたのこと邪魔者だって思ってる。いつも浪澪にくっついてさ、目障りなんだよね』
珠璃は一言も喋らない。
『ブラコンきもいんだよ』
否定しろよそこは。
『っていうか、浪澪も浪澪だよね。ずっと姉とばっか喋ってるし。もしかしてシスコン?』
『なんか見てて痛々しいよね。ちょっと引くかも』
『……浪澪様を、
珠璃は右脚を後ろに引き、拳を構えた。
自分が悪口を言われるのはいい。だけど自慢の弟を馬鹿にされるのは我慢ならなかった。
『は、はあ? そもそもアンタが浪澪にまとわりついてるのが悪いんでしょ』
『殴るの? べつにいいよ。やってみれば? そんときは浪澪に言うから。あんたにやられたってね』
『暴力は……ふるいません。乱暴するなと言われましたので』
それで反撃はないと確信した清美は、珠璃のそばに歩み寄るとその濡れた顔をハンカチで拭った。滑らかな絹に刺繍飾りを施したそのハンカチは高級感を漂わせており、大企業──宝仙コンツェルンのロゴが小さく刻まれている。それは宝仙孝蔵(ほうせんこうぞう)の血を分けた数百人の子供、その中の一人であるという証拠品。
『……ねえ、逢坂』
珠璃の頬を優しくなでる。
『私はね、欲しい物のためなら手段を選ばない人間なの。私のママもそう。上級貴族であるお父様の遺伝子を手に入れるためになんでもやったって自慢気に語ってた。……私は、浪澪のことが欲しい。財力、地位、生徒、教員、利用できるものなんでも使って、絶対に手に入れてやる。誰にも邪魔させたりしないんだから』
それは宣告だった。お前の弟をものにしてやるという、恐らく珠璃にとって最悪の脅し文句。ほどなくして、珠璃は拳を下ろすと両膝をつき、床に頭を擦りつけた。何やってんだよ珠璃姉。やめろよ。どういうつもりだよ。
『それだけはやめてください。お願いします。浪澪様はただ、この学校で、普通の青春を送りたいだけなのです。そっとしてあげてください。せめて卒業まではどうか。後生です。お願いします』
必死に懇願する珠璃。あんな姿は初めて見た。
こんなん見せられて黙ってられるかっての……。
だけど、一時の感情に任せて突入するわけにはいかない、と言い聞かせる。珠璃のことだ。守るべき弟に助けられた自分自身をきっと不甲斐なく思うだろう。ここで助けに入ってしまえば、珠璃の侍衛官としての誇りと、姉としての威厳を深く傷つけてしまうことになる。
(オレは……)
そのとき自分の中で何かが壊れる音がした。それはきっと心の大事な部分とかじゃなくて、自分を縛り付けていた鎖か何かのように思えた。
***
「決めたよ」
暖かな日中とは裏腹に、まだ寒さが厳しい春の夜。珠璃がつくったカレーライスを平らげると、浪澪は決意を口にした。もう迷いはない。これが最良の選択だという確信をもって告げる。
「東京に、聖架堂学園に行く」
「……本当にいいのですか?」
「やり直すには、もうそれしかないからな」
「やり直す?」
「青春をだ」
珠璃は何か言いたげな顔をしていたが、浪澪は続けた。
「だけどその前にやることがある。オレ一人じゃできないから、珠璃姉の手を借りたいんだ」
「承知しました。私は何をすればよろしいですか」
「まず手始めに、オレを女にしてほしいんだ」
「……? そういうプレイがお望みなのですか?」
「違う」
そういえば他に言っておくべきことがあることを思い出す。「あともう一つ言っておきたいことあるんだけど」浪澪は席を立ち、珠璃の前で深々と頭を下げた。自分が至らないばかりに、姉にとんだ迷惑をかけてしまった。
「なんていうかその……ごめん。いろいろ迷惑かけて」
「えっ?」
「いつもありがとな」
ここぞとばかりに日頃の感謝も伝える。振り返ってみると、自分は珠璃に縋ってばかりいた。そしてようやく自覚したこの感謝の気持ち。ちゃんと言葉にして伝えるべきだと思った。
