第29話
「はい、ではこれから写真部の合宿を始めます。
まずはじめに今年の写真インターハイの結果を発表します。
っ惨敗でしたー!
ああ、ちくしょう。それもこれもわたしの実力が足りなかったためです。毎年北海道に行っていた先輩方に申し訳ない結果となりました。ふたりはまったくの初心者だったから仕方ない。すべてわたしの不甲斐なさゆえです。ごめんなさい! でも、このままで終わるつもりはありません。来年こそは北海道に行ってもらいたい!」
斉藤先輩は本当に悔しそうに叫ぶ。北海道、ゆきたかっただろうな。インハイ全国大会の会場は毎年北海道で、数日かけて開催される。
「あ、でも、部員増えなかったらどうするんですか?」
いつでも冷静な蜂飼くんが発言する。
「ふふふ、その心配はいらないよ、ハッチー。なぜならわたしの妹がこの高校に入学するから。そして、妹はわたしが英才教育を施しているのです! 正直、わたしよりも才能あると思う。だから、どうしても来年は何とかしたいと思っている」
またわたしに対するプレッシャーだ。
「いつもの夏合宿は、選手権の結果をふまえたシューティング合宿だったけれど、今年はふたりに中級を飛び越えて上級カメラマンになってもらうため、しっかり写真の基礎から叩き込みます。では早速ですが、講師の萩原先生よろしくお願いします」
萩原先生はわたしの担任でもある国語教師。見た目はただのおじさんだけれど、感性が結構若い感じ。
「斉藤、だいぶ芝居がかってるな。でも、その心意気は買うぞ。
はい。では今年の合宿について説明しよう。リラックスして聞いてくれ。
今日は、写真の歴史をかいつまんで話す。やっぱりそういうの、オレは大事だと思うんだよね。フィルグラ映えもいいけれど、写真の魅力はそれだけじゃない。テキストも作ったから一緒に写真について学んでみよう。今日の最後にはレポートを提出してもらう。1日目はそこまで。そして、2日目の明日は当日に課題を発表する。選手権の雰囲気に慣れようということだ。
では、よろしく」
萩原先生がプリントを手渡してくれる。束ねられたコピー紙は結構、厚い。そのテキストを用いて写真の歴史が語られる。
萩原先生の話は、なかなか面白かった。国語教師なのに、世界の歴史のこともよく知っていて感心する。それだけ写真は歴史に大きく関与したということだろう。ま、ただの写真オタクなだけかもしれないけれど。
「それじゃ、レポートよろしく」
わたしたち3人は教室に残されてレポートを書く。
原稿用紙を埋めるシャープペンシルの滑る音が耳に心地いい。わたしもペンを走らせる。外からは運動部の掛け声が聞こえてくる。
レポートを書き上げると、それぞれに発表の時間を持った。3人とも視点が違うから面白い。わたしのレポートはふたりにはどのように届いただろう。
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