十二番星 それぞれの思い
十二番星 それぞれの思い①
「……うわあ! これ全部、レイトさんが作ったんですか!?」
「ええ、出前の寿司以外は。足らなかったら、
おばあちゃんに借りてたエプロンを
そして、わたしたちが座って囲んでいる食卓の上に、お寿司を始めとしたごちそうがずらっと並べられる。
まず、イクラやサーモンの乗ったカナッペにシーザーサラダ、コンソメスープ、ローストビーフなど。他にもエビや野菜の天ぷら、ギョウザにボンゴレのパスタなどなど。
レイトさんいわく、冷蔵庫にはデザートも冷やしてあるらしい。
たった一人でこんなに……本当に、何でも出来る人なんだなあ。
感心していると、パパが手を振った。
「いやいや、充分過ぎるよ! もうすぐ帰って来る燈子さんを含めても、僕らは七人。多すぎるような……」
「それに俺らは、年寄りだしなあ。食べきれず、残したら申し訳ない」
「そうですねえ。第一レイトくんったら、手伝うって言っても殿下がお世話になった方のお手を
おじいちゃんとおばあちゃんが、口々に言う。
わたしも手伝いを申し出たけど、同じことを言われてしまった。
地球の方のお口に合うかお味見を、と言われて、ちょっとだけ料理は食べさせてもらったけど……何でも出来るというレイトさんが作っただけあって、文句のつけようもない味だった。
そのとき、寝ていたイルが客間のふすまを開けて、わたしたちのいる居間に入って来た。
「心配
「尽力致します。殿下」
いつの間にか、レイトさんは料理中は脱いでたスーツの上着とネクタイをきっちり着込み、いつものようにお腹に手を当て、深々とおじきした。
「はあ……本当に王子様なんだね、君は」
パパが感心した様子で呟く。
イルの正体とか、レイトさんやディーさんのことなどは、帰りの車の中でイルが簡単に説明してくれた。
パパは最初驚いていたけど、今の言葉からして色々納得はしてくれたんだろう。
そしてイルは
きちんと正座で座るイルの服の
「ねえ、イル。
琥珀と天文研究所まで走ってきたのは、さすがに疲れたらしい。帰りの車の中は、運転主であるパパは色々質問してくるし、車酔いはあるし、ケージを置いてきたせいでイルに飛びつき放題の琥珀の相手をしなきゃだしで、寝るどころじゃなかったみたいだし。そのときには何とか、パパの質問に答えていたけど……おじいちゃん家に着いたら、少し休むと言って夕方──つまり今の今まで、客間で横になってた。
でも今は、顔色も悪くないみたい。色は白いけど、それは元々なんだろうし。
「ああ。すっかり回復した。車
「良かった。ご飯も食べられるっていうなら、いっぱい食べて元気出してね? イル!」
イルが元気になったのが嬉しくて、思わずその手を取る。
するとイルは赤くなって、
……何か、悪いことしたかな?
そんなことを考えていると外から、琥珀が嬉しそうに鳴く声と、聞き慣れた車のエンジンの音が聞こえて来た。
「ママだ!」
急いで外に出て、
すると、ママはちょうど、車から下りてきたところだった。
「月花。……色々、大変だったわね」
「そんなことないよ。ママこそ、
「ええ。みんな連日の夜勤で疲れて居眠りしてしまったんだろうってことで、落ち着いたわ。月花たちこそ、大丈夫? イルくんのこととか……説明が大変だったんじゃないの?」
「うん……ある程度はイルがしてくれたけど、まだまだ説明し足らないことはあるかな。でもママが帰って来て、ご飯を食べながら話そうってことになったの。イルも疲れて寝ていたし。あ、そうだ! あのねママ、レイトさんの作ってくれたご飯がね──」
言いかけたわたしの口を
「月花。色々と黙ってたり、怖い目に
ママの体が少し震えていた。それでやっと、わたしにもわかった。
ママが精一杯頑張って、わたしに色んなことを任せてくれていたことに。
わたしがディーさんに突き飛ばされたときなんか、ホントはすぐに飛び出したかったのかも知れない。
……でも。
わたしもママの背中に手を回し、
「でも……わたしを信じて、任せてくれたんでしょ? ありがとう、ママ。それと──」
顔を上げると、ママと目が合った。ママは不安そうな顔をしている。
そのママを安心させるように、わたしは一番伝えたかったことを口にした。
「──お帰りなさい! ママ!」
「……ええ」
わたしの言葉に、ママの不安そうな表情が晴れ……にっこり笑って、言ってくれた。
「ええ。ただいま。──ただいま、月花……!」
「え? じゃあおじいちゃんたちも、イルのお母さんのことを知っていたの?」
あれだけあった出前のお寿司と、レイトさんの料理がほとんど片づいたころ。
おじいちゃんとおばあちゃんが言った言葉に、わたしは驚いた。
アルズ=アルムのことや、イルたちのことなどは、食事中もイルやレイトさんが色々説明してくれた。
おじいちゃんたちは、あまり質問せずに聞いていたけど……説明が終わったころ、ぽつりとそんなことを口にした。
「ああ。レイ……何だったかな。とにかく燈子が連れて来たその子と、兄だと名乗った男は、しばらくウチに泊まったんだよ。もう、だいぶ前……燈子が十三のときだったから、二十五年も前のことだが」
「レィアちゃんと、ヴェルくんですよ。あなた」
「ああ、そんな名前だったか。しかしよく覚えてるな、母さんは」
「
そういえば……ママは昔、学校で友達と上手く付き合えなくてゲームばかりしていたときがあったと聞いたことがある。
ある人と友達になって、外にも目を向けるようになったってことも。
それがイルのお母さんなんだ。
でも、ヴェルって誰だろう。小声でイルに聞いてみる。
「ヴェルはヴェルヒゥン、レイトたちの義父のことだ。従者だと明かせば、母上が庶民でないことも明かさねばならんからの。そう言って、ごまかしたのであろう」
イルも小声で答えてくれた。
そっか。儀式には、従者さんを一人は連れて来れるんだっけ。
レイトさんのお家は代々王家に仕えてるって言っていたし……イルのお母さんの従者さんは、レイトさんたちのお父さんだったんだ。
……でも、義父ってなんだろう。
「ああ! やっぱり、ご兄妹ではなかったのね」
わたしたちの会話を聞きつけたのか、おばあちゃんは
「やっぱりとは……どういう意味ですか? ツキハの御祖母様」
「そうね……二人の間にある空気感、っていうのかしら。それが兄妹のものとは、とても思えなかったのよ。あれは兄妹っていうより、何ていうか……」
「お話中、失礼。料理の追加は、いかがされますか?」
レイトさんが、おばあちゃんとイルの話に割って入った。
何だろう。レイトさんがイルと、イルが敬意を払っている人との間に入るなんてらしくないような。
いや、らしいかどうか判断出来るほど、わたしはレイトさんのことを知らないけど。
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