第39話

 わたしは無事に3人のポートレートを撮影することができた。

 メモリーカードを萩原先生に手渡す。写真は先生がチョイスしたものをプリンターで印刷する。

 それを待つ間、わたしたちは朝ごはんの残りを昼食にいただく。だいぶ遅い昼食になった。

 3人とも時間制限めいっぱい、メモリーカードめいっぱいの撮影をした。そこから写真を選ぶ萩原先生も大変だろう。

 さすがにわたしもおなかが空いたみたいで、マフィンをぺろりとたいらげた。でもその食事は、味わうことなしにただ口からお腹に詰め込んだものだったように思う。時間の経ったガムみたいに味気なかったのは、わたしの心が宙をさまようようだったからかもしれない。放心したわたしは、いつの間にか机に突っ伏して眠っていた。


 夢を見た。

 真っ赤な夕暮れ。飛び交う蝶、わたしはひとりでカメラを構え、その蝶を写真に収めようとする。それなのに、シャッターが重く、切ることができない。ああ、こんな光景、もう一生かかっても出会うことができないかもしれない。それなのにカメラはいうことを聞かない。手元をよく見れば、あのヒスイ色の大きな蛾がわたしの指を押さえつけ、シャッターを押せないようにしている。

「やっぱり撮って欲しくないの」

 わたしはあきらめるようにつぶやく。するとそのヒスイ色の蛾はわたしの指をよじ登り、やがてゆったりとはばたく。わたしの上を何回も何回も旋回する。わたしはファインダーを覗き、その蛾をとらえる。シャッターを切る。ばふぉん、と音がして、そのヒスイ色の蛾はマダムの姿になる。

「あなた、写真をアップするというから、わたくし、空の上で待っているのよ」

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