第43話
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わたしは宣言通り、合宿の終わったあと、夏休みの間中、カメラを構えることはなかった。それでも設定をイチから作り直したり、レンズやカメラボディを磨いたりして、カメラには触れていた。ふとシャッターに指がかかった時、その指がわななくのを感じた。バカなことをしてしまった、と後悔にかられる。本当に、3人が死んでしまったらどうしよう。
コックテイルを見るのもフィルグラを見るのも怖かった。でも、安心の気持ちをすぐにでも欲しかったわたしはアプリを立ち上げる。
エミリーも文月も谷川くんも、みんな毎日新しい投稿をアップしていた。わたしの気持ちなんておかまいなしに、仲間との動画を、かわいい食べ物の写真を、素敵なインテリアを、次々とアップしていた。そして、たくさんのいいねをもらっていた。
誰も死んでなどいなかった。
なんだか、本気で心配していたわたしがバカみたく思えた。実際にわたしはバカだった。エミリーが言うように、わたしはただの女子高生で、人の運命を変えられるような神様などではないのだ。
夏休みの終わる手前に、悠馬さんが再びわたしの家を訪れてくれた。
「高階さんには、本当に失礼なことをしました。お詫びします」
深々と頭を下げる悠馬さん。わたしもそれに合わせるように頭を下げた。
「留学先に戻ります。本当は家族写真を高階さんにお願いしたかったけれど、それはいつかの将来に取っておきます。それを伝えに来ました」
わたしは、もしかしてそのオファーを受けられる未来があるかもしれないと思った。思ったけれど、言わなかった。
わたしはカメラを持たずに、それでも写真の勉強を始めた。3人が生きているのなら、わたしは写真を撮るべきだ。完全に進路を決めた。写真学部のある大学に進みたいと思った。
だから夏休みが明けるのがとても怖かった。
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