三番星 本当の冒険の始まり⑥

 ──その瞬間。


 エィラが、強く光り出した! 

 さっき、イル王子がエィラに力を貸せって言った、そのときくらい……ううん。もっと、ずっと強く!!

 その光に交じって、きらきらした粒みたいなのが、かちっ、と一瞬またたいた。

 まるで、流れ星みたいに。 


「……これって、イル王子の……?」

『そうです。あの子のエィラよりこぼれ落ちた力があなたのエィラに移った。だからこうして、私と交信が出来るようになったのです』


「え?」

 わたしはきょろきょろと、周りを見渡した。

 イル王子はずっと上空に行ったのか、姿は見えない。

 もちろん、他には誰もいない。

 琥珀の他には。


「……琥珀。何か言った?」

 きゅうん? と首を傾げる琥珀。

『コハクという子ではありません。私はここ。あなたが握りしめているではありませんか』

 わたしが……握りしめて? 

 その言葉に、ブレスレットを握った手をそっと開くと……聞こえる声が、大きくなった。


『初めまして、ですね』

「え、エィラ? しゃべった⁉」

 琥珀のしっぽが、ぶわっとふくらむ。ものすごく驚いている。

 いや、わたしもだけど!


『はい。正確にはエィラではありませんが』

「じゃ、じゃあ。誰?」

『アルズ=アルムの者です。私はそこより、あなたに呼びかけております』

 女の子の声。その声は、わたしと同い年くらいに聞こえる。

 だけど、その口調は落ち着いていて、そのおかげでわたしも落ち着きを取り戻してきた。


「よくわかんないけど……初めまして。待夜月花です」

『私のことは、カァとお呼び下さい』

「カァ?」

「略名です。真の名を申せず、非礼をおび致します」

 略名、って……イル王子と同じ?


「ねえカァ、あなたも」

 イル王子と同じ立場なの、と聞こうとしたとき。

 視界のはしに映る空の光、ヴァリマが動いた!


「カァ! ヴァリマが!!」

『ええ。話は後です。あの子の壊れたエィラでは、自在に動き回れないでしょう』

「どうすればいいの? どうやったら、イル王子を助けられるの!?」

『助けたいですか?』

 助けたいかって……そんなの!


「当たり前だよ!!」

『あそこまで行けば、ヴァリマはあなたに引きつけられるでしょう。今はあの子のものより、あなたのエィラのほうが力を持っていますから。磁力のように、ヴァリマはより強い力に引き寄せられるのです。でも』

 硬い声で、カァが断言する。

「一つ間違えれば、あなたが死ぬかも知れません」

 

 死ぬ。

 そんな。

 そんなの──。


「いやだよ!」

『なら、あの子のことは』

「イル王子が死ぬのもイヤ! わたしが死ぬのもイヤ! もちろん、琥珀も!」

『……じゃあ、どうしますか?』


「ヴァリマに当たんないで、全部落とす。イル王子がやったように!」

 そう言ってから、

「あ、でも、琥珀はどうしよう。ここにいたら危険かな……」

 琥珀のことを考えてると、カァが出来るのですか? と聞いてきた。

 出来るか、じゃない。わたしはまた、ぎゅっとエィラを握った。


「……やるんだ。勉強もスポーツも出来なくていい。だけど、それだけはやるんだ」

『あの子は、あなたに危険な目にって欲しくないと思っているはずですが』

「それはわたしもだよ。イル王子に何かあって欲しくない。それにわたしがどんな目に遭っても、イル王子には関係ない。責任もない。わたしがそうしようと、決めたんだから。わたしは弱いけど。年下だけど。女の子だけど」

 男子としての意地である。イル王子の言葉が、頭の中でまた繰り返された。


「男の子に意地があるように、わたしにも……女の子にも意地がある。女の子だって、男の子を助けたいって思うもの。イル王子を助けたいんだもの!」

 わたしは空の上、光り続けているヴァリマを指差した。


「あそこまで行く。だからカァ。力を貸して!」

『──はい。私の力、全てあなたにお貸しします』

 カァの声は何だか、嬉しそうに聞こえた。


『でも、どうします? 遠隔操作であなたを飛行させること自体は可能ですが、あなたの体がついてこられるか』

「出来ないの?」

『そうですね……速度のある乗り物に初めて乗るようなもの、という感じでしょうか。地球ですと、バイクとかいうものが想像しやすいでしょうか。運転したことは?』

「ないよ。パパのバイクの後ろに乗せてもらったことはあるけど、わたしの年じゃ免許が取れないもの」


『では免許もなく、初めてバイクを運転したとしましょう。エンジンをかけます。さあ。操作技術のないあなたは、どうなります?』

 ちょっと考えて……、

「振り落とされる、かな?」

そう答えた。


『正解です。私はエィラのコントロールは出来ますが、あなた自身がマシンについてこれらなければ、どうにもなりません。バイクならば振り落とされないよう、必死にしがみつけるかも知れませんが』

「……しがみつく?」

 その言葉に、あることが思い浮かんだ。


「琥珀、あれ! あれ持ってきて!!」

 それを使う仕草しぐさを、琥珀に見せた。

 すると琥珀はわかった、と言うかのように、わう! と返事をし、それを取りに走り出した。


『何をする気ですか?』

 見送りながら、カァの質問に答える。

「振り落とされないよう、つがみついてればいいんだよね?」

 琥珀はすぐに戻って来た。わたしがお願いした物を、上手にくわえて。


 ありがと、と琥珀をでてから、

「じゃあ。こんなのは、どう?」

受け取ったものを手にして、軽く振ってみせた。

『こんなの、とは?』

「これだよ。わたしの宝物!」


 わたしはエィラのついたブレスレットを外し、宝物である、それの持ち手側に付け変える。

 それからカァに言われた通り、琥珀にエィラのかけらを振りかけた。

「これでいいの?」

『はい。簡易的ですが、バリアのようなものです。エィラがコハクを守ってくれるでしょう。ですが、長時間はもちません。効果が切れる前に、全てのヴァリマを地表に落とさなくては。準備はいいですか?』


「いつでも」

 うなずいて、琥珀に目配めくばせする。

 すると琥珀は、わぅ! と元気に返事した。

 宝物は、パパからもらった傘。

 その傘の持ち手側にエィラを付け、本体部分にまたがったわたしは、カァに呼びかける。

「──カァ。行こう!」

 

 さあ。ここからがわたしの、本当の冒険の始まりだよ!!

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