第24話
その日の帰り道、いつものように文月と一緒に歩く。朝の快晴とはうってかわって空はどんよりと曇っている。雨はまだ、降っていない。
「ヒーコが写真撮らないっていうの、わたしは分かるよ」
教室にいた文月は、もちろんエミリーとのやりとりの一部始終を知っている。
「ありがと、文月」
文月が足元の小石を蹴る。
「わたし、ヒーコとは別の意味で、マダムが亡くなったこと、ショックだったんだよ」
わたしに視線を向けることなく文月は続ける。
「なんでマダムが病気だって気づいてあげられなかったのかなって。わたし、ずいぶん前にね、街でマダムが杖をついて歩いているのを見たことがあるんだよ。でも、お屋敷で会ったマダムは別人のようで、だからあの時までちっとも気づいてなかった」
文月は下を向いたまま、また小石を蹴った。
「あの時、マダムが棺桶の中に入っている時、あ、この人見たことあるって思ったの。真っ白な顔で、それは、つまりちょっと病的な感じに白かったの、杖をついていたマダムはね。その表情にそっくりだったの。だからたぶん見間違いではないと思うんだ。わたし、けっこう気さくにマダムに接していたんだけれど、それってとても失礼じゃなかったかな、もしかして体に負担をかけていたのじゃないかなってすごく後悔してるんだ。もちろん、わたし、医療の知識なんて全然ないから、マダムにしてあげられることなんて何にもないんだけれどさ。何にもない自分にすごく腹が立って。それで、ヒーコが写真撮るの怖くなるのも分かるんだよ。全然、因果関係なんてないんだけれどさ、でも、何かしらきっかけになったのじゃないかって不安になるんだよ」
文月が曇り空を見上げる。
「でもね、ヒーコに怒られるの承知で、わたしは言うよ。ヒーコ、写真、やめないで」
「なんで、文月まで」
「わたし、ヒーコの写真はマダムの何かを救ったような気がするの。これはただの勘だけれど。じゃなきゃ、その届けてもらったっていう謝礼も払おうとはしないだろうからね。お金持ちってそういうとこ、逆にしっかりしてるから。それで、ヒーコは写真を撮り続けるべきだし、わたしは、マダムに対して恥ずかしくない生き方をしなくちゃならないと思ったの」
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