第28話

 ♦︎


 わたしはしばらくの間、抜け殻のように過ごした。そうしたら期末テストの結果が(赤点はなかったものの)散々だったので、さすがにこれはやばい、と思うようになった。気合いを入れて勉強をしなければならない。将来の夢が見定まらなくなってしまった今、とにかく何か勉強しないといけないと焦る気持ちになった。

 あー、やっぱり、わたしフォトグラファーになろうとしてたのかな。

 大きくかぶりを振って、わたしは気持ちを切り替える。さっさと宿題をしてしまおう。

 あー、わたし、どうしたいのかな。わたし、どうなっちゃうのかな。


 煮え切らない気持ちで過ごしているうちにあっという間に夏休みに入った。写真部の合宿は、夏休みの後半に組み込まれたから、わたしは家にこもって宿題をする日々。誰とも、文月とさえ会わなかった。メッセージのやりとりはしているけれど、遊ぶ約束は交わさなかった。

 なんて夢のない高校2年生の夏休みだ。

 目的なく、ただ宿題だけをこなしているうちに、気がつけば写真部の合宿の日になってしまった。なんの準備もしていなかったけれど、斉藤先輩の

「来なかったらわたしの内申に響くんだからわかってるわよね」

 という脅しに屈してしまった。もちろん、そんなこと無視してもよかった。無視してもよかったのに、わたしはカメラを取り出す。

 久しぶりに取り出したわたしのミラーレスカメラはひんやりとしている。


 合宿参加者は3年の斉藤先輩。1年の蜂飼はちかいくん。今年、わたしと蜂飼くんが入部したので写真部は存続することが出来た。ちなみにわたしは1年の時は美術部に在籍していた。その当時、写真部の3年生が仲良く撮影会をしていたり、演劇部や軽音部の写真撮影に駆り出されるのを見て、とても気になっていたのは確かだった。美術部もそれなりに楽しかったんだけれど、お兄ちゃんからもらったカメラが大きさの割にずっしりしていて、その重さが嬉しくて、絵筆をカメラに持ち替えた。

 このカメラ、そういえば無理をしてもらったのだったな、と思い出す。お兄ちゃんが新しいカメラを買う時、本当は下取りに出すつもりだったみたい。お兄ちゃんが気まぐれに

「ヒーコ、使ってみる?」

 と聞き、わたしが使ってみたい、なんて言ったものだから、お兄ちゃん、ちょっとびっくりしたみたい。それで、お兄ちゃんは、そうかそうか、と嬉しそうにレンズと合わせてカメラ一式をプレゼントしてくれた。

 お兄ちゃんは何も言わないけれど、心の底では、わたしに写真を続けて欲しい、って思っているんだろうな。

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