第40話
ガラガラガラ、という扉の開かれる音でわたしは目を覚ました。マダムの夢を思いかえそうとしたけれど、写真を抱えて入ってくる萩原先生の表情が厳しくて、現実に引き戻される。満足する作品がなかったのだろうか。
先生は無言で、9枚の写真を黒板に貼り出す。
斉藤先輩と蜂飼くんはモノクロで撮影している。貼り出された写真を見て、ふたりが息をのむ音が聞こえた。
「早速、講評に移ろう。
まずは斉藤。流石のクオリティだ。このくらいの写真が撮れていたらインハイ予選は通過したと思うんだけどな。組み写真が苦手だから仕方がないけれど、今回のこの写真にはストーリーを感じることができる。露出も適正、光の捉え方も悪くない。確実に上達しているぞ。いい写真だ」
斉藤先輩の作品は運動部の人たちを撮影したものだ。走り終わってすぐだろう、滴る汗、その息遣いまで感じることができる。止まっているのに躍動感が伝わってくるなんて、すごい写真だ。斉藤先輩、絶対にいい写真を撮り続けることができる。
わたしがそのことを伝えようと斉藤先輩の方を向くと、先に先輩が声をかけてくれる。
「ヒーコのカメラ、難しかったよ。でも、瞳オートフォーカスって便利だね。わたしもミラーレス一眼に乗り換えようかな」
そして、わたしにカメラを手渡しながら言う。
「しかし、ヒーコの写真はヤバいね」
わたしはその意味を図りかねて首をかしげる。さらに先生の発言でその疑問は大きくなる。
「高階のは最後にまわす。先に蜂飼のを見てみよう。
オーソドックスないい写真だ。人物の表情をよく切り取っている。でも、被写体と蜂飼との間に交流が感じられない。なんというか証明写真みたいなんだ。それではアートとしての写真としては物足りない。コミュニケーションスキルが問われるわけだが、それはこれからの課題だろう」
蜂飼くんの写真は確かに硬い感じがする。悪くないけれど、印象には残らない。写された3人はみんな男の子で、顔に表情がない。たぶん蜂飼くんは人物を撮るのが苦手なんだろうと思う。彼に見せてもらったポートフォリオは、その多くが山の風景のものだった。撮影のために登山にもゆくらしい。ひょろひょろっとしているけれど、結構体力があるのかもしれない。これも先生の言っていたフォトグラファーの大事な要素だ。そういえば、彼の持ってきた寝袋はお兄ちゃんのよりさらに高機能な感じがした。
蜂飼くんは、素質を基礎訓練で高めていっている最中なのかもしれない。コミュニケーションをうまく取れるようになったら、写真の腕も、ぐんとあがるような気がする。
「そして問題は高階だ。おまえ、これどうやって撮った?」
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