「いえ、べつに私は何も……」
顔を赤くする珠璃。平静を装っているが動揺しているのが見て取れる
「姉ちゃん」
浪澪は、そんな姉が愛おしくてたまらなくなって、こんな姉を傷つけてしまったこと自分のことが情けなくなって、その華奢な身体を力いっぱい抱き締める。泣きたくないのに涙まで溢れてくる。「まるで、昔に戻ったみたいですね」珠璃はそんな自分の背中を、赤ん坊をあやすように優しくさすった。
***
「オレ、学校やめるから!」
全校生徒が集まる体育館の舞台上で、スポットライトに照らされた逢坂浪澪は宣言した。
「みんなの期待に応えられなくてゴメンな。無責任なこと言ってんのは分かってる……でも決めちゃったもんはしょうがないんだ。だから許してくれとしか言えない」
懐からバリカンを取り出すと、すかさず自らの金髪を剃り落としていく。生徒たちは驚きのあまり声も出ず、事の成り行きを黙って見ていた。髪をすべて剃り落とし丸刈りになる浪澪。自慢だった艶のある金髪が床に散らばっている。
「……これは俺なりの、せめてものケジメっつーことで」
丸坊主頭を深々と下げて謝罪する。ほどなくして状況を呑み込んだ生徒たちが次々に反応を示す。
「うそでしょ……浪澪……なんで……」
「○!※□◇#△〜!」
「うっ…ひっぐ……おぇっ……」
退学を受け入れられず不平を鳴らすもの。言葉にならない叫びを上げるもの。嗚咽混じりに泣くもの。体育館の中で様々な感情が入り乱れる。その様子を気の毒に思った浪澪は。
「だけど、後味悪いよな、このまま退学ってのも。納得してない人も多いみたいだし。そこでオレから一つ提案があるんだけど……聞いてくれるか?」
ざわめきが止む。浪澪の声を拾おうとみんな真剣になる。
「みんなで鬼ごっこやろうぜ!」
体育館に残響がこだまする。浪澪の発言に虚を突かれ、生徒たちは声を上げることができない。浪澪は時折思い切った言動をする。それを知らない生徒たちではなかったが、さすがにこれは意味不明。なんで鬼ごっこ?
「オレ以外みんな鬼で、オレ逃げ役な。ステージはこの学校全域。制限時間は三時間。時間内にオレのこと捕まえられたらみんなの勝ちってことで、退学宣言は取り消す!」
ただし、と浪澪が続ける。
「ハンデとして、オレが学校の正門から外に出たら制限時間とか関係なくその時点でオレの勝ちな。あ、もちろん制限時間を最後まで逃げ切ってもオレの勝ちね? そんでこっちが勝ったら、オレのことは綺麗さっぱり忘れてほしい。……とまあ、ルールはざっとこんな感じかな。どう? やる?」
自分が捕まったら退学を取り消すと言った。彼はたしかにそう言った。いくらスポーツ万能な浪澪といえど二百人以上の追手から逃げ切れるはずがない。それも三時間ずっと。そんなの不可能だ。校門を死守すれば逆転の芽も潰える。勝率はこちらが圧倒的。であればこの勝負、受けない理由はない。
「そんなのやるっきゃないじゃん!」
「浪澪が残ってくれるなら、ウチなんでもやるし!」
「誰かテーザー銃とか持ってない?」
「ネットランチャーならあるけど」
勝利を確信した生徒たちの目に闘志の炎が宿る。
戦いの熱に沸き立つ体育館。自らに注がれる灼熱の視線に、浪澪は得意げな笑みで応えた。そして全校生徒を巻き込んだ大鬼ごっこが幕を開ける。
鬼ごっこ開始直後、浪澪は真っ先に職員トイレへと駆け込む。最奥の個室の扉を開けると、そこには珠璃の姿があった。普段のメイド装束とは異なり、制服のブレザーを着用している。ミニスカートから伸びる生脚がまぶしい。
「……髪、剃る必要ありました?」
浪澪のしなやかで美しかったあの金髪が今や青々とした丸刈りである。ぶっちゃけ勢いで剃ってしまった感は否めないが気にしていても仕方ない。それに髪なんていくらでも生える。……生えてくるよな?
