第23話

 月曜の朝、空はバカみたいに晴れていた。昨日の夕方から続く梅雨の晴れ間というやつで、それはなんだか余計にわたしを憂鬱にさせる。

「おはよう、ヒーコ」

「おはよう、文月」

 それでも日常は続いてゆく。

「おはよう、ヒーコ」

「あ、おはよう、エミリー」

 エミリーがおはようなんて声をかけてくるのは珍しい。わたしは悠馬さんとの会話を思い出して身構える。

「ヒーコ、あんたが茨木さんの写真を撮ったんだって」

 満面の笑みでエミリーが言う。

「うん。まあね」

「じゃあ、今度はわたしを撮ってよ」

 わたしは、曖昧に笑みを浮かべる。

「何? 撮ってくれないの?」

「あー、うーん」

「なんで? あんなに素敵に撮れるのに」

「うーん、どうしても」

「わたしを撮るのが嫌だってこと?」

 エミリーの表情がどんどん険しくなる。

「いや、そうじゃなくて。なんて言えばいいかな。もうわたし、写真撮らない」

「は? 何それ。どういうこと」

 エミリーは完全にお怒りモードだ。わたし、もう学校来られなくなっちゃうかも。

「どうということもないけど、撮らない」

「意味がわかんない。茨木さんのことは撮影できてもわたしがダメなのはなんでよ」

「あー、もう。わたし、写真やめたの」

「なんで」

「だって、いやだから」

「いや、って何よ。なんなのそれ」

「あー、もう、わたし、人を撮りたくないんだって!」

 たまらず大きな声を出す。教室中の視線がわたしたちに集まる。

 エミリーが瞳を大きく開く。そして、低い声で脅すようにわたしに言う。

「ちょっと、あんた、スマホ出しなさいよ」

 わたしはエミリーに気圧されて、渋々スマホを取り出す。

「ロック解除して」

 ロックを解除するやいなや、エミリーがわたしのスマホを取り上げる。さっと操作して、わたしの腕を取る。

「さあ、わたしを撮りなさい」

「なっ」

 エミリーはわたしの腕を握り、わたしの手のひらを取り、無理やりスマホの画面を触らせようとする。

「ちょっと、やめて、エミリー、何?」

 カシャン、とシャッターの切れる音がする。

「ふん! あんた、神様にでもなったつもり? 冗談じゃない! 茨木さんはあんたが撮影したから亡くなったていうの? 思い上がるのもいい加減にして。そんなわけ、あるわけないじゃん! 冗談じゃない。茨木さんは、本当に本当に、素敵で、美しくて優しくて、だからあんたが殺せるはずない! バカじゃないの! わたしだってあんたに撮影されたくらいで死んだりしない。冗談じゃない! わたし、絶対に死なないから!」

 エミリーがわたしの手を離す。スマホが床に落ちる。わたしはひっくり返ったそれをしばらくじっと見つめていた。

 教室中がざわついている。

「お、なんか変な雰囲気だな」

 担任の萩原はぎわら先生が教室に入ってくる。

 わたしは慌ててスマホを拾った。画面にヒビは入っていなかった。その代わり、鬼のような形相のエミリーが画面いっぱいに映し出されていた。

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