「髪短いほうがウィッグかぶりやすいだろ」
「なるほど。では私も」
「いや、やめとけって。髪は女の命なんだろ?」
ていうか、と浪澪は姉の制服姿に好奇の目を向ける。
「制服着てんの久しぶりに見た。なんか新鮮」
「……下が涼しくて落ち着きません」
「でも、めっちゃ似合ってるっすよ」
「そういうことを軽々しく言わないでください。普通の人なら勘違いしますよ」
「なんかすみません」
「だから褒めるのは私だけにしてください」
「なんでそうなんの」
ではそろそろ着替えましょうか、と珠璃が言った。時間が経てばいづれこの職員トイレにも追っ手が侵入してくる。悠長に会話している時間などないのだ。
「……珠璃姉の服、サイズ合うかな」
「コルセットを装着すれば問題ありません。あとは胸パッドを入れれば」
「それ絶対に付けなきゃダメなやつ?」
「ダメなやつです。あと、コレも」
珠璃が紙袋から取り出したのは女性用の下着。
水色のストライプ模様である。これを履けというのか。
「……パンツとか誰も見ないだろ」
「見ます、というか、見えてしまいます。スカートはしょせん一枚の薄い布切れに過ぎません。風などの環境的な要因はもちろんのこと、普段行っている日常的な動作で見えることがあります。いくら気を配ろうと、それを完璧に阻止することは困難です」
「『見えてしまう』のは分かったけど『見ます』ってなんだよ。誰が見るんだよ」
「私が、見ます、という意味です」
「見んなよ」
「……あとその包帯みたいなやつはなに?」
「さらし。正確には晒し木綿ですね」
「これ使って何すんの?」
「押さえつけるんですよ」
「何を」
「乙女の口から言わせる気ですか」
「……ああ、うん、今の反応で大体察したわ」
「ちなみにこれでチ〇コを押し潰すわけですが……」
「乙女じゃねぇのかよ。恥じらいはどこ行った」
「もう時間もありませんし、早く脱いでください。さらし巻きますから」
「……デリケートな部分だし自分でやるよ。つか、やらせてくれ」
「問題ありません。任せてください。玉の扱いなら慣れています。サッカーとか得意です」
「それ関係ねーだろ。てか蹴り主体の球技じゃんそれ。蹴り潰す気かオレのボール」
そんなくだらないやり取りを挟みつつ──数分後。
個室トイレの扉を開け、外へ出ると、浪澪は洗面鏡の前に立った。
鏡に映るのは、前髪を七三に分けたブロンドヘアーが似合う長身の美少女。腰まで伸びた長髪が、窓の隙間から入り込んだ陽光できらきらと輝いている。
(なんか、実感湧かないな……すごすぎて……)
鏡に映る少女──いや少年の名前は逢坂浪澪。珠璃の施したコーディネートとメイクアップにより美少女として生まれ変わった姿である。
「お似合いですよ」
「お、おう、ありがとな。珠璃もすごいぞ。オレにそっくりだ」
「ありがとうございます。ですがやはり、実物と比べると若干見劣りしますね」
「そりゃオレの方がカッコいいからな」
そして珠璃はというと男装により、浪澪と瓜二つの少年に変身を遂げていた。身長に関してはどうしても浪澪のほうが高いが、そこはシークレットシューズにより補正。一見した程度ではまず見破れないだろう。
「それでは作戦通り、私は陽動へ出向きます。浪澪様は適当なタイミングでここを出てください」
「了解。……面倒な役を押しつけてゴメンな」
「いえ、べつに構いませんよ。それに私……」
「?」
「今ちょっとワクワクしてます」
珠璃が職員トイレを抜けてから間もなく、廊下側から女子生徒たちの叫び声と、地を鳴らすような大きな足音が聞こえてきた。男装した珠璃を浪澪だと誤認し、一斉に追いかけているようだ。喧騒が遠ざかったところで浪澪は職員トイレを出た。周辺を見回す。人の気配はない。
(ああ、もう、さっきから頭がおかしくなりそうだ……)
太ももを撫でる風が妙にくすぐったい。足元がスースーして心もとない。まるで弱点を丸出しにしているような、そんな心細さも感じる。隙間風が頬をくすぐるたびにスカートがめくれないか心配になる。
そしてこの感覚はなんだろう。さっきから胸の動悸が収まらないし、沸騰したみたいに顔が火照っている。こんな姿を誰かに見られたら自分はどうなってしまうんだ……。
(……!)
廊下の先から一人の生徒がやってくる。
昨日の奉仕係を担当した新入生の小泉だ。
彼女がこちらに気づく前に、この場を立ち去ろうかと思ったが、目的達成のために今は進むしかないのだと気持ちを改める。心の中で『アタシは世界で一番可愛い女の子なんだ』と念じて自らを奮い立たせる。浪澪は覚悟を決めた。
(私は可愛い……私は可愛い……私は可愛い……)
すれ違うとき、目が合った。
「わあっ……」と感嘆の声を漏らす小泉。
喰いつくように浪澪の顔を凝視している。
もしかしてバレたのか?
「ナニカシラ?」喉を締めて高音を絞り出す。
女声はまだ上手に出せない。もっと練習が必要だ。
「わっ、ごめんなさい、綺麗だったので、つい……」
綺麗? それは誰のことを言っているのか? まさか、オレか?
他に言う相手もいないし、きっとそうに違いないのだけれど……。
なんだか釈然としない。改めて綺麗だなんて言われると……。
自分は男なのに。本当は女の子じゃないのに。
だけど不思議と悪い気はしない。いや、むしろ……。
「ありがと」リップ塗った唇で艶やかな弧を描く。「超うれしい」
すると小泉の顔はみるみる赤くなり、「ししし、失礼しました!」と礼儀正しく一礼してから走り去っていた。女装は見破られなかったようだが、あの挙動不審な態度はなんだったんだろうと浪澪は首を傾げる。……なにはともあれ、テストはこれで合格だ。
全校生徒を巻き込んで開催したこの鬼ごっこは、単なるレクリエーションではなく、浪澪の女装が通用するかを確かめるテストランニングであった。先ほどの小泉の反応から、女装の仕上がりに問題ないことが証明された。これで、聖架堂学園に女子生徒として偽って入学することができる。そこで友達をつくり、普通の学園生活を送ることも夢じゃない。
(後は、学校から出て行くだけだ)
校門前には、本間清美とその取り巻きが待ち受けていた。他の生徒は、浪澪に扮した珠璃を追いかけて校内を駆け回っている最中。清美たちはそこから一歩も動こうとはしない。ならば仕方ない──ここは正面突破だ。
「……逢、坂? どしたのその格好」
校門を通り抜けようとしたところ、清美に呼び止められた。『逢坂』と名字で呼んだことから姉の珠璃と勘違いしたらしい。また普段と違う珠璃──本当は浪澪だけど──の装いに困惑の色を浮かべている。
「制服着てんじゃん。ウケる。しかも化粧してるし」
「てかそんなに背高かったっけ?」
「成長期なんでしょ」
どう取り繕っても身長ばかりは誤魔化せない。
浪澪の身長が178cmであるのに対して、珠璃は170cm。
10cm弱の差がある。そこを追及されると厄介だ。
気づかれる前に、浪澪は校門を抜けようと試みる。
「あれ? 帰るんだ?」と清美が言った。
「てっきり何か邪魔してくるかと思ってたんだけど……まあ、いっか。帰るならさっさと帰れば?」
浪澪は静かに校門を抜けて、そして振り返る。
清美が口に手を当てながら笑っている。
「これで浪澪は私のものに……」
「誰のものにもなんないっつーの」
「えっ?」
可憐な外見と似つかわしくない低い声に、清美とそのグループメンバーは目を瞬かせる。
「──あたしのこと、忘れたとは言わせないよ」
左手を腰に当て、右手の指で正面を指す。すっかり呆気にとらわれる彼女たちに向けて、浪澪は腹からこみ上げてくる解放感、羞恥心、その他さまざまな感情を、その口先に乗せる。
「もしかして覚えてないの? じゃあ、改めて自己紹介したげる。あたしの名前は逢坂浪澪。菊月高校2年3組元所属の、元学園のアイドル。そして──お姉ちゃん大好きの生粋のシスコン野郎よ!」
「はあ? ちょ、ちょっと、待って、一体どゆこと? えっ、浪澪なの?」
「だからそう言ってんじゃん!」
「ああ待って!」
清美たちの制止を振り切り、浪澪は校舎を背に走り出した。
今までありがとう。ご迷惑おかけしました。菊月高校を横目に浪澪はそう呟く。そして校舎の前の桜並木を全力で駆け抜ける。春風が頬をやさしく撫で、プリーツスカートをめくれあがらせる。露わになる水色ストライプの下着。浪澪は気づかず走りつづける。新たな青春を求めて、ただひたすら真っすぐに。
こうして菊月高校創立以来の大イベントはひっそりと幕を閉じたのだった。
ロミオのスカートをめくらないで かにぃ=しょーん(3代目) @pacopaco8585
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